⑨
「ありがとうございました」
男性の言葉を聞いた後、俺とイツキくんは棺に元に戻して、また骸廻様の腹の中へと戻る。
「……何も言わなくて良かったの」
「ん? あの人に? 俺はそういう専門じゃないからね。それに、あの人が納得出来るような言葉、俺からは出ないと思ったし」
「……最初から知ってた?」
「うん。もう十年以上前の事件だから……イツキくんはその頃、小学生? 君等の年代だと覚えていないかもしれないね。けど、俺は凄く印象に残っていたから。名前と年齢聞いて、もしかしてと思って調べたらさ」
「先生、方向反対」
「ああ!」
彼の誘導に従って奥へと進む。
すると棺が規則正しく並ぶ中で、一箇所ぽかりと穴があいている場所まで戻って来られた。
「せーのっ」
二人でタイミングを合わせて、女の子の棺を元あったスペースに置く。これで順番通りの配置。
「よし、と……急に呼び出して、ごめんね。これは俺等から」
蓋を開けて、既に花で満たされている棺の中にまた別の花束を入れる。顔や胴体周りには一杯だったので、足元に置かせてもらった。
「先生は信じてる? さっき、あのおっさんが言ってた、生まれ変わるって話」
「え? 骸廻様の元では、死者は現世に肉体だけを残して、その魂は輪廻転生へと導かれる――っていう、アレ?」
「うん」
「どうなんだろうね。死者の体も半永久的に保管される訳ではなく、記憶する者が居なくなったら自然と常世へ消える――とか色々言われているけど、俺等が把握出来る範疇を超えているから」
彼と話しながら、全てを元の状態に戻す。棺をロックして、作業を終えると俺は立ち上がった。
「でも骸廻様が本当に、神様仏様の類いだったとしたら、ここに居る人達も皆、安心して眠れるから良いなとは思うよ」
「……そ」
「こんな仕事してるのに、そんな事言ったら怒られそうだけどさ!」
へらへら笑うと、彼から足元を蹴られた。
「いてぇ……あ、待って。置いてかないで。イツキくん居ないと、俺完全に迷子になっちゃうから」
少し離れた所で、俺も彼も足を止めて振り返る。もう一度、棺に向かって頭を深く下げた。
「……戻ろうか。お疲れ様」
俺達が骸廻様の腹から戻ってきた時には、既にあの男性の姿は無かった。出る分にはパスワードは不要だから、どうやら一人でここから出ていったらしい。
俺とイツキくんは、まだ横になっている骸廻様に向かっても頭を下げる。肉の断面から垂れてくる液体は消えており、切った肉の端の方は既にくっつき掛けていた。
「骸廻様のお腹の中は無限に広がっており、遺体も良好な管理状態で維持される。埋葬場所の不足を心配する必要も無く、後に事件性が疑われた場合でも当時と同じような対応が取れる――とは、俺達の謳い文句だけど、本当に不思議な方だねぇ」
彼が残しておいた骸廻様の体液拭き用タオルで、念のために腹を撫でておく。ちゃんと早く傷がくっつきますように、と。
そうやって全てを片付けた後、俺達もその場から離れる。ようやく喪服のネクタイを緩められて、首元が楽になった。




