第7話:入学試験開始
「あのハムスターが学園長だって?!」
岩の上で人語を話すハムスターに対して、至って普通の反応だろう。ロレンが思わず叫ぶ。
「お主らは驚いたような反応をしておるが、永く生きていると、その反応にも飽きるのう。まぁよい。話を続けるぞい。せいぜい、人語を話すハムスターに仰天してくれい」
民衆を導く賢者のように、天高く聳える岩石の上に立つハムスターは言葉を紡ぐ。
「ここに集まったお主らには、儂が出す入学試験を受けてもらう。……と、言っても、頭を使うややこしいようなものじゃなく、至極簡単なものじゃがな」
「入学試験」という言葉が耳に入ってきたことで、受験生たちの響動めきが一瞬で消えた。真剣な面持ちで岩の上のキヌゲネズミ科キヌゲネズミ類の小動物を見つめ、中庭にいる者全員が静かに耳を傾ける。
「まず、英雄になるためには、何事にも諦めないで挑む『精神』・敵を倒したり、味方を援護する『技術』・そして、それらを可能にする『身体能力』の三つを持ち合わせていなければならない。お主らには、その『心』・『技』・『体』の三つが備わっているか確かめさせてもらうとしよう。……まぁ、技術は学園で培えばいいし、断崖絶壁を登って来るほどの体力があるわけじゃから、全員『技』・『体』は合格なんじゃがな。じゃから、最終試験として、お主らには何事にも諦めないで挑む精神・つまり、『心』を試す試験を受けてもらおう」
杖の柄で、岩をこんこんと叩く。
「今儂が乗っているこの岩石があるじゃろう?この岩石の何処かには、ハート・ダイヤ・スペード・クローバー・無地の、どれかのカードが一枚だけ埋め込まれている。そのカードの柄を当てるのが試験内容じゃ。昇降口に立っていたクルスト先生に準備させてあるから、自分が正しいと思う柄のカードを受け取ってくれい。全員が選び終わった段階で儂が正解発表をし、上手くカードを選ぶことができていた者のみが合格じゃ」
「あ、あのう……。」
受験生の一人が恐る恐る手を挙げる。
「どうしても分からなかった場合は、どうすればいいのでしょうか?」
「やる前から透視を諦めるとは、気が早いのぅ。でも確かに、能力の関係や身体能力の性質上、そういう者もおるじゃろう。そうじゃな……。その場合は、無地のカードでも選んでもらうとしようかのう」
毛繕いをしながらのんびりと答えた。
他にも質問があるかもしれない。
そう思ったのか、ムスターハ学園長は口を噤み、受験生たちからの質疑を待つが、他に挙手をする者はいなかった。
「……他に質問はなさそうじゃな。では儂は校舎の屋上から見守っておるから、せいぜい頑張ってくれよ」
学園長は、そう言い残すと、ふわふわと空中に浮かび上がって屋上の手摺りの上へと移動した。その動きを合図に、受験生たちが岩を取り囲むようにして人垣を作る。
「岩の中のカード透視しろ、だってさ。アレクって物体を透視する魔法って使えるのか?」
「いいや。使えないな」
「じゃあ、そういう必殺技とか持ってないか?」
「いいや。俺が使えるのは幽幻斬りだけだ」
「なんだ。使えないな」
「そういうロレンだって、岩の中のカードを判別できるような魔法も必殺技も持ってないんだろ?」
「まあな」
「なら、お互い様じゃないか」
二人で横に並んで愚痴を零しながら、中庭に屹立する岩石を穴が空くほど見つめる。
世の中には、透視ができる魔法や体質、能力なんかがあったりするが、残念ながら二人にはそのような便利な機能は備わっていない。
「はぁ……。せめてカードの柄が二種類だったら、確実に当てられる自身があるんだけどなぁ」
「……どういうことだ?」
「ふふーん♪」
首を傾けるアレクの目前にロレンがポケットからコインを五枚取り出す。
「ここに硬貨が五枚あるじゃん?オレは後ろを向いているから、その五枚のコインを手の中で好きにシャッフルしてみてくれよ。その五枚のコインの表と裏を全部当ててやるからよ!」
本当に、そのようなことが可能なのだろうか。
ロレンが不正をしないように目を光らせながら、半信半疑になりながらも手の中でコインを攪拌するアレク。
「……終わったぞ。当ててみろ」
「よし、じゃあ、当てていくぜ!不正を疑われるのも嫌だから、このまま背中を向けたまま答えてやろう」
考える時間もなく、即座に答えを出す。
「裏向きのコインが4枚、表向きのコインが1枚だ!どうだ、合っているだろ?!」
ロレンが振り向く中、アレクは覆っていた右手をそっと持ち上げる。
「……凄いな。裏が4枚表が1枚。俺ですらコインの状態を確認していないというのに、どうやって言い当てたんだ?」
「簡単さ。俺が持つ能力を使ったのさ!」
人差し指を立てると、キザっぽく額に宛てる。
「オレの能力・二択を制する者は、選択肢が二択である場合のみ、どんなことでも正解を導き出せる能力だからな。それぞれのコインが表なのか裏なのかっていう二択を、絶対に当てることができるんだ!」
「なるほど。俺の幽幻斬りみたいに、ロレンも能力が使えるんだな」
「オレだけじゃないぜ。ここにいるやつらはきっと、特殊な能力を使える輩ばかりだろうよ」
岩から視線を外し、中庭に集まった英雄候補たちを一瞥する。
カードの模様を水晶に映し出そうと注力する男や、地面に魔法陣のようなものを描き、規則的にコインを並べている少女、チョークと使って壁に不可思議な文字の羅列を延々と描く女性など、能力や透視魔法(あくまで、アレクの推測だが、)を使うために準備をしていると見受けられるような動きをする人々が、何人か確認できる。
「魔法が使える輩は羨ましいよな。オレ、やっぱり魔術科にしようかな……、ってあれ、龍人族じゃないか!!」
辺りを見渡したロレンの目が一点を捉えたので、アレクも視線を向ける。
そこでは、小柄な少女が胡坐を掻いていた。
「風の便りには聞いたことがあったけど、本物は初めてみたな。さすが英雄学園。いろんな種族が集まるんだな!!」
何と言っても特徴的なのは、額の辺りから真っ直ぐに伸びる二本の長い角と、脚が三本あるのではないかと見紛うほどに太い緑色の尻尾だった。透視をしようと神経を集中させているのか、ずりずり、という大蛇が這うような音を立てながら、尻尾を右・左・右……、と、ゆっくりと揺らしている。
岩を透視することを忘れ、しばらく龍人少女の尻尾の動きを追っていると、
「だあああーーーー!!分からん!!分かるわけないぞこんなもん!!!」
上を向いて口からブレスを吐き出しながら叫ぶと、急に立ち上がる。
火山が噴火したかのように急に吹き出た炎に、近くにいた受験生たちがギョっとしていると、
「要するに、カードの柄さえ分かればいいんだろ?だったら、」
人間の手指の形なのに、指先に鋭い爪、要所を脛当てや籠手のように硬い鱗で覆った掌を握って立ち上がる。
「岩をぶっ壊して、カードを探し出すだけだ!!」
目指すは眼前の巨岩。
体内に龍の血が流れる少女は、土台となる部分に向かって一直線に駆ける。
今さらですが、7月中は、毎日12~13時辺りに新作を投稿する予定です。
8月以降も続けるか否かは、読者の反応次第ですかね……。




