橙色に染まる想い
弓月先輩の前に立つと、
さっきまでのショッピングモールの喧騒が嘘みたいに遠く感じた。
「……少し歩こうか」
先輩はそう言って、モールの外へ向かう。
灯が座っているベンチが視界の端に映ったけれど、僕は振り返れなかった。
外に出ると、夕暮れの風が頬を撫でた。先輩はしばらく黙ったまま歩き、人通りの少ない場所でようやく立ち止まった。
「……さっきの、見ちゃった」
その声は、驚くほど弱かった。
「女の子と楽しそうにしてたね」
「いや、あれは……」
言い訳を探そうとしたけれど、先輩は首を横に振った。
「責めてるわけじゃないよ。ただ……胸が、ぎゅってなっただけ」
その言葉に、息が止まった。弓月先輩は、僕の目を見ない。
夕陽の光が横顔を照らし、長い睫毛の影が揺れていた。
「……私ね、星凪くんのこと、もっと知りたいって思ってたの」
心臓が跳ねた。
「今日の朝も、廊下でも……胸がギュッてなって。…話したことを思い出すとなんか……嬉しくて」
先輩は胸の前で指をぎゅっと握りしめる。
「でも、さっきの君を見たら……私、そんな資格ないのかなって……思っちゃった」
「資格なんて……」
「あるよ」
先輩は僕の言葉を遮った。
「だって、私……星凪くんのこと、特別に見てたから」
その言葉は、告白のようで、告白じゃない。
でも、胸の奥に深く刺さった。
「……あの子のこと、好きなの?」
「え……」
「違うなら、違うって言って」
先輩の声は震えていた。
強くて、綺麗で、誰よりも落ち着いて見える人なのに——
今は、泣き出しそうな顔をしていた。
僕は答えられなかった。
灯といると、楽しい。
胸が高鳴る瞬間もあった。
でも——
弓月先輩の前に立つと、
胸のざわつきは、もっと深くて、もっと苦しい。
「……わからない」
正直に言うと、先輩は小さく息を呑んだ。
「そっか……」
その一言が、やけに痛かった。
沈黙が落ちる。
夕陽が沈みかけ、影が長く伸びていく。
「ごめん。デート中にいきなり。」
「デートなんかじゃ…」
「…楽しんで。」
…そう言って振り返った彼女の瞳には…今の僕を見ているような感じではない、哀愁が漂っていた。




