第13話:ムスターハ英雄学園第08番寮
「着いたな」
入口付近にあったモニュメントに刻まれている「ムスターハ英雄学園第08番寮」の文字と、配られた羊皮紙に書かれた文字を交互に確認しながら、ロレンが呟く。
建物自体はそれほど大きくはなく、全部で二階建ての簡素な学生寮だった。
まるでアパートのように動線となっている廊下が剥き出しになっており、外見から部屋数が10~15部屋くらいだということが、何となく分かる。
「もっとさ、世界でも有数の英雄養成機関なんだからさ、上を見上げたら首が痛くなりそうなくらい高い建物とかじゃないのかよ!!」
「文句を言うな。それだけ生徒数も多いし、学園の歴史も永いみたいだから、まぁ、こんなもんだろ」
「じゃああれか、一部屋に一つ空飛ぶ絨毯が設えられていて、朝寝坊しても学校まで運んでくれるとか?」
「『入学の手引』には、「如何なる悪でも滅せられる、強靭な肉体を身に付けさせるために、校舎は小高い山の上に立っており、生徒たちは登下校のたびに、毎回この山を登っている。」って書いてあるくらいだから、そんな便利な代物はないだろうな」
「ちくしょう!何か「おぉ、これこそ魔法学校だぁ……」みたいなことないのかよ?!動け!オレたちを運ぶために寮の石造りの階段が動けぇぇぇぇ!!」
むむむむー、と眉間に皺を作りながら玄関扉まで続く階段を踏み締めるロレン。だが無情にも、階段は静寂を保ったまま動こうとしない。
「そもそもの話、ここは魔法学校じゃなくて英雄養成機関なんだから、魔法の絨毯とかを期待している方が見当違いだと思うが?」
「えっ?!そういうもんなのか?!じゃあ、魔法の絨毯的なものは……?動く階段は…………?!」
「そういうのは、魔法に適性のある者たちが魔法について学ぶ、魔法学校ならあるかもしれんな」
「そ、そんなぁ……!!」
がっくりと肩を落とす少年。「じゃあ、空飛ぶ絨毯を求めて、魔法学校に転校する!」と言いそうな雰囲気すら醸し出していた。
「魔法っぽいことだったら、ハムスターが魔法使ったり、魔法で岩が爆破されたり、身長10フィート|(約3m)越えの牛型獣人がいたりと、十分あったじゃないか。結局、ロレンが楽したいだけなんじゃないのか?」
「ぎくっ!そそそんなことはないぞアレク。でも考えてみろよ。夜ぐっすり寝ていて朝起きたら、絨毯に運ばれて学校に到着している自分を!!最高だと思わないか?!
「学校が休みの日は、わざわざ崖を降りないと『商業区画』まで遊びにいけないなんて大変だな」
「……やっぱ、学校が休みの日だけ絨毯が動かないようにしてくれないかな?」
「じゃあ、自分自身の手で、その絨毯を作っちゃえばいいじゃないか?魔術科に入れば、そういう便利グッズの研究・開発もできるはずだろ?」
「オレには魔法適性なんてねぇっつーの。生卵を2インチ(5.08cm)浮かばせるのだって、脳の血管が千切れるくらい魔力を込めたってできやしないよ」
髪を揺らしながら、ロレンが首を横に振る。
魔法が使えるか否かは、体質・種族による違いが大きい。
エルフやヴァンパイヤのように、生まれながらにして多くの魔力を保有していたり、空中を漂う不可視の精霊の声を聞くことができる種族は勿論魔法が使えるし、逆に、ゴブリンやオーガのように、生まれながらにして魔法が使えないことが決定している種族も存在する。
ちなみに、人間の場合は生まれながらの体質によって、魔力の保有量・魔術の可否が決まっており、適性がない者はどれだけ研鑽しても魔法が使えないという厳しい現実が待っている。
「なら、いろんなところを冒険して遺物とかを集めるのはどうだ?中には、魔力を増幅させるアイテムもあるそうじゃないか」
「でも、そういう遺物って、触れた瞬間呪いが発動するようになっている物もあるそうじゃないか。圧倒的な力を与える代わりに、使用者の人格を乗っ取る魔剣とかな」
至って普通の動かない階段を上がり、両開きの大扉の取っ手に手を伸ばそうとすると、
「ふむ……。やっぱり、他では見ない技術だな……。分解してみたいぞこれ!!」
「おいコラ!!ちょこまかと逃げるんじゃねぇ!!」
建物の中から右腕を抱えて逃げる少女と、右腕が取れたまま追い駆ける少年が飛び出してきた。
「それにしても、技術の結晶とはよく言ったものだな……。長年生きてきた妾が見てもさっぱり分からんというのは、少し悔しいな。……分解してもいいか?」
「だから、ダメだっつってんだろうが!!さっさと返しやがれ!!」
どたどたと低い身長で飛ぶように階段を駆け降りていく少女に、隻腕の少年が続く。
「妾の技術の勉強のために、その腕を捧げよーーって、あれ?今、見掛けない顔の男が二人おったな」
アレクたちとすれ違って気づいたのか、階段の半ばで止まると開け放たれた寮の扉の方に振り向く少女。
「っておい馬鹿!!途中で止まるんじゃねぇ!!危ないじゃねぇか!!!」
一方、隻腕の少年は勢いを殺し切れなかったようだ。がしゃがしゃがしゃあん!!!という金属質の音を立てて階段を転がり落ちる。
「いてて……。ボクにだってちゃんと、痛覚があるんだぞ……っ!!」
「お、おい……!何が起きているというんだ…………?!」
「あ、あ、あ…………っっ?!!」
階段で転んだ少年が起き上がっただけなのだが、二人の新入生には、怪奇現象にしか見えなかった。顔から血の気が引く。
何故なら、
「頭が取れてる……!!」
少年の頭が取れており、その取れた頭を左手で抱えていたからだった。




