⑦
「お待たせしました~」
肉の暖簾を潜って外に戻ると、座っていた男性が勢いよく立ち上がった。
「それが……?」
「はい。サキちゃんです。無事見つかりました」
男性が駆け寄ってきたので、押してきた台車をその場で止める。
「……」
イツキくんがこれまでと違って、複雑な表情を見せる。男性の必死な振る舞いに、思う所があったのかもしれない。
「宗教の関係が出てしまいますが、合掌をお願いしても良いですか?」
黙って手を合わせる男性と共に、俺も彼ももう一度手を合わせた。
「……ご存知かもしれませんが、面会時間は長くて三十分です。ご理解ください」
「分かっています」
「では――」
俺とイツキくんは、棺を挟んで反対側に立つ。そこで互いに目配せをした後、ゆっくりと棺の蓋を持ち上げた。
「…………綺麗だ」
棺に横たわる女の子は青白い顔をしている。だが肌はピンと張り、若々しさを保ち続けている。時間が経っているとしても、皮膚が破れて肉が崩れ落ちると言う事は無い。
「はい。骸廻様の庇護下では、お別れ直後より、ご遺体の状態は変わらないとされております」
俺と彼は持っていた蓋を傍に立て掛けて、男性を見守った。
「……」
男性は棺に手を掛けて、女の子をひたすら見つめるだけの時間を過ごす。けれどしばらくして、彼女の方へ手を伸ばした。
傷付けない限り、遺体に触れる行為自体は可能とされている。だが男性の手の動きを目で追っていると、女の子のスカートの裾を掴む。
「おい」
イツキくんの低い声が響くが、男性はそのまま彼女のスカートを軽くめくり上げた。
「……なに」
足元に青紫色の大きな痣が見えた途端、イツキくんは俺の隣で息を呑む。
「アサヒナさん。サキちゃんも恥ずかしいと思うので、スカートはちょっと」
「分かっている」
俺が声を掛けると男性はスカートから手を離すが、今度は胸元のシャツをぐっと引き下げた。
見えた彼女の胸元には、縫い合わされた大きな傷と、痣らしきものの一部がまた見えた。
「……そうか…………本当に……」
「お気持ちはお察ししますが、肌を見る行為はお控えください。レディに失礼ですので」
「……」
俺が言うまでもなく、男性は自ら彼女の服を直していく。
「……今の傷」
「司法解剖の痕かな」
隣で尋ねてくるイツキくんに、俺は小声で返した。
「信じられなかったんです……本当に、羨ましい家族だと思っていたから……」
棺に寄り掛かり、男性は肩を落とす。その背中が震えていると気付き、俺は少し目を逸らした。
「本当に、疑いもしなかったんですよ……サキちゃんだけでなく、お母さんも普通に接してくれて……」
「……親しいお付き合いをされていたんですね」
「いえ……傍から見れば、大した仲では無かったでしょう……サキちゃんは、僕とよく遊んでくれましたが……」
男性は顔を上げて、女の子の頭を静かに撫でた。
「他人と関わる基準が、単純に僕の場合は低いだけです。更生して、いざ人生をやり直そうと思っても、前科の噂は付いて回りました。何処から仕入れてくるのか分かりませんが、こんな時代だと別に不思議ではないかもしれませんね」
何気無く視線を動かすと、イツキくんと目が合う。だけど俺達は黙ったままでいた。




