⑥
骸廻様の腹の中。入った直後は真っ暗で、足の感覚を頼りに立つ。この瞬間は、お化け屋敷に入った時と感覚が似ていると思う。お化け屋敷入口によくある黒いカーテンの代わりが、この腹の肉かと考えると少し残念な気持ちになった。
「二時間」
イツキくんの呟きに合わせて、俺はスマホのタイマーをセットする。彼もまた、自身の腕時計のタイマーをスタートさせていた。
「二時間経つと腹がくっついて出られなくなっちゃうけど、今回はまぁ心配要らないでしょ。ご遺体返すのも含めて、十分足りるはず」
「余裕ぶっこいて、いいの。写真貰ってないけど、顔分かる?」
「うん。大丈夫」
スマホのライトで辺りを照らすと、眉を寄せるイツキくんの顔が見えた。
「そんな怖い顔しないで。行こう」
俺は彼を手招きしつつ、腹の奥へ向かって歩を進めた。
横に二人並んで、足早に中を歩いていく。やがて一分もしないうちに、明るい空間に出た。
「……この骸廻様は、よく調教されているね」
目の前には棺が大量に並ぶ。見た目だけの話であれば、その並び方は美しい。いずれも縦、横共に等間隔で棺が置かれており、整然としている。だが白い棺が多い中に、クリーム色や黒、他にもパステルカラーが混ざる。白にしたって、柄が入るものと入らないものがある。統一感を踏まえるとやや至らないが、俺がとやかく言う筋合いは無い。本人や遺族の意向であれば、それが一番なのだから。
「浮いてない」
「ね」
彼の言葉に頷く。前回の骸廻様は棺が綺麗に並んでいない所か、ぷかぷかと宙に浮かんでいて、ご遺体を探すのがかなり大変だった。
「だから今日は、比較的スムーズだと思うよ。えーっと、サキちゃんの番号は……」
メモを確認しながら、縦横、無限に広がっているような空間をひたすら歩いて回る。
「……あった」
やがて十五分も経たないうちに、探していた番号は見つかった。
「……」
周囲を囲むものに比べて、一回り小さな棺。白くて柄は無く、シンプルな作り。俺もイツキくんも自然と黙り込んでいた。
何も喋らないまま、ひとまず棺に近付く。蓋の端に書かれた数字と、自分のメモを俺は何度も見比べた。
「うん……番号は、間違いないね」
それからは側面に付けられた機械にパスワードを入力して、生体認証も済ませる。すると蓋のロックが外れて、棺に納められている人物の簡単な個人情報が表示された。この操作は、盗難防止と情報保護のためらしい。
「……サキちゃん……六歳……うん、間違いない」
俺は棺の傍らに膝をつけて、両手を合わせる。視界の端では、立ったまま、俺と同じように手を合わせるイツキくんが映った。
「……失礼します。ごめんね」
棺に設けられている窓をそっと開ける。
「……この子で間違いない?」
「うん……でも、写真より細いや」
「写真?」
彼が首を傾げている間に、俺は窓をゆっくりと元に戻した。
「よし、運ぼうか。台車台車。この骸廻様なら、きっと置いてあるはず!」
「向こうにあった」
「流石イツキくん!」
棺を運ぶ準備が出来ても、そこから辺りをきょろきょろ見渡す。
「えーっと、何処から来たっけ……あっち……?」
「その反対」
「流石イツキくん! 頼りにしてる!」
数分前とほぼ同じ台詞を言うと、彼はあからさまに呆れた顔をしていた。
そんな彼も、出入りに使う腹の切り口へ近付くにつれて、険しい表情へと変わっていく。
「会わせるの」
「そうだよ」
「せめて親に確認したら」
「うーん……まぁ、今回はいいっしょ」
「トラブったら先生が怒られるよ」
「ねぇ」
いつも通りに返事する俺が気に入らない様子で、彼は更に眉間のシワを深くした。




