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第5話:世界最高峰の英雄養成機関

「はぁっ……、はあっ…………っ!!」


 息を切らしながら崖を登り切ったアレクとロレンは、腰を降ろしてひと息つきながら、周りを見渡す。


 露骨なまでに人工的に均された崖の頂上は平らになっており、下草一つ生えていない。地形から考察するに、どうやら、崖は直方体のような形をしていて、東西南北どの方向からも同じように登れるようになっているようだ。


「……で、ムスターハ英雄学園は、一体どこにあるんだ?もしかして、登る崖を間違えたか?」


 建物らしい建物を探そうにも、頂上には石を積み上げて造られた小ぢんまりとした簡素な構造の建物しか見当たらない。


「まさか、この小ぢんまりとしたのが、名のある英雄を次々と輩出したという、あのムスターハ英雄学園、って言うんじゃないだろうな……?」

「いいや。この建物で合っている。俺は昨晩、この建物に入ろうとして、中から出てきたやつらに返り討ちにされたんだからな」

「返り討ちにあった?それじゃあ、学園の入口じゃなくて、金銀財宝が眠った秘境の間違いじゃねぇのか……?」

「ははは。確かに。ここにいる先生たちは、モンスター級の強さだったぜ」

「おいおい、なんで先生たちと一戦交えてんだ?!もしかして、学園内に侵入でもしようとしたのか?!」

「まあな」

「そこは否定しないんだな……」


 石造りの建物の入口へと、吸い込まれるように歩を進める。


「おいアレク。お前、ここで先生に返り討ちにあったって言ってたよな……?」

「あぁ、そうだ」

「もしかして、あの如何にもバケモノです、みたいなやつも先生なのか……?」

「恐らくな」

「モンスター、とかじゃなくて?」

「あぁ」


 ロレンは完全に腰が引けてしまっていた。


 石造りの建物の入口には、嫌でも目に入る図体の男が、中に入っていく生徒たちに明るく挨拶を交わしていた。やはり特徴的なのは、頭が人間ではなく、牛の形をしているところと、10フィート(約3m)を越える巨大で(たくま)しい肉付きをした身体か。


「ようこそ。ムスターハ英雄学園の入学試験へ。……おや、」


 アレクの顔を見つけると、こちらに近づいてきた。その重々しい足音だけで崖崩れが発生しないか、内心で冷や冷やする。


「昨日の侵入者くんではないですか。どうですか?僕たちが送った『入学の手引』、気に入ってもらえましたか?」

「……俺は学園に入学したいんじゃなくて、学園長と話がしたいだけなんだけど?」

「その本人である学園長が、巻末にメッセージを直筆で残していますよ?与えられた書物は、ちゃんと最後まで目を通しましょうね」


 牛頭の男に指摘をされてページを捲る。


「「父の真相を知りたければ、儂の学園に入学せよ」だと……!?俺は行方不明になった父さんの居場所が知りたいだけなのに、どうして入学せにゃならんのだ?!」

「さぁて。それは、ムスターハ学園長の意思ですから、僕には分かりかねますねぇ」


 ……この男、絶対に何か事情を知っているみたいだが、吐く気はないらしい。「これ以上話すことはない」と言いたげにそっぽを向く。


「あ……、ど……、ミノタ…………っ!!」


 空いた口が塞がらない、とは、このような状態を指す言葉なのだろう。


 口をぱくぱくさせる以外、何もできなくなったロレンを見て、牛頭の男は(うやうや)しく頭を下げる。


「おっと、自己紹介が遅れましたね。僕の名前はミノス。このムスターハ英雄学園の教師で、武術科の専属教師もやっています。まぁ、こんな見た目をしていては怪しまれても無理ないですよね」

「え……、先生なんすか……?この学園の…………?」

「はい。そうです」

「学園を襲いに来たモンスター、とか、迷宮を守護しているミノタウロス……、とかじゃなく……?」

「はい。そうです。生徒たちによく間違えられて、剣とか弓とかを向けられるんですよ。まぁ、慣れっこですけどね」


 そう言いながらミノス先生が頭を掻く。その挙げられた左腕にはムスターハ英雄学園の関係者であることを示す、校章が彫り込まれた腕輪が輝いていた。


「……そんなことより、君たちは入学試験を受けに来たんでしょう?学園は中に入ればすぐに着くから、ほら、入って入って」


 身長が高いだけではなく、がたいもいいミノスに押し込まれるようにして、二人は石造りの建物の中を進む。


 小ぢんまりとした建物のはずなのに、建物の中は暗く、漆黒に染まった深淵が何処までも続いているように見える。体側の両側は壁に阻まれているので、進行方向は前方か来た道を後退するしかなく、直向(ひたむ)きに前へと進む。


 すると、


「わぁ……!!」


 石造りの建物を抜けた先に広がる景色に、思わずロレンが感嘆の意を零す。


 途中で転移する魔法が掛けられていたのだろう。まるでトンネルから抜け出したかのように闇が晴れ、目の前に巨大な建造物が現れた。


 ムスターハ英雄学園。

 そこは、現在も世界中で活躍するような英雄を数多く輩出する、トップクラスの英雄養成機関である。


「ここが、ムスターハ英雄学園か……」


 想像していたよりも、遥かに豪奢で、遥かに精巧な建物だった。これほどに大きい建物を見たことがなかったため、アレクの口からも無意識のうちに言葉が漏れる。

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