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第29話:鶏肉のソテーと牛肉のフランベ

「……てな感じで、あいつ朝から人が違うように元気がなくてな」

「ふぅん。なるほどね」


 ソテーの野菜をフォークで突き刺しながら、エイミーが鬱屈そうに返事をする。


 クラスのメンバーによる自己紹介、校内案内を終えた昼休み、相談する相手が特にいなかったアレクは、同じクラスで同じ寮という(よしみ)で、エイミーとロンヅゥに相談した。


「それで、朝から元気がないわけねぇ。ま、知ったこっちゃないけど」

「随分と素っ気ないな」

「言っちゃえば、エイミーにとっては寮が同じなだけの腐れ縁。居なくなろうがどうなろうが、関係のないことね」


 肉が苦手なのか、それとも楽しみは最後まで取っておきたい派なのか、ソテーから人参と玉葱が次々と消える。


「それに、これはあいつの問題であって、あんたはともかく、当事者でもないエイミーたちが介入できる問題ではないでしょ?エイミーたちよりも、リチレン先輩にでも話したらどうかしら?」

「リチレンは今日、登校してないんだよ」


 ムスターハ英雄学園に所属する生徒たちは、英雄になるための知識や技術を学んでいる身であるのと同時に、英雄でもある。


 エイミル王国の人々からモンスターの討伐依頼や、辺境地域の警邏依頼などが毎日のように学園に寄せられるため、二年生以上の生徒たちは、その依頼を熟すために学園側から命令されて出向することがある。

 ちなみに、危険だからという理由で、一年生は担任教師からの許可がない限り、モンスターの討伐依頼は受けられない。


「血の匂いを嗅ぎつけてライカンスロープの出没が多発していて、それに生徒たちが駆り出されてるんだとよ」

「そのグラウドレとかいうやつと戦って傷を負ったはずなのに、ライカンスロープの退治に向かうなんて、リチレンは強いんだな!やっぱり、手合わせしてみたいぞ!!」


 指先で切り分けられた牛肉を抓むと、大きな口を開けて押し込む。野菜が嫌いなのか、それとも好きな食べ物を最初に食べる派なのか、皿の隅に盛られた野菜に手を付けた気配はない。


「戦うなら、リチレン先輩じゃなくて、グラウドレの方でしょ?!もう……」


 言葉を切ると、肉を刺した手を止めて、じーっと、ロンヅゥが食べている料理を見るエイミー。


 皿の上に盛られたのは、牛肉をフランベした如何にも高級そうな料理。

 自身が食べている鶏肉のソテーよりも断然高級品であり、ご丁寧にナイフとフォークが添えられているにも関わらず、性に合わないのか、粗雑に手で掴んで食べている。


「……随分と値が張りそうな料理ね。いつも身軽なあんたの何処から、そんなお金が出るのかしら?」

「母さんがお金を持って来てもらったのだ!だから、お金には全然困ってないぞ!」

「そのお金とやらを、どうしてお母さんが大量に持っているのよ?」

「へへん!アタシの母さんはドラゴンだぞ!ドラゴンと言ったら、宝石や金貨を集めるのが大好きなことくらい知っているだろー?」


 吸血鬼に、親和的な昼型吸血鬼と敵対的な夜型吸血鬼がいるように、ドラゴンにも、魔王軍に敵対する『聖龍』と、魔王軍に加担する『邪龍』が存在する。


 邪龍は、都市を滅ぼして金銀財宝を強奪するが、聖龍は、財宝の献上を条件として、一定の区画からモンスターが侵入しないように警護する、いわば守り神的な存在になっている地域もある。


「アタシの母さんは近隣都市から莫大な財貨を受け取っているから、アタシのことを心配して、宝石とか金貨を持って来てくれたのだ!いやー、親バカで困ってしまうのだ!!」

「そういうことをするんだったら、人目のつかない場所にして欲しいものだな」


 グラスに入れられた水を一口含みながら、アレクが苦言を呈す。


 統王グラウドレの出没により、悲嘆に暮れるモノや神経質になってピリピリしているモノがいる中、エイミル王国に巨大な緑色のドラゴンが出没した。

 このドラゴンの出没により都市では大パニックが発生。天に祈りを捧げるモノや卒倒するモノが続出する中、出動した兵士たちが安全であるという旨を吹聴し、何とか混乱が収まったのだという。


「あれには心臓が止まるかと思ったわよ!エイミル国王が聖龍だと知っていたから良かったものの、あれが邪龍だったら、学園の教師陣が総動員されてドラゴン討伐になるところだったじゃない!」

「だって、墓地区画まで行って、もらった財貨を寮まで運ぶの面倒だろー?母さんは学園長とも知り合いらしくって、まぁ大丈夫か!って思ったんじゃないかー?」

「知り合いの家に寄る感覚で、都市の真ん中に降りてくるんじゃないの!あんたに似て、お母さんも随分とがさつなドラゴンなのね」

「いやー。褒めてもらって嬉しい限りなのだ!!」

「褒めてない!!」


 話を逸らされて、二人の女子によるガールズトークが始まった。


 物憂げな表情を浮かべながら、アレクは離れた席で一人で座るロレンを一瞥する。


 手元にある皿に盛られた肉料理には手が付けられておらず、白い湯気が静かに立ち昇っていた。

 重苦しい溜め息をついたようだが、(かしま)しい声に搔き消される。

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