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第33話:何処かの国の不思議な文化

「と、言うわけで、オレはムス学に残ることになったんだぜ!またよろしくな、アレク!!」

「そうか。それは良かったな」


 翌日の昼休み、ムスターハ英雄学園の校舎内にある食堂で、じゃがいもとにんじんが入れられたシチューを美味しそうに食べながら、正面に座るロレンが口を開く。


「おいおい。もっと喜ぶべきじゃねぇのか?!二択を制する者(コイントス)のロレン様が帰って来たんだぜ?!」

「そーだな。おめでとう」

「かわいげのないやつだな!?」

「ふんっ。あんたが退学するんじゃないか、ってエイミーたちに泣きついて来た割には、随分と不愛想な反応じゃないかしら?」

「ごふっ!!」


 スープを喉に詰まらせて咳き込んでいる間に、エイミーとロンヅゥが腰を降ろす。


「こいつ、あんたが学校を辞めるんじゃないかって、エイミーたちに相談してきたのよ?あの時の顔ときたら、随分と真剣な顔だったわね」

「そうなのか?」

「まっ……、まぁ、相談したのは事実だ。だが、泣き付いてはいないっ!!断じて!!」


 期待の眼差しを向けるロレンから逃げるように顔を逸らす。


「でも、心配だったのには変わりはないのでしょ~?そういうの、何処かの国の何処かの文化圏では、『ツンデレ』って言うらしいわよ?」

「知ってるぞー。凄く寒いやつだろー?寒いのは嫌なのだ!!」

「それはツンドラよ!……『ツンデレ』っていうのは、相手を気に掛けない、素っ気ない態度を取っている癖に、目の前から相手がいなくなったり、構ってくれなかったりすると機嫌を悪くする人のことを言うのよ」

「何だそれ?!随分と面倒なやつだな!構って欲しいなら、構って欲しいって素直に言えばいいのにな!」

「何処かの国では、そういう女性の方が好き、っていう男たちもいるみたいなのよ。随分と風変わりな文化よね」

「じゃあ、アレクはロレンが好きなのか?」

「「ごばぁっ!!」」


 唐突に差し込まれたロンヅゥの何気ない一言に、アレクとエイミーが同時に咳き込む。


「なっ……!何でそういうことになるんだよ?!」

「だって、アレクはロレンに構って欲しくて、わざと素っ気ない態度を取っているんだろー?だったら、アレクはロレンのことが好きなんじゃないのか?」

「……嫌いと言ったら嘘になるが、俺には、そっちの趣味はない!!」

「そっちの趣味?一体何のことなのだ?まぁた、アタシの知らない話か?」


 口の端から覗いた鋭い牙を見せながら首を傾げる純粋無垢な龍人少女。


「……そ、それにしてもエイミー、お前、高級そうなもん食ってんな!何だそれ?」

「あ、あぁあ、あ、これ?」


 話の内容をずらすべく、ロレンが指差した料理に視線が集まる。


「兎の肉の香草焼きよ。兎って草食動物だから臭みはないんだけど、香辛料で味付けすれば、さらに甘味が増すものなのよ」

「兎か。獲ったものを食べたことはあるけど、滅多にありつけるものじゃねぇぞ?!滅茶苦茶高そうじゃねぇか?!」

「ま、エイミーの能力(アビリティ)に興味がある、ってやつらがいて、そいつらからちょっとだけ支援金をもらっているのよね」


 皿を脇に寄せると、紫色の巾着袋と金貨を取り出す。


「おっ!おいそれ!!100センブル金貨じゃないか!!復学祝いにオレにくれるのか?」

「はぁ?誰があんたにあげるって言ったのよ!?」


 エイミーが苦虫を嚙み潰したような顔をする。


 100センブル金貨とは、エイミル王国内で流通している硬貨だ。

 キュール銅貨・センブル銀貨・100センブル金貨の三種類が存在し、100センブル金貨は一枚でセンブル銀貨100枚分の価値がある。


「ここに、エイミーが愛用している巾着袋があります」


 さらさら。

 両端を持ってひっくり返し、逆向きにして上下に振るも、中身からは何も出て来ない。


「この100センブル金貨を中に入れます」


 食べることに夢中で声が耳に入って来ないロンヅゥ以外の二人が、うんうんと頭を振りながら少女の手の動きを追い駆ける。


「そして、巾着を軽く叩くと……、」


 ぽふぽふ。

 まるで、実演販売でもするかのように巾着を掌で叩き、


「なんと、金貨が二枚になりまーす!!」


 口を開けて入っている金貨を取り出す。

 すると、一枚だったはずの金貨が二枚になっていた。


「うおおおぉお!!!どうやったんだそれ?!」


 目玉が飛び出そうなほどに二枚の金貨を凝視したロレンが、声を張り上げる。


「エイミーの能力(アビリティ)不思議な巾着袋(ジェミニの悪戯)は、この巾着の中に入る大きさの物であれば、どんなものでも二倍にすることができるの」

「じ……、じゃあ、硬貨を入れて増やせば、大金持ちになれるじゃねぇか!!」

「噛んでみなさい」


 複製された金貨を手渡されたロレンが、奥歯で金貨を甘噛みする。


「……硬ぇな。金貨って、こんなにも硬いものなのか……?」


 オリンピックで金メダルを獲得した時、選手たちがメダルを噛む様子がしばしば見られる。

 あの行為には、金メダルが本当に金でできているかどうかを確かめる意味がある。


 純金は非常に柔らかく、人間が軽く噛むだけで歯形がつくため、歯形がつくほど柔らかい、即ち、純金であることの証明となるのだ。


「ばぁか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 アレクは、いまいち理解のできていないロレンから拝借して、金貨に描かれた図柄を(あらた)める。


 金貨の表面には初代エイミル王国の王様の肖像画が描かれているのだが、全体的な輪郭線が歪み、顔のバランスも崩れている。

 さらに、裏面を確認してみる。

 コピーした影響によるものなのか、「100センブル」と書かれてなければいけない部分には、「ルブンセ001」の文字がある。


「どんなものでも複製できる代わりに、複製した物体は粗悪品。しかも、硬貨みたいな文字が書かれている物を複製すると、鏡向きになるっていう欠点があるのよ」

「だったら、この鏡向きになった100センブル金貨を、もう一回巾着袋に入れて複製すればいいじゃないか!それなら、元の向きに戻るだろ?!」


 諦めきれないロレンが、ずずいと身を乗り出して食い付くが、


「そんなことをしたら、粗悪な複製の複製だから、もっと粗悪な物が生まれるだけよ。……そもそも、硬貨の複製は重罪よ?本当はやっちゃいけないんだから、エイミーが金貨を複製したのは、くれぐれも口外しないでよね?」


 エイミーの言葉を聞いて、がっくりと肩を落とす。


「さぁて。そろそろ午後の授業が始まりそうなことだし、もういいかしら?冷めないうちに兎のお肉を食べてしまいたいことですし?」


 巾着と金貨|(複製してものも合わせて二枚)を荷物の中に片付けると、脇に退けていた皿を引き寄せる。


 が、


「あら?あの兎、まだ生きていたとでもいうのかしら?皿の上にいないのだけれど?」


 皿の上には少量の油と香草以外残っていない。

 机の下や辺りを捜索するように頭を動かしていると、


「あれ?要らないからアタシにあげる、って意味じゃなかったのか?!美味しかったぞ!兎の肉!!」


 先ほどまで大人しく巨大な輪切り肉|(何の肉か分からない)と格闘していたはずのロンヅゥが舌舐めずりをしながら口を開いた。


「勝・手・に・食・う・な!!エイミーは要らないなんて、一言も言ってないわよ!!」

「ほええぇ!!違ったのかぁ!!それは悪いことをしたのだぁ!!!」


 騒がしい音を立てながら、二人の少女は放心状態の少年がいる食卓を後にした。

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