第25話:ザウドVSグラウドレ
「馬鹿なっ!!何故動ける?!我の蝙蝠の吐息で、貴様は虫の息のはずなのに!?」
「その能力、本当に発動しているか?」
「!!!」
グラウドレが慌てて回りを見渡す。
一面人間の血で染められた大広場にあったはずの、黄色くて薄い霧がなくなっていた。
「あんたが何か勘違いをしているようだから、説明しておこうか」
もしや、あの剣に何か特殊な力があるのか。
アレクが立ち上がるのも無視して無刃剣フセツを見るが、刃のない剣が黄色い霧を吸って浄化しているような様子はない。
「俺の幽幻斬りは、形のないものを斬ることができる斬撃を飛ばす能力であって、フセツが触れたものを斬っているわけじゃない。つまり、剣だろうがそうじゃなかろうか、剣を握っていようが関係なく、幽幻斬りは使えるんだよ!!」
「なんだと?!」
タネを明かした以上、無駄な細工はいらない。
口の中に溜まった血痰を吐きながら、ふらつく足で対峙する。
「だから、あんたから飛んで来る魔法攻撃は、全部躱すことができる」
「あぁ、魔法攻撃は、な」
腕を後ろに引き、レイピアを構える。
「ならば、魔法攻撃を使わなければいいだけの話だろう?瀕死のサル一匹屠るくらい、造作もないわ!!」
「ふぅん。じゃあ、そのサルが二匹になったら、どれくらい労力が変わるかな?」
声の主を見て、アレクの表情が明るくなる。
それは、17歳くらいの見た目をした、フード付きのローブを纏った教師だった。
「ザウド先生……っ!!」
「ザウドちゃん☆って読んでよもうっ!……ま、今はいいや。お疲れ少年」
靴の動きに合わせて、紺色のローブが風に旗めく。
「随分と、生徒たちをかわいがってくれたじゃん?その分を、ザウドちゃんの魔法で返してあげるからねー」
虚勢を張ってはいたが、歩くのがやっとだ。
ザウドが言葉の応酬で時間を稼いでいる間に、幽幻斬りで超合金のリチレンの体重を切断。担いで邪魔にならない所まで退避する。
「ふん。ムスターハが経営する学園の教師か。我には、こいつらと年の変わらぬ乳臭いガキのようにしか思えんがな」
「だとしたら、目ん玉濁ってるんじゃないの?これでも、この子たちの四倍以上の年月は過ごしてきたんだけど?」
「よもや貴様、昼型吸血鬼の類ではなかろうな……?」
「ちゃんとした人間だよ。そこは安心して?」
ローブを頭から降ろし、指で髪を寄せて耳を見せる。
普通、エルフや吸血鬼などの亜人種は、人間のものとは違った、尖った形をしているのだが、ザウドの耳は丸みを帯びた形をしている。歴とした人間である証拠だ。
「人間の血を飲まずに見た目を保つとは、何者なのだ貴様?!」
「ちょーっと、開発した薬の作用で、17歳くらいに若返っちゃったうえに、成長が止まっちゃったんだよね。……ま、そんなことはどうでもいいじゃん?」
人間の頭くらいのサイズの水晶玉を吸血鬼に翳す。
「問題は、狼藉者が街に現れて、罪のない市民を殺し、そして、あたしの大事な生徒たちを傷つけたことよ」
「では、人を殺さず、こいつらと交戦していなかったら、我のことを見逃すのか?」
「いいや。魔王の手下ってだけで標的だから、残念ながらそれはないね」
「なんだ、では、我が何をしようが変わらんではないか。だったら、これからも悪逆の限りを尽くし、人間の生き血を啜ってやろうではないか」
「それを阻止するのが、ザウドちゃんたち英雄の仕事なんだよ?知ってた?」
左手を離すと、巨大な水晶玉がぷかぷかと浮かぶ。
そして、
「属性は火、対象は目の前の敵。対象を滅却せよ。ロミストレイア!!」
水晶が赤い光を放ったかと思うと、極太の火炎放射が発生し、グラウドレの方向へと伸びる。
対して、
「ふっ。何とも直線的で、芸のない魔法。こんな単純な攻撃、畜生でも避けられるではないか」
「それはどうかな?」
ひらりと脇に躱した吸血鬼の付近に、透明な板状の物体を投げる。
途端、火山が噴火するかのように、轟音を発しながら太い火柱が天に向かって発生し、グラウドレの身体を赤く照らす。
「貴様、随分と愉快な方法で攻撃するのだな。そのように曲芸師のような攻め方をされては、次の手が読めぬではないか」
「いいじゃん。その方が倒しやすいでしょ?こういうの、何処かの国では『初見殺し』っていうらしいよ☆」
「ほほう。初見の者を殺す手立て、か。なかなか面白い言葉だな。ならば、我もその『初見殺し』とやらで、貴様を殺してやろう。満身創痍になった、あそこの二人のようにな!」
不気味なまでに不健康な肌の色を持つ統王の周囲に、黄色い霧が立ち込める。
「なかなかに実直だねぇ。そんな風に言ったら、「これは危険な霧です」って言っているようなものじゃん!」
恐れる心配はない。
空間をなぞると、いくつもの黄色い球体が生成されて床に転がる。
(なんぞこれ……?見たところ、発火作用や起爆性能があるようには見えないな……。と、なると、毒霧の類か。持ち帰って研究するかね)
珠の一つを拾って吟味し、こっそり懐に仕舞う。
(我の蝙蝠の吐息を塊に変えた?……貴様、あの小僧と似たような力を持っているな。ならば、魔法攻撃は効かぬということか)
対してグラウドレは、握っていたレイピアを構え直し、敵対象を真っ直ぐに見つめる。
「見たところ、得物の類を持っていないようじゃないか。ならば、我の剣を防ぐ手はあるまい!!」
快手の一撃をザウドの懐に繰り返し差し込んで滅多刺しにしようと試みる。
「防ぐ方法?いくらでもあるよ?しかも無尽蔵に」
まるで、目の前に壁があるかのように、掌で空間を触ると、パキン、という軽快な音とともに透明な物体が砕け飛び、レイピアの侵入を半ばで止める。
「ふふふ。いつまで防げるかな?」
「そっちこそ疲れない?腕が痛くなってくると思うんだけど?」
幻想の作り手で触った空気は固形になり、衝撃を受けると粉微塵になって元に戻る。つまり、空気がなくならない限りは、永久に空気の壁を張り続けることができるのだ。
ザウドが空気の壁を作っては、グラウドレが突く、あるいは、剣の横腹で叩いて破壊する。
何処までも続く鼬ごっこかに思われたが、
「ぐううっ!!」
空手に生成した針状の空気の槍を、カウンター気味に腹に突き立てる。優劣が英雄側に一気に傾いた瞬間だった。
「がっ!がああっ!!」
着ている服に血が滲み出し、身体を曲げて苦しそうに呻く吸血鬼を注意深く観察しながら、水晶の標準を合わせる。
「ああああぁああああっっっっっっ…………、と、言いながら、倒れてやりたいところだが、残念だったな!」
居住まいを正すと、胸の真ん中に親指を突き立てる。
「我ら魔王軍にとっての急所・魔核は、貴様の心臓と同じ位置。そこ以外の攻撃など、痛くも痒くもないわ!!」
「やっぱりダメか」
「さて、これ以上茶番に付き合っている暇もないことだし、楽しい遊びもそろそろ仕舞いにしようか」
レイピアを鞘に収めると、
「この強大な魔法を使って、街も貴様らも吞み込んでくれよう!!」
両手を頭上に挙げて闇属性の力を収束させる。




