閑話:第1回・黒猫様至高の献上品決定会議
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第一章:絶対秘密の地下会議
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ダンジョン街の最奥、元聖女エレナが営む『黒猫様のための献上品仕込み処』。
その地下に置かれた重厚な円卓に、世界の歴史を裏から揺るがすレベルの超巨大勢力のトップたちが集結していた。
「……集まってくれたな、同志諸君」
口を開いたのは、SSランク冒険者パーティ『赤き獅子団』のリーダー、ガルバだ。かつて失った足と仲間を黒猫様に救われて以来、彼は完全に『黒猫教』の筆頭信者となっていた。
円卓を囲むのは、錚々たる面々だ。
・不治の呪いを克服し、神聖魔力を爆発させた元・落ちこぼれ【聖女エレナ】。
・欠損した腕脚を取り戻し、ブラック魔王軍を返り討ちにして独立を果たした【魔導将軍ヴァルザック】。
・腱鞘炎とスランプを克服し、神代の技術を取り戻したドワーフの【頑固鍛冶師バラン】。
・枯れゆく世界樹と郷を救い、古代エルフ魔法を覚醒させた【老薬師シルヴァ】。
・砕かれた顎が完治し、裏社会の頂点へ登り詰めた【暗殺拳士ゴウガ】。
本来ならば国を揺るがす戦争が起きてもおかしくない面々である。
しかし、彼らの表情にあるのは殺気ではなく、血走った眼差しと「狂信」であった。
「単刀直入に言おう」
ガルバが力強く拳を叩きつけた。
「今回の議題はただ一つ……『黒猫様が最もお喜びになられる、真の至高の献上品とは何か』だ!!」
「「「「「異議なし!!!」」」」」
地下室に、猛者たちの咆哮が響き渡った。
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第二章:譲れぬ『味覚』のレスバ
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「では、まず俺から言わせてもらおう!」
ガルバが胸を張り、熟成干し肉の束をドンと卓上に置いた。
「肉だ! 噛めば噛むほど肉汁と香ばしさが溢れ出る高級干し肉こそ至高! 黒猫様もあの鋭い犬歯でガリリと噛み締め、大満足で俺たちの傷を癒やしてくださったんだぞ!」
「ふん、浅はかだな、脳筋冒険者め」
冷ややかに鼻で笑ったのは、魔導将軍ヴァルザックだ。黒い覇気を纏いながら、紫煙の燻製肉を突きつける。
「黒猫様は『神』であらせられる。ただの干し肉など舌が飽きるわ。魔界特産のオーク肉を三日三晩燻製にし、スモーキーな香りをまとわせた逸品……これこそが至高。現に黒猫様は、私の献上品を召し上がった後、あの慈愛に満ちた瞳で私を見つめられたのだ!」
「何を言うか、無骨な男どもめ!」
エレナが立ち上がり、銀のスープ鍋を掲げた。
「黒猫様のお口は大変デリケートなのです! 出汁をたっぷりと含ませ、フワフワにふやかした極上スープ仕立てこそ、至高の聖食! 熱すぎず冷ます手間まで考慮した私のスープこそ、最も黒猫様の愛を賜りました!」
「甘い! 甘すぎるぞお前たち!!」
ドワーフのバランが髭を揺らして大声を張り上げた。
「猫の本能とは何か!? そう、噛みごたえだ! わしが特製の窯で焼き上げた『超硬質クリスピー』のボリボリという咀嚼音を聞いたか!? あの時、黒猫様のお耳はぴんと立ち、至福の表情を浮かべておられたのだぞ!」
「いやいや、肉ばかりでは体に毒じゃ」
老エルフのシルヴァが穏やかに、しかし目は笑わずに割り込む。
「熟成された干し魚の芳醇な香り……あれこそが自然の理。世界樹を救う奇跡を賜ったのは、あの香ばしいお魚カリカリだったからに他ならん」
「……ジュレだ」
最後に、今まで無言だった暗殺拳士ゴウガが、ドスの利いた低音で呟いた。
「とろ〜りとした肉ジュレ……あれを舐められる黒猫様の可愛らしさ……いや、お姿こそ至高。異論は噛み砕く」
円卓は一瞬にして怒号の渦と化した。
「肉だ!!」「スープです!!」「歯ごたえじゃ!!」「魚じゃ!!」「ジュレだ!!」
地上を統べる英雄たちが、黒猫の『キャットフードの好み』を巡って本気で睨み合い、魔力と覇気が激突して地下室の天井がパラパラと崩れ落ちる。
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第三章:超理論による『奇跡』の着地
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「——ええい、静粛に!!」
エレナが聖杖を床に突くと、眩い神聖光が部屋を包み込み、全員がハッと息を呑んだ。
「争っても意味はありません! 私たちがここで血を流したところで、黒猫様がお喜びになるわけではないのです!」
エレナの言葉に、猛者たちは毒気を抜かれたように黙り込んだ。
「……ふっ、そうだな。俺たちは愚かだった」
ガルバが自嘲気味に笑い、頭を掻く。
「そうだ……考えてもみろ。俺たちが持って行ったカリカリは、どれも種類がバラバラだった」
ヴァルザックが静かに言った。
「だが、黒猫様は……そのすべてを『美味い』と召し上がり、我ら愚かな人間に『毛繕い(奇跡)』を賜った」
バランがボロボロと涙をこぼす。
「そうじゃ……硬かろうが柔らかかろうが、肉だろうが魚だろうが……黒猫様は分け隔てなく、わしらの献上品を受け入れてくださったんじゃ……!」
「つまり……」
シルヴァが感極まった面持ちで天を仰ぐ。
「『すべてのカリカリは、黒猫様の慈愛の前において等しく至高である』……そういうことか……ッ!」
「「「「「おおおおお……ッ!!!!」」」」」
勘違いが極限まで加速し、円卓にいた全員が深々と涙を流した。
「決まりだな」
ガルバが固い決意を込めて宣言する。
「俺たちはこれから『黒猫様奉納連合』を結成する! 肉、スープ、燻製、硬質、魚、ジュレ……すべてのカリカリを極限まで高めた『全種類アソートパック』を開発し、定期的に最深部へ参拝するのだ!」
「異論はない! わしは黄金の器を量産しよう!」
「私は冷めない保温魔法のバッグを開発します!」
「魔王軍の流通ルートを使い、世界中の極上食材を集めよう」
こうして、地上最強の男と女たちは、黒猫様への「おやつ詰め合わせ」を作るために一致団結したのであった。
◇
そんな地上での熱い大狂乱など、知る由もない地下100階層。
(ふぁ〜あ……今日は肉の気分かニャ……それともお魚の気分かニャ……)
暗黒竜の頭の上で、黒猫のクロは「ん〜〜〜っ」と背中を丸めてぐーっと伸ばすと、幸せそうに二度寝の体勢に入るのだった。
(まあ、親切なニンゲンが持ってきてくれたやつを喰えばいいニャ〜)
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