第20話:魔王軍を指揮する者
「やばいって、どういうことだ?!」
リチレンの様子が尋常ではないことに気づいたアレクが声を掛ける。
「もしもボクの読み通りなら――」
一呼吸置いた後に、
「街に、夜型吸血鬼が出没している可能性が高い。しかも、他とは比べ物にならないくらい、強大な魔力を持つやつだっ!!」
声を戦慄かせながら、こう告げた。
吸血鬼の中にも、魔王軍に協力している勢力と、反旗を翻している勢力がある。
それが、夜型吸血鬼と昼型吸血鬼だ。
夜型吸血鬼は、「人間を襲って吸血をすることこそが、吸血鬼の本来の姿だ」という信念を持つ吸血鬼の勢力で、魔王軍に加担して悪逆非道の限りを尽くし、人間から吸血を行う。
一方で昼型吸血鬼は、「人間たちと争うことよりも、手を取り合った方が、お互いに生活が豊かになる」という信念を標榜する吸血鬼の勢力で、永い歴史の中で進化を遂げ、昼行性へと姿を変えた吸血鬼である。
魔王軍に対しては人間たちと協力して戦う姿勢を取っており、時には夜型吸血鬼との交戦もあり得る。吸血衝動は、料理に使われる牛や豚などの家畜・村を襲撃するモンスターに対して行うことで満たし、人間社会において、人間の手助けをしている。
同じ吸血鬼でも、昼行性か夜行性かによって、人間に対して親和的か敵対的かが違うため、一重に「吸血鬼=敵」と言い包めることはできない。
「お、おい……!こんな大きな街に吸血鬼なんて出没したら――」
最悪の事態をロレンが口走ろうとした時だった。
「きゃああああぁぁあああっっっ!!!」
「き、吸血鬼が出たぞぉぉ!!!」
恐怖の色を浮かべた老若男女が次々と走って来て、三人とすれ違う。
「一体、何があったんですか?!」
そのうちの若い男の腕を荒っぽく掴み、リチレンが詰問する。
「魔王軍を名乗る吸血鬼が現れて、街の人々を次々と殺していったんだ!!お前も早く逃げないと、あいつに殺されちまうよ!!」
突き飛ばすように腕を払うと、顔を青く染めながら逃げていった。
「リチレン、俺たちも早く向かおう!!」
「さすがに、ボクたちだけでは危険だ!!救援を呼ぶから少しだけ待て!!」
アレクの行動を制したリチレンは背中の荷物を弄ると、筒状の物体を取り出す。
「それは?」
「ザウド先生特製の発煙筒だ。ミノス先生は常時崖の上で待機しているから、こいつで煙を起こして、学園の関係者に知らせるんだ」
頭上に持ち上げると、力任せに石造りの床に叩き付ける。
すると、パキン、という何かが砕けるような音と共に紫色の煙が発生し、蛇が身体を起こすように天高く登っていく。
「よし、それじゃあ行くぞ!!」
アレクは背中の剣を抜き、ロレンは腰の短剣を抜いて盾を構え、リチレンは拳を握り、綺麗に舗装された大通りを走り抜ける。
――恐怖に逃げ惑う人たちの合間を縫いながら。
☆★☆★☆
「ひどい有様だな」
「うぷっ……!!」
アレクは惨たらしい光景に目を見開き、ロレンは路傍に腹からこみ上げた物を吐き出す。
目の前に広がっていた景色は、地獄とも形容できるほどの惨状だった。
通り、広場、建物の有無に関係なく、折り重なるようにして幾許の人間が血を吹き出しながら倒れ、本来は美しい造形であったはずの石像や床を不気味な赤色に染めていた。
「何が起きているというんだ……?」
「そんなもの、あいつに聞けば分かるだろうが!!」
その地獄を地上に再現したかのような広場の中央、講演会場のようになった場所にできた死体の山の上に、鷹揚と座りながらこちらを見つめる人物がいた。血色は不健康なほどに白く、赤黒い瞳が燃えるように輝いている。
「どうだ?我が作った血の芸術、素晴らしいだろう?」
黒いマントを揺らしながら死体の山から下りると、かつかつと靴を鳴らしながら歩く。
「随分と趣味の悪い芸術だな。こりゃ、お前ら夜型吸血鬼が、昼型吸血鬼と分かり合えないわけだぜ」
「人間と迎合しようなどという馬鹿な考えを起こすようなやつらと、一緒にしてもらっては困る」
ぴちゃっ。
ぴちゃっ。
講演台を降りると、周りに広がるのは血でできた水溜まりだ。靴の音も粘質なものへと変化し、吸血鬼が歩くたびに跳ねた血が靴やマントを濡らす。
「おいおい。マントやズボンに、血が跳ねちまってるぜ?折角の高そうな衣服なのに、汚れちまってもいいのか?」
対して、
「吸血鬼にとって人間の血は、浴びれば浴びるほど嬉しいものだ。君たちにとって、頭からワインを浴びるようなものかもしれぬ」
「ワインにしちゃ赤すぎないか?ボクは好みじゃないね」
「ふはは。この味わいは、年を経ないと分からんのかもな」
「年を経ても味わいたくないね」
男は冷静だった。一歩ずつ血溜まりの中を歩きながら、肩を竦める。
「……で、わざわざこの場所に来て我を睥睨するということは、貴様ら『英雄』だな?魔王を討伐する英雄を育てるとか吐かす、ふざけた学園のやつらか?」
赤黒い瞳を鋭く光らせ、眼前に立つ三人を睨めつける。
この凍て付くような視線だけで、これほどまでに禍々しいオーラを持った相手と見えた経験のないアレクとロレンは身体が震え、身動きが取れなくなる。
「あぁ、そうだ。その学園の生徒たちが三人も来たんだぜ?いくら吸血鬼のお前でも、ただじゃ済まねぇんじゃねぇか?」
後輩たちの身の安全を確保することが、場数を踏んだ先人だからこそできる行動であり、先輩として最優先される任務だ。後ろの二人を庇うように立ちながら、吸血鬼と言葉のキャッチボールを交わし続ける。
「ふんっ。だが所詮は、英雄ごっこをしている尻の青い童に過ぎぬではないか。貴様らには用はない。死にたくなかったら、そこを退くのだな」
「お前の目的が何かは分かんねぇけど、ボクたちがここを退いたら、もっとたくさんの人間が死ぬんだろ?だったら、そういうわけにはいかねぇよ」
「哀れなものだ。忠告を聞かなかったが故に、惨たらしく死ぬ末期を辿ることになるのだからな。……まぁ良い、冥途の土産に、我の名前を覚えるがいい。これから貴様らを殺す、有難い男の名だ」
吸血鬼は刃物のように尖った牙が並んだ口を見せながら、
「我の名は統王グラウドレ。魔王ルグルガーラ様の右腕として、魔王軍を指揮する者なり」
こう名乗ったのだった。
pvが合計400突破したので、ご報告を!!
「ノベルアップ+」(16)+「小説家になろう」(438)=454(2021年7月20日11:00現在)
……わたしは皆さんの満足する作品を書けているでしょうか?
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