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「どうにか周囲の人に認めてもらおうとしましたが、まず話してももらえませんでした。皆、逃げるんですよ。特に子供が居る人は。ロリコンって呟いて、汚いものを見る目で。確かにそういう性癖が僕にはあって、それで捕まった事実があるので何も言えません。年を取って、自分を抑えられるようになったとしても、そんな言い訳、誰も耳を貸しちゃくれません。直近で捕まった理由も、その延長で喧嘩になったからでした。カッとして相手を刺していました。でも確かに、カッとして相手を殺そうとするような人間、周囲が警戒して当然ですよね。そう思えば皆の目が正しい。僕は最初から出来損ないだったんだなって、最近ようやく気付きました。そんな僕は、多分何処へ行っても、真っ当な居場所なんて無いんだと思います。刑務所の中が僕には一番合っている。
でも本当に、外で頑張ろうとしていた時期もあったんですよ。そんな時に唯一、普通に接してくれたのがサキちゃんのおうちでした。家が近くて、挨拶するとちゃんと返してくれて。サキちゃんは公園で会ったら、一緒にブランコをして遊んで。お菓子をあげたら、サキちゃんだけは嬉しそうに受け取ってくれたんですよ。時間が遅くなってきたから、おうちに帰ろうって促しても『まだ遊びたい』って言ってくれて。それでもおうちに送ったら、お母さんが『いつもすみません』って言ってくれて。凄く綺麗なのに物腰も柔らかい、美人なお母さんで。ああ、こういう人の子供だから、きっとサキちゃんも優しい子に育ったんだなって……本当に思っていたんですよ。
でも今思えば、六歳の子をずっと一人で遊ばせておくって、おかしいですよね。そういう家もあるかもしれませんが。サキちゃんはお利口で、しっかりしているからだと思っていました。けれど一回くらい、迎えに来るとか探しに来るとか、そういう場面に出くわしてもおかしくないですよね。僕には子供が居ないし、近くに子供も居なかったから、子供を育てる大変さとか、子供の成長に合わせるとか、そういうのは今でも分かりませんが……誰かに構ってもらえる嬉しさに浮かれていないで、もっと周りを見るべきでした。
自分の子供を、何も心配せずに、僕と遊ばせている時点でおかしかったんですよね。本当に、今となればですが。サキちゃんが帰りたがらなかった理由をもっと聞いてあげればって……もう遅いんですけど……。
サキちゃん一家は、いつの間か引っ越していました。僕には理由も何も分かりませんでしたが、当時普通に過ごせていたら、何かしらの噂は聞こえてきたのかもしれません。それも僕には無茶な前提ですが。
サキちゃん達が居なくなって、僕はまた独りになりました。誰も優しくしてくれない中で、頑張るのは無理でした。それでまた捕まって、捕まっている間に新聞でサキちゃんのニュースを見たんです。
絶対嘘だと思いました。サキちゃんはいつも綺麗な服を着ていました。きっと愛情をいっぱい受けているんだと思っていました。サキちゃんも、お母さんお母さんと僕によく話していました。あんな可愛い子に、あんなに慕われていたお母さんが、たかが男のためにサキちゃんを殴ったなんて信じられない。けれどニュースを見る度に、僕の信じていたものが嘘だったかもしれないと、ようやく思い始めました。僕はただ、僕に別け隔てなく接してくれる優しい家族を夢見て、その妄想をサキちゃん達に押し付けていたのかもしれない。そう思った瞬間、堪らなくなりました。僕が普通の人間だったら、サキちゃん達の違和感に気付いて、止められたのかもしれないって。いや、止めるなんて、きっと僕には無理だっただろう。それでも通報するとか相談するとが、最悪サキちゃんを連れ出すとか、何か出来たかもしれない。
でも、それでも、今でもまだ信じられなかった。世の中の事実を知っても、何処かで、あの幸せな家族を信じていたかったのかもしれない。僕が唯一出会えた神様みたいに優しい家族は、本当に居たんだって。
そんなの、居なかったですね」
俺は視線を下げる。イツキくんの手元を見て、彼の腕時計をチラッと見た。
「ごめんね、サキちゃん……お兄さん、何も気付いてあげられなくて……それこそ、サキちゃんを僕の家に招待して、結婚していたら……何か変わったのかな……絶対大事にするから、僕と居れば、絶対死ぬ事なんて無かったのに……でも、もう全部遅いね……ごめんね、本当に……痛かったね、辛かったね……苦しかったね……一番大好きな人に裏切られる辛さは、こんな小さな体には堪えらなかったよね……」
男性は運んでいた自分の荷物から、花束を取り出す。その中から一輪一輪を指で摘んで、棺の中へ移していく。
「サキちゃんだけ、信じていれば良かったね……あんな女も、それをたぶらかした糞男も……」
強い言葉に反して、男性は丁寧な手付きで女の子の周りに花を詰めていく。白い百合に囲まれると、女の子の青白い肌も少し色味が和らぐように感じた。
「出来損ないの僕は、サキちゃんのために何が出来るだろうって考えたんだ……うん……でも、骸廻様の話は本当だった。骸廻様の中に居るなら、きっとサキちゃんの魂は、もう生まれ変わっているはずだね。良かった。こんな痛い体から生まれ変わって、今度こそ、ちゃんと綺麗で痛くない、羨ましい本物の家族に囲まれて……うん……他の人には出来なくても、僕がサキちゃんに出来る事……サキちゃんの痛みや悲しさ、怖かった気持ち、辛かった気持ち、ずっと僕は忘れないよ。僕はこれからも、ずっと君を覚えているからね。サキちゃんは僕の事も、生まれ変わる前の事は全部忘れて良いから。どうか次は、本物の優しいお母さんとお父さんに巡り合えると良いね」
特に大きな百合の花は、女の子の胸元に飾る。棺の中に全ての花を納め終えると、男性は再び女の子の頭をそっと撫でた。




