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第32話:とある国の遣いの者

「なっ……?!あのおばあさんが、モンスターだって……?!」


 全く想定していなかった。


 ロレンは老婆に視線を送る。

 これほどの標高がある場所に来たのが物珍しいのか、高所から見えるエイミル王国の街並みを堪能していた。


「クルストさんが結界を張っているので、ゴブリンなどの程度の低いモンスターは容易に入ってこられないようになってますが、それこそ、先日ザウドさんが戦った、統王グラウドレほどの魔力や力の強いモンスターとなると、結界の影響を受けない可能性は十分に考えられます」

「で、でも、普通のおばあさんですよ?!」

()()()()()()()ロレンくんは、グラウドレによる激戦の影響で、ライカンスロープが頻繁に出没するようになったのは知っているでしょうか?」

「えぇ、勿論。二・三年生の先輩たちが、今も討伐作戦に出ていたりするんですよね?」

「そのライカンスロープだって、変身する前は人間なんですよ」


 ミノスは老婆を睨むように視線を送る。


 狼は群れで行動するのだが、それはライカンスロープも同じことで、部下たちに指示を送る司令塔のような役割を持つボスが存在する。


 王国に次々と出現するほどの頭数がいるライカンスロープを、一匹で率いるような存在だ。魔力や力は並大抵の雑魚モンスターとは、一線を画していると考えるのが自然だろう。


「え゛え゛っ!!?……って、ライカンスロープって、何ですか?」

「もしかして、ライカンスロープと戦った経験がないんですか?」


 頭上から憐れむような視線を感じるロレン。


「ライカンスロープというのは、狼に変身することができる人間のことです。国や地域によっては、ワーフルフ・ウェアウルフ・狼男・人狼なんて呼ばれたりしますね」

「あぁ、狼男のことか。なら、そう言ってくださいよ……。で、どうしてこんなに呼び名が多いんでしょう?」

「古くから世界各地で出没するモンスターですからね。それだけ名前も多いんですよ」


 ぺたぺたと足を触られる感覚がしたので、牛の形をした頭を動かす。


 何か伝えたいことがあるのか、気を引こうと老婆が手指で軽く叩いているのが見えた。


「ちょっと失礼。僕に用事があるようなので、席を外します」


 ……と、いっても、密密話(ひそひそばなし)ができるような場所など、石造りの建物の陰しかない。

 屈んでいるにも関わらず上半身が思いっきり建物から突き出ているミノスが、老婆と何やら言葉を交わしている。


 そういえば、狼男かどうかを見分けるには、両方の眉毛の毛が繋がっているか否かを確認する方法と、舌の裏側に毛が生えているか否かを確認する方法があるんだっけか。


 なんて、一人取り残されたロレンがぼんやり考えていると、


「お待たせしました。彼女、学園長に直接届けなくてはいけない書簡を持った、とある国の遣いの物だそうです。いやぁ、大変な失礼を。僕は仕事柄、人を用心深く疑わなくてはならない身でして」

「いえいえ。英雄学園っていうくらいだから、モンスターが攻めてくることもあるのでしょう。大変ですねぇ」

「とんでもないです」


 そんな要人をここまで連れて来てしまったのか。


 幽幻斬(ゆうげんぎ)りを使ってはいたものの、もし、足を滑らせて落ちてしまっていたら……。


 最悪の事態を思い浮かべて総毛立つ。


「では、行きましょうか。……えっと、その学園というのは、この建物なんでしょうか?」

「……ええっと、正確に言うと、ここを入ると学園の敷地まで魔法で移動することができるようになっているんですよ」

「ほほほ。そうかい。あの先生といい、随分と盤石(ばんじゃく)な場所なんだねぇ」


 親子のように二人で横に並びながら、石造りの建物の中へと入る。



☆★☆★☆



 まさか、短い時間に二回も来ることになろうとは。


 廊下の突き当たりにある、重く閉ざされた荘厳の扉を見上げる。


 学園長のサイズがハムスター程度なのだから、こんなに大きい扉にする必要はないと思うのだが、やはり、学園長室の扉なのだから、それなりに精巧な造りにしないと示しがつかないということなのだろう。数回ノックをして許可を得、貴婦人を連れて中へと入る。


「よく連れてきたのぅ。ご苦労じゃった」


 無駄に椅子が据えられた執務用デスクの上で仁王立ちしながら、生徒の徒労を(ねぎら)う灰色のハムスター。


「それで、この少年はどうじゃったかの?お主の意見を聞かせてくれぬか」

「心の真ん中に太い芯が真っ直ぐ通っている、いい少年ですねぇ」

「やはり、儂が睨んだ通りだったじゃろう?」

「えぇ、この子なら、安心して学園に置いておけますね」

「??……???」


 先ほどから何を言っているか分からない。


 老婆とキヌゲネズミ科の小動物に挟まれた状態で、しきりに首を左右に動かす。


「なんじゃ。まだ分からんのか。呑気なやつじゃな」

「まぁまぁ。そういう知識は、学園でいくらでも学べばいいじゃないですか」


 ぼうん、という音と共に煙が上がり、老婆の姿が消える。


「お、おばあさん?!一体、何処に行ったんだよ?!オレは、煙の塊でも運んできたってのか?!」

「ここですよ。入学試験の時にも、あの人が同じようなことをしませんでしたか?」


 足元から老婆の声が聞こえたため、恐る恐る視線を下の方へと向けると、所々に金色っぽい毛を生やしたハムスターが二本脚で立ちながら、こちらを見上げていた。


「おばあさん、あんたもハムスターだったのか?!」

「……お主の勘の鈍さは、学園一かもしれん」

「正確には、スターム族というんですけどね」


 泳ぐように宙を浮くと、ムスターハの隣へと着地する。


「彼女の名はルデンゴー。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「へぇ、教頭先生…………、って、教頭?!!」

「えぇ、あなたの行動の徹頭徹尾を、背中で見させてもらいました」


 ようやく事の重大さを理解したロレンがそわそわし始める。


「私が見定めた結果、やはりあなたは、この学園に残るべきではないかと、そう判断致しました」

「で、でも……っ!!」


 下唇を強く嚙む。


「オレには仲間を守るような勇気なんてありませんし、弱いやつを守れるような力も技術もありません。そんなオレに、ムスターハ英雄学園の看板を背負うことなんてできませんよ!!」

「ロレンよ。儂が入学試験に言ったことを覚えているかな?」


『入学試験の時』と言われても、合格するかどうかを気にして落ち着かなかったり、アレクの正体が勇者ブランドの息子だと知ったり、学園長を討伐するために戦闘が巻き起こったりと、どのシーンを思い出しても濃い記憶ばかりだ。静かに口を閉ざし、学園長に続きを促す。


「英雄になるには『心』・『技』・『体』が備わっていなければならんが、『技』と『体』は学園で培えばいい。本当に必要なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「だからと言って、仲間を見捨てることを正しい、と肯定するわけではありません」


 ゴールデンハムスターの教頭が言葉を添える。


「あなたは「勝てない」と判断した相手から逃走し、私をここまで運ぶ時も、アレク君に助けを求めた。それはつまり、自分ではここまでしかできない、という力の限界を知っていて、その上で自分で考えて行動することができる、ということです。『心』として最も必要なものだと思いませんか?」

「お主が腰抜けの臆病者で何の力もない腑抜けだということは分かっておるわい。じゃが、何度も言っておるじゃろう?『技』と『体』は学園で鍛えればいい。必要なのは、素直で正直な『心』じゃとな」

「『技』と『体』は個人差があるといえど、磨けば誰でも上達します。でも、清らかな『心』だけは、限られたモノたちしか持っていませんからね」


 項垂(うなだ)れたロレンの頭を、爪楊枝ほどのサイズの杖で小突く。


「さぁ、ロレンよ。担任のミノスや他の教師に、『技』と『体』を嫌になるまで鍛えるように言っておいてやる。じゃから、覚悟しておくのじゃぞ!!」

「あ゛……、あ゛ぁ……っ!!あっ…………!!」


「ありがとうございます」、と言いたかったが、口から漏れ出た嗚咽のせいで(あた)わなかった。

 pv数が800突破しました。1,000までもう少しです!!



「ノベルアップ+」(55)+「小説家になろう」(782)=837(2021年8月1日9:00現在)



 8月になりました。

 7月は非常に忙しく、いつの間にか終わっていました。

 きっとこの調子だと、8月もすぐに終わるんだろうな……。


 書き溜めた分が少し残っているので、ストックが尽きるまで8月も毎日更新していきたい所存です!!

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