第18話:装備を買おう
「いやー、やっぱり焼き芋は美味いな!!アレクも買えばよかったのによ!!」
程よい加減に焼き上がった芋(丸々一つが串刺しになっている)に齧り付きながら、ロレンが言葉を紡ぐ。
あんなにマーケットに行くと張り切っていた癖に、キュール銅貨が入った袋を丸ごと寮に置いて来たのだという。仕方がないので両替商を探してセモ銅貨(メクイシ村の硬貨のことだ)とキュール銅貨を交換してもらったのだった。
セモ銅貨を両替商に見せたら、非常に驚いた表情をしていた。どうやら近隣では見掛ける機会が少ない珍しい硬貨だったようで、融通を利かせた両替商から、通常のレートよりも高い金額で両替をしてもらうことに成功した。
「俺はいいよ。ただの芋なら4キュールもあれば買えるのに、それを焼いただけで1キュール余分に取られるなんて、何だか割に合わない気がしてな」
「甘いなアレク!お前は、この芋のように甘いやつだぜ!!」
びしり、と、剣のように串の先端を向ける。
「芋を焼くのはなかなか難しくてな、火から出すのが早すぎると芯まで熱が通ってないし、遅すぎると黒焦げになったり、芋の中身がどろどろになっちまうもんなんだよ。この丁度いい焼き加減を何度も再現できるのは、まさに職人の業だし、素人のオレたちには真似できない極致なんだぜ?」
「芋を焼くのって、そんなに難しかったのか……」
「帰ったら一度やってみろよ。こういうほくほく感を出すのは、至難の業だぜ?」
芋から漂う一筋の煙がアレクの鼻孔を刺激する。
基本的に、運んでいる途中に擦れるなどして傷んだ農作物は足が早くなるため、旅に持ち歩くのは不向きである。
野菜類や果物類を食べる場合、大抵は買ったものをその日に処理してしまわねばならず、アレクは長期保存が可能なビスケットやソーセージ、魚肉の塩漬けなどを好んで食べることが多かったため、「芋を焼いて食べる」という行為そのものを、あまりしてこなかったこともあり、いまいち芋の焼き方については勝手が分からない。
「……ふぅ。満腹満腹。芋って、量のわりには腹が膨れるから、そういう面でもお得だぜ。さてアレク。次は何処の店に行こうか?!」
「おいおい……。格好いい武器を探しに来たんじゃなかったのか?」
「いけねぇ!!すっかり忘れてたぜ!!そんなら、武器とか鎧を中心に売っている店を探してみるか」
大きめの広場に大小様々な規模のフリーマーケットが展開しているだけあって、品数や店の数も千差万別だ。
使わなくなった古着を平置きしている店や、染料で色鮮やかに装飾された蝋燭を並べている店。少し変わった店だと、何処かの国から輸入したものなのか、仮面をずらりと展示している店や、懐に入れて持ち歩けるサイズの木彫りの彫刻を販売している店。もっと珍しいものだと、よく分からない鉄片を売っているような店もある。
「(なぁ、アレク。これとか誰が買うっていうんだ?元取れてるのかなこれ?)」
店主に聞こえないほどの小声で話すロレン。その手には、等間隔で小さな鉄球が埋め込まれた輪っかが握られていた。
「(指輪にするのには穴が大きすぎるし、腕輪にするのには小さすぎるじゃん?それとも、巨人族くらい身体が大きかったら、結婚指輪代わりにできたりするのかな?)」
「(知らねぇよ。俺も初めて見た。何だろうなこれ?)」
「そいつぁ、玉軸受けっていうんだぜ」
……心臓が止まるかと思った。声の主を探すべく、背後に視線を向ける。
「何度も繰り返し回転するような装置に取り付けて、摩擦や負担を減らすのに使うもんだ。例えば、荷馬車の車軸とかがそうだな」
そこには、人造人間のお兄さん・リチレンがいた。
「着替えるのが面倒」という理由で、往来の多い人混みの中にも関わらず、作業着に動きやすそうなズボン・皮手袋・襟首には粉塵や火花の飛来を阻止する安全メガネのオマケ付きという、機械弄りに特化した服装である。
「ここは、お前たちが来るような場所じゃあないと思うんだけど、一体、何の用だ?」
「折角だから、格好いい武器でも買おうかなって思いまして。そのついでに、面白そうな露店に立ち寄ってたんです」
「なるほど。そういうことなら、ボクも協力しようか。先輩がいると心強いだろう?」
「本当ですか?!やったなアレク!!」
こうして、頼もしい先輩が加わってのショッピングとなった。
☆★☆★☆
「そういえば、お前たちのことを全然知らなかったな。普段モンスターと戦闘する時、どんな武器を使ってんだ?」
武器といってもいろいろあるため、まずはバトルスタイルが知りたいのだろう。
アレクは背中に背負っていた荷物からロングソードを、ロレンは腰に佩いていたショートソードを取り出す。
「ふむ……。見たところ、ロレンが使っているのは、ごく普通の剣みてぇだな。これといって、特徴もないし、増産型の安物だな」
「……悪かったですね安物で」
「別に貶しているわけじゃねぇよ。増産型の安物にだって、銘剣に引けを取らないほどの傑作だってあるしな」
「と、いうことは、オレのは銘品なんですか?!」
「いいや、銘品でも粗悪品でもない、ごく普通の剣だな」
「一番つまらないやつじゃないですかそれ」
リチレンから受け取った剣を鞘に納める。
「一方のアレクが持っている剣、こいつぁ相当の銘品なはずだけど、刃がない剣とは実に不思議だな。一体、何処で手に入れたんだ?」
目を白黒させながら、手の中で剣を弄ぶ。
「この剣は、無刃剣フセツといって、その名の通り刃がない剣だ。家にあった武器を持ってきた」
「なるほど。鍛えていないんじゃなくて、そもそもそういう形態の剣ってわけか。こりゃあ面白いな。ある意味傑作じゃねぇか」
肩を揺らして豪勢に笑う。
「……っつーことは、モーニングスターみたいな打撃武器や、槍みたいな刺突武器みたいな使い方をすんのか?」
「いや。俺の能力で形のないものだったら何でも斬ることができるから、普通の剣と戦い方は同じだ」
「ははは。剣の形をした打撃武器なのに、幽霊とかは斬れるってか。相手の意表を突けて面白そうだな!!」
剣を鞘に納め、アレクに返す。
「二人とも武器は問題なさそうだな。さて、そうと分かったら、次は防具の確認だ。比較的大きい店だと、武器のついでに防具も纏めて買うと安くなるっていう所もあるから、ついでにお前たちの装備を検めてやろう。お前たちが使っている鎧は何だ?」
道すがらにリチレンが尋ねる。
「俺はレザーアーマーですね。ロレンは?」
「オレもレザーアーマーだな。動物の革だから軽くて持ち歩きやすいし、持ち運ぶ時にそれほど嵩張らないしな」
「レザーアーマーは便利だけど、モンスターの強力な攻撃は防げねぇからな。この機に、チェインメイルくらいは買ってもいいんじゃねぇか?」
アレクやロレンのような近接戦を得意とする英雄は、主に、レザーアーマー・チェインメイル・プレートアーマーのいずれかの鎧を着用することが多い。
レザーアーマーは、動物の皮などを煮固めて作られた鎧で、重量も4パウンド(約1.8kg)程度と軽くて動きやすい代わりに、斬撃・打撃に対して最低限の防御力しか持っていないため、安くて持ち運びやすい代わりに、防御性能が低い。
チェインメイルは、金属の輪っかを何重にも編んで作られた鎧で、重量は44パウンド(約20kg)と重いが、斬撃に対して圧倒的な防御力を持つ。しかし、打撃攻撃は、ほぼ防御することができないという欠点を持つ。
プレートアーマーは、全身を鉄板で覆う鎧で、斬撃・打撃に対して圧倒的な防御力を誇る。高額なものだと、魔法攻撃を無効化する特殊な金属で生成された鎧などもある一方、どれだけ軽いものでも66パウンド(約30kg)を越える重量のものしか存在せず、鎧を着た状態での長距離の移動や持ち運びに不便という欠点を孕む。
「チェインメイル重くないですか?そんなの着用して崖登ってたら、オレ、途中で肩外れちゃいますよ?」
「そんなことで音を上げてどうするんだよ。ボクの同級生にはプレートアーマーを着て軽々と登るやつだっているし、リテなんかは、自分より身長の高いヒバナチラシを背負ったまま登校するんだぜ?」
ヒバナチラシとは、リテが使っている全長6.5フィート(約2m)ほどもあるウォーハンマーのことだ。
鉄槌ヒバナチラシという名前で、モンスターとの戦闘以外にも、製鉄作業などの私的な利用もしているのだという。
「まぁ、これも慣れだな。多少早い時間に寮を出てゆっくり登るとか、毎日パーツごとに運んで学園の更衣室に置いておくとか、やりようはいくらでもあるんだからよ」
「かく言うリチレンは、鎧を着てないじゃないか」
全身を隈なく確認するアレク。
上下を作業着で統一し、手には革手袋・胸には安全メガネが掛けられ、仕草に合わせて揺れている。作業着に鎧並みの防御力があるとは思えないし、手の革手袋が籠手だとは考えにくい。と、なると、鎧らしい鎧は見当たらない。
「ふっ、ボクの身体は特殊な合金でできているからね、そこらの鎧よりも硬いんだ。だから、鎧なんていらないのだよ」
「寮の前で会った時、痛覚があるって言ってたよな?」
「勿論あるよ。だけど、生身の人間と比べて身体が硬いから、それだけ痛みを感じにくいってわけさ」
説明しながら自身の腕を叩くと、カンカンという硬質な音が響いた。音からすると、厚さ・硬度はプレートアーマーに匹敵しそうだ。
そうこうしているうちに、リチレンの案内で大通りに面した店に到着した。




