第3話:アレク
「やれやれ。時々こういう血気盛んな輩がいるんだよなぁ」
「――で、その少年はどうするのだ、ザウド?」
「勿論、崖から捨てる☆……と、言いたいところなんだけどさ」
魔法によって昏睡した少年を見下ろす。ちなみに、破れた鼓膜は回復魔法によって治療済みだ。
「こいつ、学園長に何の用があるんだろ?」
「――力の入れ方、剣捌き、重心移動。――どれを取っても素人の動きだ。――そんな腕のないやつが自身満々に暗殺しに来るとは思えない」
「もしかして、本当に学園長に用事があるだけの、迷える子羊だったのではないでしょうか……?」
金色の髪を自然に垂らした女性が、おずおずと手を挙げながら口を開く。
「え゛っ!?もしかして、比喩とかじゃなくて本当に用があるだけの子だった?!ボコしちゃったよどうしよう?!」
「用事があったということは、書簡か何かを持っているはずです。とりあえず、身元が分かるようなものを探しましょうか」
牛頭の男の提案により、手分けして荷物を探る。
「携帯食に火打石……、おっ、酒があるぞー。少年が持ってるのは怪しからんな。先生が没収しておこう!」
「――そいつは着火する時に使う用の酒だ。――飲んでしまったら少年が困るだろう。――ザウドも冒険者なのだから、これくらいの知識は持っていてもらいたいものだ」
「冗談ですよーだ!バルニちゃんは冗談が通じないんだからー。というか、炎なんて、魔法でちょちょいのちょいだし!」
体格の関係上、邪魔になるだけだと判断した牛の頭を持つ男と、「そんな悪いこと……、わたくしには……」と呟きながらそわそわする金髪の女性が見守る中、不機嫌そうに頬を膨らませながら手を動かす。
「あとは、料理道具とかパンくらいしか出てこないなー……ん?布きれの束の中に、何かあるぞぅ?」
酒を染み込ませて点火する際や、切り傷などによる出血を止血する際に使用するボロ布の奥底から、他とは別段綺麗な布の塊が出現した。膨らみ方や触感からすると、何やら硬質な物を大切に包んでいるようだ。
「なんだこれ?剣の先っぽに着いているやつ?」
「――柄頭だな。私が検めよう」
「武器といったら僕の領分なんだけど、剣の知識に関しては、バルニくんよりも秀でた者はいないからね。ここは任せようか」
柄頭とは、剣のグリップ部分の先端にあるパーツのことで、柄の部分と刀身を繋ぎ止める役割がある。
聖職者が使う剣の柄頭は十字架の形を施され、富裕層の者が使う剣の柄頭には宝石が埋め込まれているなど、商業や持ち手によって様々な装飾が施されることから、高価な剣や珍しい剣などは、その銘や持ち手の特定をすることができる。
「――見たところ、ごく普通のバスターソードに付けられた、ごく普通の柄頭だな。――ただし、細かい傷が尋常ではないほど刻まれている。――それだけ年季が入っていて、それだけ歴戦を重ねてきた剣の柄頭のようだな」
「柄頭って、本来そんなに傷がつくパーツではないんですけどねぇ。それなのに、まるで凶暴なモンスターに何度も噛まれたかのようにボロボロ……。一体、この柄頭は何を意味するんでしょうか?」
籠手に包まれた手の上にある柄頭を牛頭の巨漢も覗き込むが、一向に検討が付かないため、手持ち無沙汰な女性二人も輪を囲んで話しに加わる。
「そこら辺に落ちていたのを拾っただけなんじゃない?風雨に曝されて経年劣化でボロボロになったのなら、そんな感じになるでしょ?」
「そうだとしたら、こんなに綺麗な布で丁寧に包むでしょうか?まるで、聖骸布で聖人の遺骨を包んでいるかのように、大切に扱っているように見えます」
「ふむ。この中の意見だと、クルストの意見が最も近いかもしれんな」
しゃがれた男性の声に、一同が一斉に視線を向ける。
「戻りが遅いから見に来たが、随分と懐かしいものを持っているのぅ」
「ムスターハ学園長。この柄頭について、何か知っているんですか?」
「あぁ、よく知っておるとも。だってそれ、ブランドが最初に使っていたバスターソードの柄頭じゃからな」
場を包む空気が、一気に張り詰めたものに変わる。
「――ブランドが最初に使っていた柄頭……?!――ブランドというのは、あの…………?!」
「おぉそうじゃ。かつて儂と旅をしていた仲間で、魔王ルグルガーラをあと一歩のところまで追い詰めたパーティ・『魔王軍殲滅戦線』のリーダーを務めた男じゃよ。逆に、バルニは勇者ブランド以外に、ブランドという名を持つ者を知っておるのかな?」
おどけたようでいて、しかしながら威圧感のある学園長の言葉に、全身を鎧で覆った騎士が閉口する。
「でも、この少年が、どうしてそのようなものを……?」
「ふむ……。そういえば、魔王軍を率いる五大王の一人・不死王タオニラが復活した、という報告を受けて、12年前に『魔王軍殲滅戦線』のメンバーと再集結して旅をしていた時、ブランドが口癖のように言っておったのぅ」
倒れた少年の顔を覗き込みながら、
「故郷のレウノ村には、自慢の一人息子を残してきた、とな。あの頃は3歳くらいだと言っておったから、そこから流れた月日から考えると、ちょうど、この子くらいの年齢になるかのぅ」
学園長は、こう呟いた。




