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第15話:最後の二人

「疲れたな……」


 天上の木目と目を合わせながら、式布団に体重を預ける。


 試験が終わるまでに結構な時間が経っていたというのもあって、荷物を整理して仮眠していたら夜になっていた。ベッドで寝るのが久しぶりというのもあって、仮眠を長く取ってしまったようだ。


 寝惚(ねぼ)(まなこ)でベッドに座っていると、203部屋に軽快なノックが転がる。


「アレクくん。夕食の準備ができたけど、一緒に食べるかい?」


 スィムの声だった。どうやら、親切にも呼びに来てくれたらしい。

 億劫だったため、荷物の中に常備していた保存食で済ませようかと思ったが、厚意に甘えたくて立ち上がる。


「もしかして、部屋で寝ていたのかい?慣れないことばかりで疲れちゃうよね」


 一階へと続く階段に差し掛かったところで、スィムが振り向く。ちなみに、ロレンを先に呼んだところ、真っ先にエントランスまで飛んで行ったそうだ。


「どうして、俺が寝てたって分かった?」


 そう悟られないように素早く行動したはずなのに、彼女にはお見通しだったらしい。


「これが、スィムの能力(アビリティ)超常的な勘(シックスセンス)か?だとしたら驚異的だな」

「いいや違うよ?私の能力(アビリティ)よりも、副業の探偵の方が近いかもしれないね」


 人差し指を横に向けると、唇をなぞるような仕草をする。


「涎、垂れたような跡があるよ。それを見れば、私の勘じゃなくても誰でも分かるんじゃないかな?」

「っ……!!」


 急に恥ずかしくなって、手の甲で口元を拭う。


「あはは。別に恥ずかしがることじゃないのに。布団で寝るの気持ちよかったんでしょ?ベッドメイキングをしたの私だから、涎を垂らすくらいにぐっすり寝てくれたんだったら、私としては嬉しいよ」

「他の部屋のベッドメイクも、全部スィムがやっているのか?」

「男の子だからっていうのもあって、リチレンくんとアルガシアくんは気恥ずかしくて自分でやっているけど、リテちゃんなんて私に任せっきりだよ。アレクくんも恥ずかしいって言うなら、断ってもいいんだよ?あ、アルガシアくんのことは、みんなで夕食を食べる時に紹介するよ」


 コツコツと靴音を鳴らしながら廊下を直進し、蝋燭の光で明るくなったエントランスへと歩を進める。


「ようアレク。早く席に着かないと、肉を全部貰っちゃうぜ!!」


 ロレンが口をもごもごさせながら、エントランスに入って来たアレクに話し掛ける。


「アレクよ先に頂いておるぞ」


 続いて、ドワーフ少女・リテも、こちらに気づき口を開く。自作したものなのか、椅子が少し高めになっていた。


「やぁ、君がアレク君かい?」


 三人目に声を掛けてきたのは知らない男性だった。

 金色で短めの髪をしているが、前髪だけが長く伸びて左目を隠しており、瑠璃色の瞳が静かにアレクの姿を捉えている。


「僕の名前はアルガシア。ムス学の三年生で、聖職科を専攻しているよ。同じ寮に住む仲間として、これからも仲良くしようじゃないか」


 握手を求めてきたので手を握り返し、軽く自己紹介をする。


「この寮ではね、私が料理を作って全員に振舞っているのよ。だから、遠慮なく食べちゃってちょうだい」


 エントランスには、中央の通路を空けるようにして四人掛けの円卓が二つに分かれて配備されている。

 片方の円卓は食事に勤しむロレン・負けじと料理を掻き込むリテ・それを温かい目で見守るアルガシアの三人によって三席も埋まっているため、スィムとともに逆側にある円卓へと腰を降ろす。


「……リチレンがいないな。部屋か?」


 肉が上に乗せられたトレンショワール(皿の代わりに使われる硬いパンのことだ)を手にしながら、アレクが口を開く。


「一応呼んだことには呼んだんだけど、彼、機械(いじ)りに夢中になると出て来ないことがあるんだよね。ま、部屋に籠れるようにパンとかを買い溜めてるみたいだし、心配は要らないと思うよ」

「リチレンも俺たちと同じように、パンとかを食べるのか?」

「リチレンは相当精巧に作られているみたいでな、パンやリンゴだって食べるし、生理現象や発汗作用まである。いやぁ、やっぱり分解してみたいな」

「だから、彼のことを人間じゃないかのように扱ってはダメよ。ま、相手がリチレンじゃなくても、人間かどうかで差別をしちゃいけないんだけど」

「妾なんて、正真正銘純血のドワーフだしな!」


 はははと笑いながらビールジョッキを傾ける。身長は十代前半の子供くらいしかないが、年齢は120歳を超えているため、何処の国だろうが飲酒は問題ない。


「……っと、そういえばスィムよ。一年生があと二人来るとか言っとったな。その二人とやらは寮に着いたのか?」

「それが、まだ着いていないみたいんだよね。迷子にでもなったのかな?」

「何処の誰だか知らないけど、『商業区画』で遊んでるんじゃね?ったく、困ったやつらだな!」


 その、先に『商業区画』に寄ろうとした困ったやつ代表・ロレンが野菜が盛られたトレンショワールを口に押し込みながら答える。


「俺たち、真っ直ぐ寮に向かうように、ってミノスに言われていたのにな。それか、単純に道に迷っているだけ、という考え方もあるが?」

「それにしては来るのが遅すぎる。外も暗くなってきたことだし、何か事件に巻き込まれていなければいいんだけど。スィムさんの超常的な勘(シックスセンス)で分からないんですか?」


 アルガシアが落ち着いた瑠璃色の右目で視線を向けるが、


「うーん。相手がどんな見た目か分からないし、どんな性格かも分からないからね。ピンと来ないなぁ」


 静かに(かぶり)を振る。


「でも、女の子二人みたいだから、少々不安ではあるんだよね。周囲を探しに行った方がいいのかな」

「女の子二人、ということ以外には情報がないんですよね?だったら、スィムさんが探しに行ったところで、行き違いになるだけじゃないですか?」

「ふふん。そんな時こそ、オレの二択を制する者(コイントス)の出番だぜ!」


 視線が一気に少年に集まる。少年の掌にはコインが握られていた。


「要は、新しく来る一年生が『迷子』か『迷子じゃない』かの二択だろ?だったら、オレの二択を制する者(コイントス)が問題なく使えるじゃないか!」


 コインを親指の上に乗せながら口を開く。


「『迷子』なら表・『迷子じゃない』なら裏だ。さぁさぁ、張った張った!!」

「おっ、そういうことなら、妾は『迷子じゃない』に賭けようかな。お主らはどちらに賭ける?」


 酔ってテンションが高くなって来たのか、行儀悪く椅子の上に立ち上がる。


「賑やかなのはいいけど、他人のことを賭け事で一喜一憂するというのは、少し失礼なのではないかい?」

「アルガシアよ。確かに賭けてはいるが、金銭のやり取りをする気はないし、していない。これなら別にいいだろう?」

「まぁ、そうなんだけれど……」


 あまり気乗りがしないらしい。杯に注がれた果実酒を口に含みながら語尾を濁す。


「面白そうね。だったら、私は『迷子』に賭けるわ」

「スィムさんまで悪乗りするんですか?」

「いいじゃない別に。これが原因で誰を傷つけるわけでも、傷つくわけでもないわけだし。(たま)の娯楽は、人生のスパイスでもあるのよ」


 千切ったパンをスープに浸す。


「ここは一年生たちと親睦を深める意を込めて、アルガシアくんも何かに賭けなよ」

「スィムさんが言うなら仕方がないですね。じゃあ僕は『迷子じゃない』にしようかな」

「段々出揃ってきたな。アレクはどうするんだ?」


 口一杯に詰め込んだ肉をようやく飲み込んだロレンが、曇りのない声で話す。


「俺は『迷子じゃない』に賭ける。これだけ遅いと、何か事件に巻き込まれている可能性が高いだろうな」

「よし決まったな。ちなみに、オレは『迷子じゃない』だ」

「なんだ。『迷子』に賭けたのはスィムだけじゃないか。面白味がないな」


 ドワーフの少女が不満を漏らす中、指で弾かれたコインが回転しながら宙に舞う。


『迷子』か『迷子じゃない』か。


 コインが放物線を描き、重力に導かれるようにして机に着陸しようとしたところで、


「だから言ったでしょ?ここで合ってるって」

「はれれ?こっちには来たことがあるはずなんだけどなー?」


 両開きの玄関扉が勢いよく開けられ、視線はコインではなく、二人の少女に注がれる。

 pv数300突破しました!

 内訳は、


「ノベルアップ+」(14)+「小説家になろう」(288)=302ですね。(2021年7月15日11時現在)


 目標の300pvを突破しましたが、pvが低迷しているので、適当なところで打ち切るかもしれません。



 やっぱり、ステータス・スキルレベル・ギルド・チート・鑑定・アイテムボックスを要素として取り入れないと、誰も読んでくれないんですね……。

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