第10話 邪気の存在
ゲクトと黒性は街の安全を守るため、出勤しようとする前に松村を連れて行った白髪の女性がいた。
「改めて、初めましてゲクトくんと黒性さん。
私は齋と言います。」
齋は俺達を人間寮に連れて行った。
あの件に問い詰められるのかと思ったが、あの時のような笑顔の奥に怒りが見える顔ではなかった。
誰もいない会議室のような場所で、ホワイトボードが置いてあった。
黒性は部屋の前の椅子に待機させられた。
俺は中に入り、パイプ椅子に座った。
「さて、ゲクトくん。会ったのは昨日ぶりですね。
馬鹿松村が迷惑をかけたわ。それから・・・」
やっぱり説教をされるのかと、テンションが下がる。
しかし違った。
「ゲクトくんは邪気についてどのくらい知ってる?」
「え?人を食うくらい・・・。」
「世間はそのような知識でしょう。
けど、邪気課において浅い知識では難しい。」
「なんか覚えないといけないの?勉強は嫌なんだけど。」
「ゲクトくんなら簡単に覚えられるわ。」
齋は目の前のホワイトボードに邪気について書き始めた。
邪気の種類についてだった。
邪気は主に三つの種類に分けられている。
生物を模した邪気、物質を模した邪気そして概念を模した邪気がいる。
食の邪気は概念の邪気、黒性のガンの邪気は生物の邪気、咲野玲の血の邪気は物質の邪気と、身近な邪気で例えてくれた。
さらに、邪人にも分類があって、ゲクトや黒性のように体の一部が邪気になる邪人もいれば、咲野玲の血の邪気のように邪気を呼び出す邪人もいる。
ゲクトや黒性のような邪人は血を消費し体を再生する。そういう存在を通称、「邪気人間」という。
また、邪気人間の中には邪気が人の身体能力だけを上げる場合もある。
それから、一番厄介な邪気は概念の邪気だそうで、邪気によって攻撃の手段が全く異なることがある。
「私達邪気課はとある邪気を追っています。
それは娯楽の邪気。」
「娯楽?」
「その邪気は名前に反して、多くの人間を殺してきた。
現在はアメリカとロシアが契約をしています。」
「日本もすりゃいいじゃん。」
「娯楽の邪気との契約には多大な犠牲を払わなければならない。
そもそも、討伐対象と契約するのも無理な話です。
あの邪気の契約の内容は定かではありませんが、到底、私達はいいことには使われませんよ。」
「じゃぁ、どうやって殺すんだよ。」
「まだ娯楽の邪気の場所は分かりませんが、見つける前に日本中の邪気を倒さなければなりません。」
娯楽の邪気の判明している能力は娯楽の邪気の支配下にいる邪気による力の増幅があるそうだ。
娯楽の邪気の体液を取り込んだ邪気は力が増える。
少し前では、ロシアの契約で娯楽の邪気が日本の関東地方で大量の死者を出した。
その大量殺人の事件は俺が小さい頃に耳にしたことがある。
その事件が娯楽の邪気が原因だとは知らなかったが、ニュースで同じ映像を何度か見ていた気がする。
「邪気を殺すのは好きだぜ。金いっぱい貰えるし。」
「いいね。原井が言ってた通りおもしろい。」
原井が言っていたのか・・・。俺がおもしろって。
結構冷たい人だけど、実はだったり。
もしかしたら・・・。
「ゲクトくん?大丈夫?」
つい思考が巡って、齋さんを無視してしまった。
事は済み、立ち上がり扉に手をかける時に齋さんは言った。
「今日、ゲクトくんと黒性さんは駅周辺で見回りをしてください。」
俺は返事をして、部屋を後にした。
近くの椅子で座っていた黒性を呼び、駅に歩き出した。
駅までの大通りにはいつの時間も車が走っている。
駅に着いてからは駅の中で休んでいた。
「邪気ってあんまいないんだなぁ。
全員殺して、平和になって・・・」
独り言を俺が呟いた。
黒性はずっと無言で、何を話しても頷いてすらもらえない。
咲野玲といる時より暇だった。
窓から見える外を眺めて、頬杖をついていると外が騒がしくなってきた。
邪気かと胸を高鳴らせる。
しかし期待と裏腹に、路面電車が通っただけだった。
近くのテーブルで同じようにあの電車を見ている二人組の会話によると、珍しい電車のようだ。
そのせいで人が集まっているらしい。
今日は駅の周年記念としてあの路面電車が登場している。
確かに駅付近の装飾が多いようにも感じてきた。
この雰囲気に惹かれて、俺と黒性はもう少し近くで見ることにした。
黒性は俺についてきただけだが。
警備員の数が多い方の奥には一車両の路面電車が見えた。
齋さんはこれを見せたいがために俺らはここに配置されたのか、それとも偶然か。
それはわからないけど、暇な時間を埋めるために行った。
一体何が人を惹きつけるのか、俺には感じられなかった。
でも珍しい物だろう。
路面電車がゆっくりと線路に沿って進む。
人の視線も右から左へと流れていく。
電車の後を追いかけて行く人もいる。
俺はその場から電車の尻を見つめていた。
俺の前を過ぎる頃、この電車の後方の線路からもう一つの線路を走る電車の音が聞こえた。
汽笛の高い音と黒い煙と一緒に、赤い波が順番に弾ける。
その波に飲まれる前に黒性が鳥の姿で俺を咥え、引き上げた。
靴底が揺れ、すぐ下の道路が赤く染まる。
汽笛を鳴らしたその電車は俺の目の前を線路に沿って進む。
しかし、その電車の形は円柱ではなく、車輪が付いている四脚に分かれた足、えびのように折れ曲がる腰、そして不気味に歯を見せ笑う蒸気機関車の姿。
その蒸気機関車の通る線路のそばの人々は次々に弾ける。
「邪気か!?」
路線の上を走るのは「列車の邪気」。
胸の奥にいるギアラは俺に告げる。
「あの邪気から娯楽の邪気の臭いがする。」
早速出てきた娯楽の邪気の体液を取り込んだ邪気。
俺は地面に降りて、電車の邪気を追った。
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