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第21話:統王グラウドレ

「我の名は統王グラウドレ。魔王ルグルガーラ様の右腕として、魔王軍を指揮する者なり」


 人造人間(ホムンクルス)の先人と対峙した夜型吸血鬼の男が、鋭い牙の生えた口を見せる。


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「ムスターハ学園長だと?どうして、学園長の居場所を探しているんだ?」

「言うまでもなかろう。彼奴(きゃつ)らに復讐するためだ!!」


 色白い手を力強く握り締める。


「今から16年前、我ら魔王軍は『魔王軍殲滅戦線』などという、大層な野望を抱えた俗物どもに壊滅させられたのだ!彼奴らのせいで我の率いる四天王も三体が死亡。吸血鬼であるはずの我とて、傷を癒すのに相当の手間と時間が掛かったわ!!」


 赤黒い瞳に復讐の炎が灯る。


「だから、我は怨恨のために、そして、ルグルガーラ様の野望を達成させるために、そして何よりも、勇者どもに殺されて死んでいった同朋たちの弔いのために、勇者だの英雄だのとほざくゴミどもを、この手で始末せねばならんのだ!!一族郎党、恋人から家族、勇者どもと交友関係を持つ輩を全員な!!赤子だろうが胎児だろうが、引き摺り出して捻り潰してくれる!!そのためには、」


 右手をゆっくりと挙げて、照準をリチレンに定める。


「まずは、貴様らに死んでもらおう。雑魚の分際で出しゃばったことを、地獄で後悔するがいい!!」


 グラウドレの手中に炎の塊が生まれる。どうやら、火属性の魔法を使おうとしているらしい。

 だが、


「それは、こっちの台詞だ吸血鬼!!」


 パァン、という乾いた音とともに、グラウドレの額に小さな穴が空いた。花開く花弁のように、頭から鮮血が吹き出す。


「な…………?」


 驚愕の表情のままに顔の筋肉を硬直させたグラウドレの身体が後ろに傾き、血飛沫を上げながら倒れる。


「残念だったな。ボクの手指は弾丸が発射できるようにになっていて、200発まで弾丸を打ち込むことができるのさ。君が魔法を詠唱するよりも、断然速くね」


 一筋の煙が上がる指をグラウドレに標準を合わせたまま口を動かす。


「やった……!随分簡単に倒せましたね!!」


 ロレンが喜びの表情を浮かべるが、


「いいや、浮かれるのはまだ早い。吸血鬼は、この程度じゃ死なねぇからな」


 リチレンの表情は険しい。


「だって、頭に重傷を負ったんですよ?即死じゃないですか?!」

「魔王軍の王ってやつは、そう簡単には死なないんだよ。この程度、時間稼ぎにもならない」


 アレクもリチレンの隣に並び、切っ先を吸血鬼に向ける。


「くくく……。頭に銃弾を撃ち込むとは、大層な挨拶じゃないか」


 すると、何事もなかったかのように、グラウドレが起き上がったところだった。額に空いていたはずの傷口は塞がり、血の流れも止まっている。


「小僧の言う通り。我ら魔王軍の王たちは、文字通りルグルガーラ様に心臓を捧げた身。代わりとして、『魔核』と呼ばれる絶対的な機構を手に入れたのだ!この魔核を形が無くなるまで粉微塵にしない限り、我らの命は尽きることはない。まさに、不死身の身体と言ったところよ」


 シュルン。


 統王が腰に佩いていたレイピアを抜いた音だった。その恐ろしく無機質な音に、アレクは背筋が凍りそうになる。


「さて、次はこちらの番だ。我の頭に穴を空けた代償、貴様の命で払ってもらおうか!!」


 上質なブーツで勢いよく床を蹴ると、こちらに向かって一直線に走る。


 ババッ!

 ババババッ!


 狙いは心臓と同じ位置にある魔核。

 やや身体を前屈みにして走る吸血鬼の急所を狙うべく、何度も何度も発砲するが、


「我は貴様ら人間とは違うのだ!!」


 超常的な動体視力を持ったグラウドレが羽虫を払うかのように剣を振るい、飛来した弾を弾き飛ばす。

 そして、


「食らえっ!!」


 真っ直ぐに突き出し、心臓を射貫こうとする。

 が、


「ぐうっ!!」


 苦悶に顔を歪めたのはグラウドレの方だった。リチレンの超合金でできたボディに剣は弾かれ、右手を庇うように押さえる。


「まさかとは思ってはいたが、やはり人造人間(ホムンクルス)だったか。これほどまでに精巧な人造人間(ホムンクルス)が、この世界に居たとはな……!機械都市メニイルの技術も、我が傷を癒していた16年の間に、恐ろしいほどまでに進化したものだ」

「よく勘違いされるけど、ボクはメニイルの出身じゃねぇよ」


 手を負傷したグラウドレに向かって発砲するが、不規則にバックステップを踏みながら躱し、後ろへと下がった。外れた銃弾が地面に穴を穿ち、空薬莢が軽い音を立てながら足元に転がる。


「ほう?メニイルの出身ではない?では、貴様は何者なのだ?」

「何者かが分からない。だから、それを探すためにボクは学園に通っているのさ」


 自分が同じ質問をされた時、ここまで泰然と答えられるだろうか。

 アレクがそう思うよりも早く、鋼の肉体を持つ青年は人生の目標を述べる。


「なるほど。だとしたら、貴様は見当違いなことをしているな」

「何?」


 リチレンが眉を吊り上げるのを歯牙にも架けず、グラウドレは言い放つ。


「貴様の目的は、『自分の正体を解明すること』なのだろう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!!!」


 頭を巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃が、三人の間に走る。


「確かに、我々魔王軍を討伐するために各地を冒険し、人々からは大賢者と崇められていたムスターハならば、さぞ膨大な知識を持っているのは間違いないだろう」


 腕を組んで胸を張り、魔王軍を束ねる四体の王のトップに君臨する王としての威厳を漂わせながら、リチレンを真っ直ぐに見据える。


「だが、我が魔王軍の王の一人には、全ての魔術を極めたいがあまりに人間であることを辞め、自らリッチになった、頂能王(ちょうのうおう)マッサドという男がいる。そいつは400年以上もの時を生きているが故に、ムスターハよりも知識と経験が豊富で、もしかしたら、貴様の素性についても何か知っているかもしれんぞ?」


 リッチとは、不死になる魔法を掛けた自らの心臓を箱の中に収納して何処かに隠し、永遠の時を生きることが可能となったアンデッドだ。

 研究に専念したいがために死ぬことを嫌った、魔術師がなることが多い。


「だから、」


 聴きたくなかった。

 口に出してほしくなかった。


 レイピアを鞘に収め、不健康なまでに白く、不自然なまでに伸びた爪が生えた掌をこちらに見せながら、


()()()()()()()()


 半月状に薄く広げた口で、こう言葉を紡いだ。

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