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夢の中の星

灯の腕の中で呼吸を整えていると、胸の痛みが少しずつ和らいでいくのを感じた。

灯は僕の背中を優しく撫でながら、何度も「大丈夫だよ」と繰り返してくれた。

その声は温かくて、でもどこか震えていた。

しばらくして、僕はようやく顔を上げた。

「……ごめん。ちょっと……思い出しそうになって」

灯は首を横に振った。

「謝らなくていいよ。私が……踏み込みすぎちゃったんだと思う」

その言葉に、胸が少し痛んだ。

灯は僕の肩からそっと手を離し、距離を半歩だけ戻した。

「星凪が苦しんでるのに……私、知りたいって気持ちが先に出ちゃって……ごめんね」

灯の声は静かで、でもその奥にある“好き”が隠しきれていなかった。

僕はゆっくりと息を吸い、灯の目を見た。

「灯のせいじゃないよ。僕が……まだ整理できてないだけだから」

灯は少しだけ目を丸くして、それから安心したように微笑んだ。

「……そっか。なら、よかった」

その笑顔は、さっきよりずっと自然だった。

でも、どこか寂しそうでもあった。

灯は空を見上げる。

「もう暗くなってきたね。今日は……ここまでにしよっか」

「うん。そうだな」

自然とそう答えていた。

灯は歩き出しながら、僕のほうをちらりと見た。

「星凪。また……一緒に出かけよ?」

その言葉は、告白じゃない。でも、告白よりずっと近かった。

胸がまた跳ねた。

「……うん。行こう」

灯は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、また明日ね」

そう言って、灯は反対方向へ歩いていった。

その背中は小さくて、でもどこか強く見えた。

僕はしばらくその場に立ち尽くしていた。

胸の奥にはまだざわつきが残っていた。灯の温かさと、弓月先輩の影と、あの夜の記憶の断片。

全部が混ざって、答えの出ないまま夜が深まっていく。





家に帰ると、部屋の空気がやけに静かに感じた。

灯と別れてからの道のり、胸のざわつきはずっと消えなかった。

鞄を床に置き、ベッドに倒れ込む。

天井を見つめながら、今日のことをひとつずつ思い返す。

灯の手の温かさ。

抱きしめられたときの匂い。

震える声。「隣にいたい」という言葉。

胸がじんわり熱くなる。

――灯のこと、嫌いじゃない。むしろ……。

そこまで考えて、息が詰まった。

灯の言葉が、あの夜の声と重なる。

『離れないで……!』

『大丈夫だから……!』

『星凪……こっち……!』

断片的な記憶が、また胸を締めつける。

「……っ」

額に手を当てる。頭の奥がじんじんと痛む。

灯の声と、あの夜の声が混ざる。そして――弓月先輩の声も。

あのときの弓月先輩の表情。冷たく見えたけど、どこか苦しそうでもあった。

なんでだ。なんであんな顔をしたんだ。

灯と一緒にいたから?それとも――。

胸がざわつく。

灯の温かさと、弓月先輩の影。どちらも僕の心を揺らす。

「……僕、どうしたいんだろ」

呟いても、答えは出ない。

ただ、胸の奥にある痛みだけがはっきりしていた。

あの夜の記憶。

光。

手。

泣き声。

誰かの影。

そして―僕の手を握っていた誰かの温度。

灯の手と重なる。でも、違う。

じゃあ、誰なんだ。

目を閉じると、星の瞬きが浮かんだ。




眠りについたのは、いつもよりずっと遅かった。

灯の温かさがまだ手に残っている。弓月先輩の冷たい視線も、胸に刺さったままだ。

どちらも気になって、どちらも頭から離れなくて、気づけば意識が沈んでいった。



暗い森。

冷たい風。

星がやけに近い夜空。

足元には濡れた土。

遠くで誰かが泣いている。

「……っ、は……」

息が白くなる。胸が苦しい。

誰かの手が、僕の手を強く握っていた。

小さくて、温かい手。でも灯の手とは違う。

「星凪……こっち……!」

声が聞こえる。女の子の声。必死で、震えていて、泣きそうで。でも――灯の声じゃない。

「離れないで……!お願い……!」

その声に胸が締めつけられる。

僕はその手を握り返そうとする。でも、指先が震えてうまく力が入らない。

「……誰……?」

問いかけた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

星が落ちてくるような光。

風の音。

泣き声。

誰かの影。

そして――

横顔。

長い髪。涙で濡れた頬。僕の手を必死に引っ張る女の子。

その顔が、ゆっくりとこちらを向く。

「星凪……!」

その瞬間――

弓月先輩の顔が重なった。

「……っ!!」

心臓が跳ねて、僕は飛び起きた。

息が荒い。額には汗が滲んでいる。

夢の中の光景が、まだ目の裏に焼きついて離れない。温かかった。

あの声は――あの横顔は――

「……弓月、先輩……?」

呟いた瞬間、胸が強く痛んだ。

灯の温かさと、弓月先輩の影と、あの夜の記憶。

全部が、ひとつの線で繋がり始めている気がした。

でも、まだはっきりとは見えない。

まるで、星の夜がまた近づいているみたいに。

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