第16話:全員集合
「だから言ったでしょ?ここで合ってるって」
「はれれ?こっちには来たことがあるはずなんだけどなー?」
「それは、あんたの頭が残念なだけで、ここには来たことがなかったっていうだけよ。――っていうか、寮番号が書かれた紙はどうしたのよ?!」
「嚏をした時に、口から吐いた炎で炭になったのだ!」
両開きの木製扉から入ってきた二人の少女に、一同の目線が吸い寄せられる。
一人は、入学試験で岩を粉砕しようとしていた龍人少女だった。太い尻尾を地面に引き摺りながら寮の中へと踏み入れる。
「どうりで分からなくなるわけね……。エミリーに会えなかったら、どうする気だったのよあんた」
もう一人は見覚えのない少女だった。寮の中で足を止め、少し短めのスカートを揺らしながら龍人少女を問い質す。
「仕方ないから野宿して、明日から学園に通うのだ!」
「明日と明後日は休みよ!……あんた、先生たちの話を聞いてなかったな?」
「たくさん運動して疲れたから、ぐっすり寝てたのだ!!」
「寝・る・な!!」
まるで母親のように叱る少女が目を逸らしたことで、ようやく、龍人少女が一同の視線に気づくと、
「おっ!皆さんもしかしてお食事中か?だったら、肉が食いたいのだ!!肉はないのか肉は!!」
「輪切りのもので良かったら、たくさんあるから遠慮なく食べな」
「肉なのだー!!」
どかどかと尻尾を引き摺りながら肉が乗ったトレンショワールを受け取り、大口を開けて貪る。
「お前確か、入学試験で岩をぶっ壊そうとしていた龍人だよな?もしかして、ここの寮か?」
「んー。よく分からないけど、ここが「ムスターハ英雄学園第08番寮」なら、そうだぞー?」
「合っているわよここで」
溜め息をつきながら、少女も空いている席に座る。
円卓は二つあるのだが、片方がアルガシア・リテ・ロレン・龍人少女の四人で埋まってしまったため、椅子が二つ空いている、スィム・アレクがいる方の円卓だ。
「この龍人、寮の場所が書かれた紙を燃やした、とか言って路頭に迷っていたから、偶然同じ寮だったエイミーが拾ったのよ」
「そいつは不幸だったな」
「全くよ」
アレクと話している間にスィムが席を外し、銀製の皿にスープを入れて戻ってきた。
「さて、今度こそ我が寮のメンバーが揃ったようね。来たばかりで申し訳ないけど、席を立って自己紹介をしてくれないかしら?」
皿を渡しながらスィムが口を開く。
「エイミーよ。よろしく。学科は魔術科にしようと思っているのだけれど、同じ科の先輩はいるかしら?」
内側に白いレースが付いた、ひらひらとしたスカートを軽く持ち上げながらお辞儀をする。
「残念だけど、うちの寮に魔術科専攻の在校生はいないなぁ。あ、私、一応ムス学の魔術科出てるから、多少のことなら分かるけど?」
「本当ですか!?頼りになります。えっと……」
「スィムよ。ここの寮で寮母やってます」
「よろしくお願いします!スィムさん!!」
会釈をすると椅子に座る。
「さて、もう一人の娘にも紹介してもらおうか」
「んむ?」
同じ座卓に座るアルガシアが視線を向けるが、龍人少女は一杯に肉を詰め込んだまま、口を忙しなく動かす。
「あんたよあんた。さっさと咀嚼して、自己紹介をするのよ」
「ふおっふぉまふのふぁ」
勢い良く嚥下すると、席を立ち上がる。
「ロンヅゥなのだ。見ての通り種族は龍人。武術を学びに学園に来たのだ!!」
「と、いうことは、武術科志望だな?武術科だったら、部屋に籠っておるリチレンの後輩になるな」
「そのリチレンってやつは強いのか?」
「素人の一年と妾たち二年生じゃ、強さに雲泥の差が出るぞ?それでもいいというなら、訓練でも申し込んだらどうじゃ?」
「うおおぉお!!俄然やる気が出てきたぞぉぉ!!!でも、今は明日の登校に備えてスタミナを蓄えるのだぁ!!!」
「だから、明日は休みだって言ってるでしょ?!何回言ったら覚えるのよ!!」
エイミーのツッコミも虚しく、ロンヅゥが肉料理とのフードファイトに戻る。
「それにしても、随分と来るのが遅かったじゃない?ミノス先生に真っ直ぐ寮に向かうように言われてたんじゃなかったっけ?」
「しょうがないじゃない。この龍人、エイミーの言うことを聞かないし、力づくで引っ張っていけるような状況でもないんだもの。付き合って一日振り回されるしかなかったわ」
どうやら、ロンヅゥは相当の方向音痴らしく、解散したのが『居住区画』にも関わらず、出会ったのは『商業区画』だったそうだ。
『商業区画』で寮を探す龍人少女を見て気が気でなくなり、一緒に行動することにしたのだという。
「……やっぱり、寄り道していたのね?ミノス先生を怒らせると恐いよ~」
「えっ?!あんなに温厚そうなのに、そんなに恐い先生なんですか?!」
「恐いよ~。脱出不可能な迷宮の刑。閉じ込められると、段々不安になってくるよ~」
「と、いうことは、スィムさんも経験しているってことですね……」
「ぎくっ!ま、まぁ、若い頃にやんちゃだった人は、みんな経験しているものよ。あはは……」
陰鬱な顔を背けるスィム。
その後も、二人の少女を取り入れて空気が入れ替わった談笑は数時間続いた。
皿が空になったらスィムが補充するために席を立ち、成人組(リテとアルガシアだ。ちなみに、スィムも成人しているそうだが、酒は一滴も飲まなかった)は杯に注いだ果実酒を呷る。
やがて、泥酔して眠ったリテをスィムが部屋まで運んだのを皮切りに解散ムードになり、肉を食べた量で競っていたために満腹になったロレン、まだまだ足りないと無限に詰め込もうとするロンヅゥと、それを無理矢理引き剥がすエイミー、散らかった皿を片付けるために消えたスィムと、その手伝いをすると申し出たアルガシアが、それぞれの場所へと姿を消した。
(俺も寝るか……)
特に残る理由もなかったため、アレクもスィムに一言だけ礼を述べ、部屋へと戻るために階段に足を掛ける。
酣を過ぎて閑古鳥が鳴くエントランスには、食べ散らかされた杯や銀製皿、そして、表を天井に向けて蝋燭の光を反射するコインが取り残された。




