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第23話:統王の能力

「何か勘違いをしているようだな小僧」


 憐憫(れんびん)するかのような蔑んだ目でアレクを見つめる。


能力(アビリティ)が使えるのは、何も人間だけではないのだよ!!」


 鋭い牙を見せて嘲笑するグラウドレの周囲に黄色い霧が発生した。

 姿を隠すほどの濃霧ではないが、辺り一帯の空気を黄色に塗り替えていく。


「なん……だ…………?」


 不穏な予感がする。


 どくどくと血が流れる右手を恨めしく一瞥し、フセツを拾おうと左手を動かそうとするが、


「戦況の優劣を(かんが)みろよ小僧。今、剣を手に取ったら、貴様の首に風穴が空くぞ」


 鋭い鋒鋩(ほうぼう)が向けられ、断念する破目となる。


「アレクから手を離せ!!」


 指から細い煙を出しながら発砲するも、


「小賢しいわ!!」


 振り向きざまに小さくも圧倒的な速度を持つ火球が生成され、リチレンの腹に差し込まれる。


「がっ…………!!」


 勢いを殺すことができず、人造人間(ホムンクルス)が苦悶に顔を歪めながら石造りの床を転がるが、チラリと見ることもなく、レイピアの先端をアレクの心臓に定める。


「さて、邪魔者はいなくなった。ここからゆっくり甚振(いたぶ)ってやる」


 邪魔者はいなくなった?

 ささくれ立つそのフレーズを、何度も心奥で木霊する。


 そして、あることに気づく。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 リチレンも違和感の正体に気づいたのだろう。痛む腹部を抑えながら歯を食い縛る。


「ロレン?あぁ、あの鼻汁を垂れ流していた弱者のことか?」


 影のない無機質なレイピアを向けたまま、グラウドレは口を開く。 


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()追い駆けてそのまま殺してやろうかと思ったが、逃がしてやったわ。人間如きに慈悲をくれてやるのは、これが最後かもしれんな」

「なん……だって……?!」


 息を呑むアレクとリチレン。


「全く、恐れ(おのの)いて敵前逃亡とは、情けないやつよ。ムスターハが育てている英雄とやらは、あんな腑抜けなやつらばかりか?」

「違う…………!!」


 傷口から溢れ出た血が、不気味な紋様のような形跡を作り出した右手を庇いながら、言葉を絞り出す。


「あいつは逃げたんじゃないっ……!!助けを呼ぶために、俺たちを置き去っただけだ…………!!」

「ふははははは!!!」


 何処までも続く曇天を仰ぎ見ながら、統王は哄笑(こうしょう)する。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あのロレンとかいう男、顔をぐしゃぐしゃにして、一度も振り返ることもなく逃げて行きおったぞ?貴様ら仲間の命よりも自分の命の方が大事な腰抜け風情(ふぜい)が、戻って来るわけがなかろうに!!それでも戻って来るようだったら、ただの頭のイカれた死にたがりに過ぎん!!」


 笑いを噛み殺すのも必死なようだ。目尻に涙を浮かべながらグラウドレの話は続く。


「まぁ良い。万が一、――いや、億が一にも戻って来たとて、丁重にもてなしてやるだけだ。この刺刑剣(しけいけん)ブラドでな」

「うおおおぉぉぉぉぉおおお!!!」


 痛む腹を抑えながら、指をブレードに変えたリチレンが、力を振り絞って突撃する。


「さすが人造人間(ホムンクルス)。結構な威力を込めた火球を放ったというのに頑丈だな。だが、」


 リチレンの瞳孔が開き、失速したかと思うと、


「そろそろ我の能力(アビリティ)が効いてきた頃だろう」


 そのまま前方に眠るように倒れ、重々しい金属音が轟音を鳴らす。


「我の能力(アビリティ)蝙蝠の吐息(アンダーマイン)は、貴様らの身体の自由を奪う毒霧を生成する能力(アビリティ)でな。そして、この毒霧には、傷を悪化させる力もある」


 一歩踏み込まれたら急所を突かれる位置だというのに、アレクは咄嗟に右の手を確認する。着ている衣服で血液を拭うようにして止血しているのにも関わらず、穴が空いた手から流れ出る血の勢いは、一向に止まる様子を見せない。


「ただ、毒が蔓延するまでに時間が掛かるというのが難点でな。だから、貴様らと戯れて時間を稼がせてもらった」


 あれ?

 ぐらりと横向きに傾く視界の中に、グラウドレが二人にも三人にも映える。


「随分と……、卑怯な真似をするじゃないか……、魔王軍を束ねる王様の癖に…………っ!!」

「卑怯、だと?」


 統王の眉根が動く。


「いくらでも言うがいい。戦いというものは、どんな手を使ってでも最後まで立っていた者が勝者なのだ。卑怯などという戯言(ざれごと)は、弱者が()かす遠吠えに過ぎぬ」


 自分は立っているのか、それとも、倒れたのか。

 空を見ているのか、地面を見ているのか。


 目が痛み意識が霞み、自分がどのような状況かも分からなくなっていく。


「その目……、意識が混濁し始めたようだな。……まぁいい。すぐに安らかに眠ることになるのだから、安心しろ」


 質のいい革靴で頭を小突かれて、自分が倒れていることをようやく理解した。


 地面に力なく身体を押し付けたまま耳を傾ける。


「我が剣の血となり肉となるのだ!!」


 まさに、俎上(そじょう)(うお)だった。


 頭を潰そうとグラウドレのレイピアが振り降ろされる。


 アレクの頭には大きな穴が空き、突き刺さったレイピアを引き抜くと同時に、脳味噌の一部が引き摺り出される。

 

 はずだったが、


「馬鹿なっ!!何故動ける?!今の貴様には意識を保つほどの余力も残っていないはずではないのか?!」


 頭を横に捻ったことで残酷な終幕が回避された。

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