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【連載版】ダンジョン最深部の黒猫様は極上のカリカリをご所望です  作者: あずきまんま


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第6話:顎を砕かれた暗殺拳士と、極上とろ〜り肉ジュレ仕立て

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第一章:顎を砕かれた拳士と、最最深部の死に場所

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裏社会において『砕神さいしん』の二名で恐れられていた流派・剛砕拳の達人、ゴウガ。

二メートルを超える巨躯と岩をも穿つ拳を持つ男だったが、今の彼は息も絶え絶えに地下100階層【奈落の淵】の冷たい岩肌を歩いていた。


「……くっ……ふ……!」


ゴウガの顔面、特にあごの周囲には血に染まった包帯が幾重にも巻かれていた。


数ヶ月前、ライバル流派の刺客が放った卑劣な毒暗器を受け、ゴウガの顎の骨は粉砕され、肉は腐敗と壊死を起こした。

腕利きの治癒術師を何人も頼ったが、特殊な毒気は骨の結合を拒み続け、激痛は一向に引かない。


顎が動かない。噛むことができない。

肉を喰らうこともできず、声を発することも叶わない。

武道家としての尊厳も、男としての誇りもすべて奪われ、廃業へと追い込まれたのだった。


「(……死に場所としては……悪くない……)」


ゴウガは包帯の奥で苦痛に顔を歪めながら、深い闇を見据える。

最近、地上で密かに囁かれている噂があった。


『地下100階層には神が存在し、カリカリなるお供え物を差し出した者は奇跡を賜る』


神に救いを求めるつもりなどなかった。ただ、一目その「絶対者」を拝み、死に場所としたい——それだけだった。


やがて、ゴウガの視界が大きく開けた。

マグマの焦げ付く匂いと、圧倒的な死の圧迫感。

その最最深部に鎮座していたのは、世界を平然と滅ぼし得るSSSランク魔獣『深淵の暗黒竜』であった。


「(……凄まじい威圧……これが神の守護獣か……)」


ゴウガが恐怖で息を呑んだ、その時だった。

暗黒竜の巨大な頭部、その鼻先の上で、ふわりと小さな影が揺れた。


夜のように深い漆黒の毛並み。尻尾の先だけがほんのりと白い、一匹の小柄な『黒猫』。

暗黒竜をクッション代わりにして、呑気に「あふぅ」と欠伸を噛み殺している。


『我なる神の御前である。……命の灯火が消えかかった人間よ、何をしに来た』


頭の中に直接響く暗黒竜の重厚な念話。

ゴウガは静かに膝をつき、平伏した。喋れぬ口の代わりに、懐から『ある物』を取り出す。



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第二章:とろ〜り肉ジュレの開栓と、ランランとする瞳

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ゴウガが取り出したのは、柔らかな革で作られた小さなチューブ状の袋だった。


顎が砕け、固形物を一切噛めなくなったゴウガが、命をつなぐために作り出した至高の品。

希少な高級魔獣の肉とコラーゲンを何日も煮込み、舌の上でとろける濃厚なペースト状に仕上げた『特製肉ジュレ』である。


「(言葉は届かずとも……これが私の持てる最後の至高にございます……)」


ゴウガがチューブの木栓を抜くと、ぷすり、と小さな音が響いた。

次の瞬間——ふわりと、濃厚で香ばしい肉の香気がダンジョン最深部の冷気に広がった。


暗黒竜の頭の上で「すやすや」と丸くなっていた黒猫——クロの耳が、ピクッ!と立ち上がった。


(……んニャ!?)


クロはパチッと目を開けると、すっと起き上がった。

鼻先をヒクヒクと動かす。香ばしく、冷たく、凝縮された旨味が空気を伝って鼻腔をくすぐる。


(な、なんだこの香りは……! カリカリの香ばしさとは違う、生肉の旨味がぎゅっと詰まったような……!?)


クロはトトトッと暗黒竜の角を伝って降りると、目の前に平伏するゴウガの前へと着地した。

ゴウガの手元、革チューブの先端を凝視する。

ゴウガが恐る恐るチューブの腹を指で押し込むと、ニュッと、先端からツヤツヤと光る漆黒の肉ペースト(ジュレ)が押し出された。


(とろ〜り……ペースト……!? 噛まなくても舐めるだけで美味い、あの『ちゅ〜る』的なやつだニャーーーーーッ!!)


クロの瞳が、ランランと黄金色に輝いた。



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第三章:高速ナメナメと、衝撃のアフターサービス

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「ふにゃ〜〜〜〜ッ!!(早く寄こすニャ!!)」


待ちきれないと言わんばかりに、クロはゴウガの手元に身を乗り出した。


ゴウガが息を呑みながらチューブを固定すると、クロは押し出される肉ジュレにペタリと舌を這わせた。


「ペロペロペロペロペロペロペロッ!!!」


目にも留まらぬ高速ナメナメ!


(んまーい!! なんだこれ、冷たくてプルプルで、口の中に入れた瞬間に肉の旨味が爆発するニャ! 噛む必要がないから、無限にペロペロできるニャ〜〜〜!!)


ゴウガは目の前の光景に呆然とした。

地下100階層の絶対者たる黒猫様が、自分手作りの肉ペーストを夢中で「ペロペロ」と舐めとっている。

あまりの愛らしさと、漂う圧倒的な神聖さのギャップに、ゴウガの全身に鳥肌が立った。


「(おお……黒猫様が……私のジュレを……!!)」


ニュッと押し出してはペロペロ、押し出してはペロペロ。

あっという間にチューブ一袋分が空になった。


「ふぅ……美味しかったニャ〜〜」


満足したクロは「ふにゃ〜」と甘い声を出すと、前脚で口元を丁寧にゴシゴシと拭った。

そして、最高のご馳走を届けてくれた大男ゴウガを見上げると、ひょいと膝の上へ飛び乗った。


「(な、黒猫様が私の膝に……!?)」


緊張でカチコチに固まるゴウガ。

クロは「ごちそうさまの毛繕い(アフターサービス)だニャ」とばかりに、ゴウガの顔周り——分厚い包帯が巻かれた『あご』に向かって、


ペロリ、ペロリ


と、温かい舌で一舐めした。


その瞬間——!


メキメキメキッ! ガチリッ!


「……ッ!?!?」


ゴウガの全身に雷が落ちたような衝撃が走った!

あごを包んでいた黒い毒気が、一瞬で聖なる光となって消滅する。

砕け散り、壊死していた顎の骨と筋肉が、まるで時間を巻き戻すかのようにカチリと完璧な噛み合わせを取り戻していく!


さらに——クロの唾液に含まれる膨大な神聖魔力が、ゴウガの全身の経絡を駆け巡る!


「(な……なんだ……この活力は……!? 拳の理が……波動の極意が……脳内に溢れ出てくる……ッ!!)」


それは単なる怪我の完治ではなかった。

剛砕拳の領域を超えた、神代の拳技『神砕拳しんさいけん』の完全なる覚醒であった!




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第四章:噛み締める歓喜と、黒猫様の二度寝

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「……あ……あぐ……っ!?」


ゴウガは震える手で包帯を引きちぎった。

恐る恐る顎を動かしてみる。上下の歯がカチリと音を立てて噛み合う。激痛など、どこにもない。


「顎が……動く……! 骨が繋がったぞ……ッ!!」


声が出た。数ヶ月ぶりに、自分の声で喋ることができた。

ゴウガは溢れ出る涙を拭いもせず、冷たい岩肌に何度も頭をこすりつけた。


「感謝いたします……! 感謝いたします、黒猫様……!! 再び肉を噛み締め、拳を振るう力を賜りました……ッ!!」


当のクロといえば、「ふぁあ」と大きな欠伸を一つ。


(よし、食後の運動ペロペロも完了ニャ。スープも美味いが、この“とろ〜りペースト”も捨てがたいニャ〜)


クロはゴウガの膝から降りると、爪をシャッシャッと研ぐ仕草を見せ、トコトコと暗黒竜の頭の上へと登っていった。

一番落ち着くポジションにすっぽりと収まり、幸せそうに目を閉じる。


ゴウガは深々と一礼すると、完璧に治った顎を噛み締め、みなぎる神の拳気を纏って地上へと帰還していった。



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終章:地上での『肉ペースト(ちゅ〜る)』大ブーム

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地上へ戻ったゴウガは、自分を死に追いやろうとしたライバル流派の暗殺者たちを、新技『神砕拳』の一撃で壊滅させた。


その後、裏社会を完全に引退したゴウガは、ダンジョン街の片隅に巨大な工房を設立した。


名付けて——『黒猫蛋白質開発処(黒猫様専用・至高の肉ジュレ工房)』。


かつて鬼と恐れられた強面の大男たちが、ゴウガの指導のもと、真剣な目つきで肉を煮込み、チューブへ詰めていく。


「おい! もっと細かくろ過しろ! 黒猫様の滑らかな舌触りを損ねたらどうするッ!」

かしら! 最上級魔獣のコラーゲン抽出、完了しました!」


その光景は異様であったが、噂は瞬く間に世界中を駆け巡った。


『最高級干し肉、出汁スープ、燻製、超硬質スナック、干し魚だけではない……!』

『黒猫様は“とろ〜り肉ペースト(ジュレ)”に目がないらしいぞ!!』


冒険者も、貴族も、料理人も、誰もが革チューブに入った肉ペーストを手にダンジョン最深部を目指すという、空前絶後の「ちゅ〜る献上ブーム」が巻き起こるのだった。


そんな地上での大狂乱など知る由もない地下100階層。


(う〜ん……次はカリカリ(固め)かな、ジュレ(柔らかめ)かな〜……)


暗黒竜の頭の上で、黒猫のクロは幸せそうに尻尾をパタパタさせながら、今日も長閑に次のご馳走を待つのだった。


(第6話 完)



ご覧いただきありがとうございます!


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