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『行ってはいけない場所に行った人だけが書き込める怪談集』幽霊より怖いのは、そこに置き去りにされた人間の悪意だった。  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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7/11

深夜だけ回る洗濯機

 そのコインランドリーでは、午前二時二十二分になると、誰も使っていない洗濯機が勝手に回り始める。


 場所は、住宅街の外れ。


 コンビニの跡地を改装した、二十四時間営業の古いコインランドリー。


 白い蛍光灯。


 くたびれた長椅子。


 壁に貼られた色褪せた注意書き。


 洗剤の甘い匂いと、乾燥機の熱。


 そこには何も特別なものはない。


 ただ、店の一番奥。


 八番の洗濯機だけは、昔から使ってはいけないと言われていた。


 硬貨を入れていないのに回る。


 中から、水ではないものが流れる音がする。


 終わったあと、取り出し口に誰かの服が残っている。


 それを持ち帰ると、三日以内に秘密が洗い流される。


 隠していたこと。


 なかったことにしたこと。


 汚れたまま畳んで、普通の顔でしまっておいたこと。


 全部、白日の下に干される。


     *


 宮原紗月は、洗濯が嫌いだった。


 正確には、夫の服を洗うのが嫌いだった。


 シャツの襟元に残る汗の匂い。


 靴下の湿った重さ。


 スーツ用のインナーに染みた、外の空気。


 それらを洗濯機へ放り込むたび、紗月は自分が誰かの人生の後始末をしているような気分になった。


 夫の啓介は、優しい人だった。


 少なくとも、周囲からはそう見られていた。


 大手住宅メーカー勤務。


 穏やかで、怒鳴らず、家事にも理解がある。


 子どもはいない。


 結婚五年目。


 共働き。


 近所の人たちからは、感じのいい夫婦だと思われている。


 紗月自身も、そう思われるように振る舞ってきた。


 けれど、夫婦の中身はとっくに乾いていた。


 啓介は帰りが遅い。


 休日も仕事だと言う。


 食卓で会話をしても、話題は天気と予定と買い物リストだけ。


 紗月が何かを話しても、啓介はスマホを見ながら「うん」と言う。


 その「うん」が、紗月は何より嫌いだった。


 聞いていない。


 でも否定もしない。


 だから責めにくい。


 優しい夫という外側だけが残って、中身はもう空っぽだった。


 そんな時、紗月は近所のコインランドリーで一人の男と出会った。


 秋山亮。


 近くの美容室で働く、三十代前半の男。


 最初はただの世間話だった。


 雨の日に乾燥機が混んでいて、待ち時間が重なった。


 亮はよく笑う男だった。


 人の話を途中で遮らない。


 紗月が何でもない愚痴をこぼすと、ちゃんと目を見て聞いてくれる。


「それ、しんどいですね」


 たったそれだけの言葉に、紗月は救われた気がした。


 救われた気になった。


 それが始まりだった。


     *


 不倫という言葉は、自分には似合わないと思っていた。


 ドラマの中の話。


 あるいは、もっと派手な女がすること。


 けれど実際には、不倫はもっと地味に始まる。


 洗濯物を畳む間の会話。


 乾燥機が止まるまでの十五分。


 雨宿りの延長。


 コンビニのコーヒー。


 誰にも見られていないと思える、深夜の明るい店内。


 紗月は、亮と会うためにわざと洗濯をためるようになった。


 家の洗濯機は壊れていない。


 それでも「毛布を洗うから」「乾燥だけ使いたいから」と理由をつけて、夜に家を出た。


 啓介は何も疑わなかった。


 いや、疑わないふりをしていたのかもしれない。


 それさえ、紗月には分からなかった。


 亮との関係は、ある夜を境に変わった。


 コインランドリーの閉店はない。


 客が誰もいない時間もある。


 乾燥機の熱。


 蛍光灯の白い光。


 外の雨音。


 亮が、紗月の手に触れた。


「宮原さんって、いつも我慢してる顔してますよね」


 その言葉が、鍵だった。


 紗月は泣きそうになった。


 我慢している。


 そう、私は我慢している。


 誰も分かってくれない。


 夫も。


 友人も。


 親も。


 私はずっと、きちんとした妻の顔をしている。


 その苦しさを分かってくれたのは、この人だけだ。


 そう思った。


 思いたかった。


 その夜、紗月は亮とキスをした。


 洗剤の甘い匂いの中で。


 誰かの服が乾燥機の中で回る音を聞きながら。


     *


 八番の洗濯機の噂を聞いたのは、常連の老女からだった。


 その日は、雨が降っていた。


 店内には紗月と老女だけ。


 亮はまだ来ていなかった。


 老女は白髪を一つにまとめ、古い買い物カートに洗濯物を詰めていた。


「あんた、奥のは使っちゃ駄目だよ」


 突然そう言われ、紗月は顔を上げた。


「奥?」


「八番」


 老女は顎で示した。


 店の一番奥にある、少し古い型の洗濯機。


 他の機械と同じように見える。


 ただ、扉の縁だけ妙に黒ずんでいた。


「壊れてるんですか?」


「壊れてるなら、まだいいけどね」


 老女は乾いた声で笑った。


「あれはね、夜中に勝手に回るんだよ」


 紗月は曖昧に笑った。


「怖い話ですか?」


「怖いかどうかは、その人次第だね」


 老女は洗濯物をカートに詰めながら続けた。


「昔、ここで女の人が死んだんだよ」


 紗月の笑みが薄くなる。


「事故ですか?」


「さあねえ。事故ってことになってるけど」


 老女は、店の奥を見た。


「その人、旦那に浮気されてたらしいよ。旦那のシャツを洗ってたら、口紅がついてたんだと」


 紗月は無意識に自分の唇に触れた。


 老女は気づいたのか、気づかないのか、そのまま話す。


「問い詰めても旦那は知らん顔。相手の女も知らん顔。近所も噂だけして助けない。最後はここで、夜中に一人で洗濯してた」


「それで……?」


「八番の中に入ってたんだって」


 紗月は眉をひそめた。


「入ってた?」


「人が入れる大きさじゃないのにねえ」


 老女は笑った。


 笑い話ではない声だった。


「それから八番は、汚れを落とすんじゃなくて、隠し事を落とすようになった」


「隠し事?」


「持って帰っちゃ駄目だよ」


 老女は言った。


「あれが吐き出した服は、持って帰っちゃ駄目。誰の服に見えてもね」


 その時、店の自動ドアが開いた。


 亮が入ってきた。


「こんばんは」


 紗月の心臓が跳ねる。


 老女は亮を一瞥し、それから紗月を見た。


「洗っても落ちない汚れって、あるからね」


 そう言って、老女は出ていった。


     *


 亮との関係は、三か月続いた。


 長いのか短いのか、紗月には分からない。


 ただ、その三か月の間だけ、紗月は自分が女として見られている気がした。


 妻でも、同僚でも、近所の奥さんでもない。


 ただの女。


 その甘さは、紗月を少しずつ悪くした。


 啓介が帰宅しても、顔を見なくなった。


 夫の洗濯物に触れるのが、ますます嫌になった。


 自分の罪悪感を、夫への不満にすり替えた。


 寂しくさせたのは啓介だ。


 悪いのは啓介だ。


 私は傷ついていた。


 だから仕方なかった。


 そう言い訳すればするほど、亮に会う時間だけが正しく思えた。


 ある夜、啓介が言った。


「最近、よくコインランドリー行くね」


 紗月は洗い終えたタオルを畳みながら答えた。


「乾燥機、便利だから」


「家の乾燥機能、使えばいいのに」


「時間かかるの」


「そう」


 啓介はそれ以上聞かなかった。


 その「そう」が、紗月を苛立たせた。


「何? 疑ってるの?」


 啓介は少し驚いた顔をした。


「いや、別に」


「だったら言わないで」


「ごめん」


 すぐ謝る。


 それも嫌だった。


 争うことすら避ける夫。


 何も見ていない夫。


 紗月はタオルを強く畳んだ。


 その夜、亮に会うと、紗月は泣いた。


「もう限界かもしれない」


 亮は優しく背中を撫でた。


「無理しなくていいんですよ」


「でも、どうしたらいいか分からない」


「紗月さんが幸せになれるほうを選べばいい」


 その言葉に、紗月は胸を締めつけられた。


 名前で呼ばれた。


 それだけで、すべてを捨ててもいいような気がした。


 だが、亮は一度も「夫と別れてほしい」とは言わなかった。


 紗月も、それに気づかないふりをした。


     *


 その夜。


 午前二時過ぎ。


 紗月は一人でコインランドリーにいた。


 亮から連絡が来なかった。


 既読もつかない。


 何度もスマホを見ながら、乾燥機の前の長椅子に座っていた。


 店内には誰もいない。


 蛍光灯がじりじりと鳴っている。


 洗濯機の表示ランプはすべて消えている。


 午前二時二十二分。


 店の奥で、音がした。


 ごとん。


 八番の洗濯機だった。


 表示ランプが勝手につく。


 硬貨は入れていない。


 誰も触っていない。


 それなのに、洗濯機は低い音を立てて回り始めた。


 水が流れる音。


 だが、普通の水音ではない。


 もっと重い。


 粘ついたものが内側を叩いているような音。


 紗月は立ち上がった。


 帰ればよかった。


 だが、足は奥へ向かっていた。


 八番の丸い窓の中で、何かが回っている。


 白い布。


 シャツ。


 男物のワイシャツだった。


 啓介のものに似ていた。


 胸元に、赤い染みがある。


 口紅のような。


 血のような。


 紗月は息を呑んだ。


 洗濯機はしばらく回り続け、やがて止まった。


 電子音は鳴らない。


 ただ、扉のロックが外れる音だけがした。


 かちり。


 中から、白いシャツが一枚出てきた。


 濡れていない。


 綺麗に畳まれている。


 胸元には、薄いピンクの口紅の跡。


 そして、襟の内側に名前が書かれていた。


 宮原啓介。


 紗月の頭の中が白くなる。


 啓介のシャツ。


 なぜここに。


 まさか。


 啓介も浮気している?


 そう思った瞬間、胸の中に妙な熱が生まれた。


 怒り。


 安心。


 そして、喜び。


 ほら、やっぱり。


 啓介だって裏切っていた。


 なら、私だけが悪いわけじゃない。


 紗月はシャツを掴んだ。


 持って帰ってはいけない。


 老女の言葉が脳裏をよぎる。


 だが、紗月はシャツをバッグに押し込んだ。


 これで啓介を責められる。


 これで自分も許される。


 そう思った。


     *


 家に帰ると、啓介はリビングで起きていた。


 午前三時。


 テレビもつけず、ソファに座っている。


「どこ行ってたの」


 啓介が聞いた。


 責める声ではなかった。


 それがまた、紗月を苛立たせた。


「コインランドリー」


「こんな時間まで?」


「あなたこそ、何してるの」


「待ってた」


「私を?」


「うん」


 紗月は笑った。


「珍しいね。私のことなんか見てなかったのに」


 啓介は黙った。


 紗月はバッグからシャツを取り出し、テーブルに叩きつけた。


「これ、何?」


 啓介の表情が変わった。


「……どこで」


「コインランドリー。八番の洗濯機から出てきた」


 啓介はシャツを見つめたまま、動かなかった。


「誰の口紅?」


「紗月」


「答えて」


「それは」


「浮気してたんでしょ?」


 紗月は笑っていた。


 頬が引きつっているのが自分でも分かった。


「ねえ、そうなんでしょ? あなたも私を裏切ってたんでしょ?」


 啓介は顔を上げた。


「君も、って何?」


 しまった。


 そう思った時には遅かった。


 啓介の目が、初めてまっすぐ紗月を見た。


 優しい夫の目ではなかった。


 疲れ切った、一人の男の目だった。


「紗月。俺、知ってるよ」


「何を」


「秋山さんのこと」


 部屋が静かになった。


 乾燥機の熱も、洗剤の匂いもない。


 ただ、自宅の冷たい空気だけがあった。


「……何言ってるの」


「見たんだ。何度か」


「違う」


「コインランドリーの前で、二人で車に乗ってるところも」


「違う!」


 啓介はテーブルのシャツに視線を落とした。


「そのシャツは、俺のじゃない」


「名前が」


「俺の字じゃない」


 紗月はシャツを掴んだ。


 確かに、名前の字が違う。


 子どもが真似して書いたような、不自然な字。


 宮原啓介。


 その文字が、じわりと滲んだ。


 ピンクの口紅跡が広がっていく。


 違う。


 これは証拠だ。


 啓介を責めるための。


 私が被害者になるための。


 なのに、シャツの布地が少しずつ変色していく。


 白から、淡いベージュへ。


 男物のワイシャツではなく、女物のブラウス。


 胸元に赤い口紅。


 襟の内側に、別の名前。


 宮原紗月。


 紗月は悲鳴を上げた。


 そのブラウスは、自分のものだった。


 亮と初めてキスした日に着ていた服。


 洗って、捨てたはずの服。


「何で……」


 啓介は目を閉じた。


「君、俺に言いたいことがあるんじゃないの」


 紗月は首を振った。


「違う。私だけじゃない。あなたが悪いの。あなたが私を見なかったから」


「そうかもしれない」


「そうよ!」


「でも、裏切ったのは君だ」


 その一言は、大声ではなかった。


 だからこそ、逃げ場がなかった。


     *


 翌日、紗月は亮に会いに行った。


 美容室の裏口。


 亮は煙草を吸っていた。


 紗月を見ると、露骨に気まずそうな顔をした。


「連絡、返せなくてすみません」


「昨日、どこにいたの?」


「ちょっと忙しくて」


「嘘」


 亮はため息をついた。


「紗月さん、落ち着いてください」


「夫にバレた」


 亮の顔が変わった。


 心配ではない。


 面倒なことになった、という顔だった。


「それは……大変ですね」


「大変ですね?」


「いや、俺にどうしろって」


 紗月の胸が冷えた。


「亮くん、私に言ったよね。幸せになれるほうを選べばいいって」


「言いましたけど」


「私、選ぶよ。啓介と別れる。だから」


「待ってください」


 亮は煙草を消した。


「俺、そういうつもりじゃないです」


 音が消えた気がした。


「そういうつもりって?」


「いや、紗月さんのこと嫌いとかじゃなくて。でも、旦那さんと別れて俺とどうこうっていうのは」


「私を好きって言った」


「好きですよ。でも」


「でも?」


 亮は視線を逸らした。


「重いです」


 紗月は笑った。


 乾いた笑いだった。


「重い?」


「俺、結婚とか無理なんで。そもそも紗月さん、旦那さんいるから安心だったっていうか」


「安心?」


「割り切れると思ってたんです」


 割り切れる。


 その言葉で、紗月の中の何かが切れた。


 亮にとって、自分は救われる相手ではなかった。


 ただ、夫がいるから本気にならなくて済む女。


 深夜の暇つぶし。


 寂しさを埋めるための、都合のいい相手。


 紗月は後ずさった。


「最低」


 亮は苛立ったように眉を寄せた。


「いや、紗月さんも同じでしょ。旦那さんに言えないから、俺のところ来てたんでしょ」


 何も言い返せなかった。


 その時、亮の店の中から若い女性スタッフが顔を出した。


「秋山さん、お客様来てます」


「あ、今行く」


 亮はすぐに仕事の顔に戻った。


 紗月は、その変わり身を見ていた。


 自分だけが、深夜のコインランドリーに取り残されているようだった。


     *


 その夜、啓介は家にいなかった。


 テーブルの上に、封筒が置かれていた。


 離婚届ではない。


 探偵の報告書だった。


 写真。


 日時。


 場所。


 コインランドリー。


 亮の車。


 ホテル。


 紗月はそれを一枚ずつ見た。


 知らない自分が写っていた。


 亮に笑いかける自分。


 夫には見せなくなった顔。


 その写真の最後に、一枚だけ変なものが混じっていた。


 コインランドリーの店内。


 八番の洗濯機の前。


 紗月と亮が並んでいる。


 その背後に、女が立っていた。


 濡れた髪。


 白い顔。


 胸元に赤い口紅のついたブラウス。


 紗月は写真を投げた。


 スマホが震えた。


 啓介からではない。


 亮からでもない。


 通知は、投稿サイト「夜見帳」からだった。


『下書きが保存されました』


 開いた覚えはない。


 なのに画面には編集ページが表示されていた。


 タイトル。


 深夜だけ回る洗濯機。


 本文欄には、すでに文章が入力され始めていた。


 私は、夫が私を見てくれないと言いながら、夫の孤独を見なかった。


 私は、寂しかった。


 でも、その寂しさを理由にして、裏切った。


 私は、相手の男に救われたと思っていた。


 けれど本当は、私に都合のいい言葉だけを拾っていただけだった。


 紗月はスマホを閉じようとした。


 閉じられない。


 文字は続く。


 夫のシャツに口紅を見つけたかった。


 夫も汚れていてほしかった。


 そうすれば、自分だけが悪いわけではないと思えるから。


 でも八番の洗濯機が洗い流したのは、夫の汚れではなかった。


 私が被害者のふりをするために畳んでしまっていた、自分の汚れだった。


 紗月は泣かなかった。


 もう泣いても、誰かが抱きしめてくれる場面ではなかった。


 投稿ボタンが押された。


     *


 その記事は、翌朝には拡散されていた。


 夫婦関係。


 不倫。


 コインランドリーの怪談。


 人は、そういう話が好きだ。


 コメント欄はすぐに荒れた。


『旦那さんかわいそう』


『でも寂しさも分かる』


『不倫相手が一番クズ』


『いや主人公が悪い』


『八番洗濯機こわ』


『洗濯機が回る音、もう聞けない』


 その中に、一件だけ、洗濯機のアイコンからコメントがついた。


『まだ汚れが残っています』


 紗月はそれを見て、すぐに画面を閉じた。


 啓介は帰ってこなかった。


 数日後、弁護士から連絡が来た。


 亮からは、何も来なかった。


 コインランドリーの八番は、その後すぐに撤去された。


 老朽化のため、と店には貼り紙が出た。


 だが、常連たちは知っている。


 撤去の日、八番の中から大量の服が出てきたという。


 男物のシャツ。


 女物のブラウス。


 子どもの体操服。


 会社の制服。


 どれも綺麗に洗われていた。


 ただし、襟元や胸元には、どうしても落ちない染みが残っていた。


 今でもそのコインランドリーでは、午前二時二十二分になると、どこかの機械が勝手に回ることがある。


 その時、店内に一人でいてはいけない。


 もし洗濯が終わった音がして、取り出し口に見覚えのある服が入っていたら。


 絶対に持ち帰ってはいけない。


 それは、あなたの服かもしれない。


 あなたが捨てたつもりでいた、いちばん汚れた日の服かもしれないのだから。

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