エピローグ
#ホラー小説 #口裂け女 #90年代アニメ風 #創作
半年が経過した。
雛影高校には、表向きの平穏が戻っていた。マスクを着けた女の噂は瞬く間に薄れ、代わりに大学入試にまつわるありふれた若者たちの話題が教室を占めるようになっていく。
罪付くるみは、もはや学園の「女王」ではなかった。彼女は今、静かな図書室で過ごす時間が多くなり、常に首元から顎の下までを隠す淡いスカーフを纏っていた。肉体的な裂傷は完全に癒えたものの、鏡の前を通るたびに、彼女は今でも反射的に視線を落とす。彼女は深く学んだのだ。真の美しさは他人の承認など必要とせず、ただ自身の魂の平穏こそがすべてであるということを。
校舎の屋上では、獄門エドがフェンスに身を預けて立っていた。彼はもう、あのシルバーフレームの眼鏡をかけていない。その剥き出しの瞳には以前とは異なる鋭い光が宿り、まるで現実の裏側にある「闇」までも見通しているかのようだった。
一人の一年生が、緊張した面持ちで彼に近づいてきた。
「獄門先輩……生徒会室の下駄箱に、先輩宛の手紙が入っていました。差出人の名前はありません」
エドは無地の白い封筒を受け取った。封を開けると、小さな金属の物体が彼の掌に転がり落ちた。
それは、錆びついた古い制服のボタンだった。1978年度モデルの、雛影高校の制服のボタン。
封筒の中には、整った筆致でこう記された一枚の紙切れだけが入っていた。
『門は開かれたわ、エドくん。私は、君たちの世界に負債を立て替えにやって来る多くの「真実」の、最初の一人に過ぎない。……この美しき地獄で、また会いましょう』
エドがその紙を握りつぶすと、それは彼の手の中で静かに黄金の塵となって消え去った。彼はそのまま、遠く校門の方へと目を向ける。そこには、葉の落ちかけた沈丁花の木の下で、白いマスクを着けた一人の少女が、風に消える直前に彼に向かって小さく手を振っている――そんな影が見えた気がした。
エドは微かに口角を上げた。それは恐怖からくるものではなく、次の獲物を待ち構える冷徹な狩人の笑みだった。
「……この世界は、やはり血を流し続けることを止めないらしい」
エドが静かに呟く。
彼は背を向け、歩き出した。コンクリートの床に長く伸びる彼の影は、本体よりも遥かに巨大で、より深い暗黒を湛えている。――それは、罪を犯す者すべてを永遠に飲み込もうと待ち構える、巨大な『獄門』の影だった。
【 完 】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
1998年の宮崎県を舞台に、都市伝説「口裂け女」と、過去の因縁を背負った少年・獄門エドの戦いを描いてきましたが、いかがでしたでしょうか?
冷徹なエド、狂気に呑まれたくるみ、そして悲しい過去を持つ朱音など、それぞれのキャラクターに愛着を持っていただけたら幸いです。
エドのポケットに残された「金の糸」や、ラストのメッセージが意味するものとは……?
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それでは、また次の「美しい地獄」でお会いしましょう。
本当にありがとうございました!




