第2話:白マスクの少女と死の香り
#ホラー小説 #口裂け女 #90年代アニメ風 #創作
施錠されていたはずの生徒会室の扉が、ゆっくりと開いた。錆びついた蝶番の軋む音は、暗くなり始めた廊下で長い呻き声のように響き渡る。
エドはくるみへの抱擁を解いた。鋭い眼差しで扉の隙間を見つめ、先ほど目にした人影を探す。しかし、廊下は無人だった。ただ、鼻を突く鉄錆の匂い――生々しい血の匂いだけが、二人の肺を満たしていく。
「誰なのよっ!?」
くるみがヒステリックに叫び声を上げた。
返答はない。ただ一枚の、転校生の入会申込書が冷たい風に吹かれて舞い、エドの磨き上げられた靴の前に落ちた。
エドはその紙を拾い上げた。名前の欄には、凄まじい筆圧で、まるで濃い血肉のインクで書かれたかのような文字が躍っていた。
――裂様朱音。
翌朝、雛影高校は2年A組にやってきた転校生の話題でもちきりだった。そこは、エドとくるみが籍を置くクラスだ。
「自己紹介をなさい」
担任が硬い声で命じる。
その人影が教室の前に立った。腰まで届く漆黒のストレートヘアは、大理石のように白い肌と鮮やかな対比をなしている。しかし、クラス全員を沈黙させたのは、彼女の顔の下半分を覆う白い布マスクだった。見えるのは瞳だけ――深く、暗く、人間の感情を一切持ち合わせていない一対の瞳。
「裂様朱音です」
彼女の声は低く、奇妙な周波数で震えていた。
まるで喉の奥で二人の人間が同時に喋っているかのような不気味な響き。
「……よろしく、お願いします」
最後列に座るエドは、背筋が凍るのを感じた。彼の「論理」が、純粋な危険信号を発したのはこれが初めてだった。朱音がエドの隣の空席に向かって歩き出すと、沈丁花のような花の香りと、かすかな腐臭が彼女の足跡を追うように漂った。
エドの前に座るくるみは、「女王」としての威厳を示そうと身を翻し、朱音を冷ややかに見つめた。
「ちょっと、転校生。この学校では、重病でもない限り教室でのマスクは禁止よ。外しなさい」
くるみは、いつもいじめの際に使う見下した口調で言い放った。
朱音の足がピタリと止まった。彼女はゆっくりと、くるみの方を振り向く。その首の動きはカクカクとしていて、不自然極まりない。
「……この下のものを、見たいの?」
朱音が問いかける。その声は、分厚い布を鋏でじわじわと切り裂く音のようだった。
「外しなさいって言ってるの! もったいぶらないでよ!」
くるみは怒鳴り散らしたが、机の下の指先は小刻みに震え始めていた。
朱音はくるみの耳元に顔を寄せた。エドは横から、朱音の瞳が異様なほど大きく見開き、教室全体を丸ごと飲み込むような暗黒を放つのを目撃した。
「もし私がこれを外したら」
朱音は、エドにも聞こえるほどの冷徹な声で囁いた。
「……罪付さん。あなたの心の罪の深さよりも、私の顔の『穴』の方が、ずっと浅いことに気づくはずよ」
くるみは、まるで張り手でも食らったかのように激しくのけぞった。顔は土気色に染まっている。彼女は、他の誰の目にも映っていない恐ろしいものを見ていた――朱音のマスクの裏から、白い布に赤い血の染みが急速に広がっていくのを。その染みは、左の耳から右の耳へと続く、一本の長い水平の線を形作っていく。
朱音は次に、エドへと視線を移した。彼女は微笑を浮かべた――あるいは少なくとも、マスクの裏の顔の筋肉が笑っているかのように歪んだ。
「獄門くん」
朱音が静かに言った。
「君は秘密を集めるのが好きだろう? 私もこのマスクの裏に、とびきり大きな秘密を隠しているの。……君にはそれを解剖する勇気があるかしら?」
その瞬間、エドは恐ろしい事実に気づいた。朱音はただの転校生ではない。彼女は自分たちの罪を映し出す「鏡」だ。昨夜、あの生徒会室で自分たちが何をしたのかを、彼女はすべて知っている。そして何より恐ろしいのは……朱音が、ひどく飢えているように見えることだった。
朱音のスカートのポケットから、金属の先端が覗いているのをエドは見逃さなかった。それは、教室の明滅する蛍光灯の下で冷たく鈍く光る、銀色の鋏だった。




