第10話:獄門の最期の微笑み
#ホラー小説 #口裂け女 #90年代アニメ風 #創作
雛影高校全体が、まるで悲鳴を上げるように激しく震えていた。校舎の真上の空は、不気味な紅い雷鳴によって無残に切り裂かれている。瓦礫と化した資料室の中で、獄門エドは黒と黄金のエネルギーが渦巻く中心に立っていた。
彼のシルバーフレームの眼鏡は木っ端微塵に砕け散り、その奥にある瞳は今や完全な黄金色に輝いている。首筋から顔にかけて、棘に覆われた禍々しい赤黒い「門」を模した、古の呪印が這い上がっていく。それこそが、一族の血脈を覚醒させた彼の真の姿だった。
「……裂様朱音」
エドの声は低く、威厳に満ち、数千の寺院の鐘が同時に共鳴するかのように重く響いた。
「門の継承者として、これ以上君が魂を貪るのを許しはしない。……還るべき場所へ還れ」
朱音が甲高い笑い声を上げた。彼女の体は膨れ上がり、漆黒の長髪は鋭い触手のように蠢き伸びていく。体内の血が沸騰し、真なる裂様の血脈が完全に覚醒したのだ。手にある巨大な鋏は、冷たい蒼い炎に包まれていた。
「獄門ッ! 私をまたその暗闇に閉じ込められると思っているの!?」
朱音が叫ぶ。
「私の血は、消えることのない苦痛そのものよ! 君の祖父が私に刻んだ、あらゆる斬撃の痛みをその身で味わうがいいわ!」
――ドォォォォン!
二つの圧倒的な力が衝突した。朱音は常軌を逸した速度で肉薄し、空気を切り裂く鋏を真っ直ぐに振り下ろす。エドはそれを、黄金の霊的障壁を纏った片手だけで受け止めた。その凄まじい衝撃波が、階上のすべての窓ガラスを粉々に粉砕していく。
死闘の舞台は、嵐が吹き荒れる校舎の屋上へと移った。エドは一族の奥義を繰り出す。
「――獄門・百鬼夜行封印」
地面から黒い鎖が次々と蛇のように飛び出し、朱音の手足を強固に縛り上げた。
「放しなさいッ!」
朱音は悶え苦しみ、その圧倒的な力に抗うように暴れる。屋上のコンクリートが蜘蛛の巣状に砕け散っていく。
「……朱音、その鋏は君の武器じゃない。君を縛り続ける枷なんだ!」
エドは真っ直ぐに突進した。武器は持たず、眩い魂の光を放つ掌を朱音の心臓へと叩きつける。
「――魂魄の一撃:解放!」
視界を奪うほどの白光が爆発した。霊的次元の中で、エドは怪物の背後で声を上げて泣きじゃくる、本来の朱音の儚い姿を目にする。エドはその怪物の異形を強く抱きしめた――それは攻撃するためではなく、彼女が背負ってきた罪と怨念の重さを分かち合うための抱擁だった。
「……君の呪いは、僕が背負おう、朱音。……これで、すべてを終わりにしよう」
エドが静かに囁く。
血まみれになった両手に渾身の霊力を込め、エドはその巨大な鋏を真っ向から掴み取った。天を衝くような咆哮とともに、彼はその呪われた金属を真っ二つに叩き折る。
――バキィィィィン!
刹那、朱音の口から悲痛な、しかしどこか救われたような叫びが漏れた。怪物の体は燃え盛る沈丁花の花びらへと昇華し、虚空へと崩れ去っていく。顕現した獄門の力が、雛影高校を覆っていたあらゆる闇を、残さずその深淵へと飲み込んでいった。
夜が明け、猛烈な嵐は去った。
エドは校舎の屋上で、力尽きたように座り込んでいた。顔の呪印は消え去り、身体には凄まじい疲労だけが残されている。だが、彼の目の前には、確かに朱音の姿があった。――未だ白いマスクを着けてはいたが、その存在は透き通り、今はひどく穏やかな表情に見えた。
「……ありがとう、エドくん」
朱音が優しく、本来の少女の声で言った。
「二十年ぶりに……ようやく、顔の痛みが消えたわ」
朱音は眩い光の粒となってゆっくりと霧散していき、澄み渡った朝の空へと溶けるように昇っていった。
校舎の別の一角では、くるみが意識を失って倒れているのが発見された。彼女の顔の裂傷は奇跡的に塞がり、もはや悍ましさはなく、薄い痕跡を残すのみとなっていた。この異様な出来事の記憶はいつか薄れるかもしれない。しかし、その魂に刻まれた恐怖は、彼女が二度と他人を虐げないことを生涯にわたって保証するだろう。
エドはゆっくりと立ち上がり、ボロボロになった制服の襟を整えた。彼は昇る鮮やかな朝日を、以前よりもずっと大人びた眼差しで見つめていた。雛影高校の血塗られた秘密は、これで完全に葬られた。しかし、獄門の継承者として、自分自身の使命はまだ始まったばかりであることを彼は冷徹に理解していた。
制服のポケットの中に、一筋の鈍く光る「金の糸」が残されているのを見つけ、彼は微かに口角を上げる。
「……この世界は、まだまだ醜い秘密に満ちている」
静まり返った階段を下りながら、彼は誰に聴かせるでもなく独り言を漏らした。
「……そして、僕はそのすべてを、最後まで見届けるつもりだ」




