第11話:合否発表
「さて、全員がカードを選び終わったようじゃから、答え合わせをするぞい」
召集された受験生たちが各々に選んだカードを手に持ちながら、岩の上に立つ灰色のハムスターを見上げる。
「この岩の中に入っていたカードは……」
ダイヤか。
ロレンがフェイクだと見破ったハートか。
クラブか。
スペードか。
それとも、大多数派の無地なのか。
次に灰色のハムスターの口から紡がれる言葉を聞き洩らさないよう、受験生たちの間に不気味なほどの静寂が広がる。
そして、一度言葉を止めた後、学園長は、こう言った。
「何もない!!」
「…………は?」
鏡を見なくても分かる。
今のアレクの顔は、隣にいるロレンやその他の受験生たちと全く同じような顔をしていると。
「この岩の中にはな、カードなんて元々入れていないんじゃよ。じゃから、『分からない』の無地のカードを持っている者が正解じゃ。無地のカードを選んだ諸君、合格おめでとう」
「ふざけるなよ!!」
学園長の鮸膠もない祝いの言葉とは裏腹に、近くから興奮した男の声が聞こえた。
視線を向けると、先ほど学園長に返り討ちにされたネコ耳の獣人が、地面に叩きつけたカードをブーツで踏み拉いているところだった。足元に抑えられたカードからは、ピンク色のハート柄が覗く。
「オレは試験会場にいた、「透視ができる」っていう女の指示通りに選んだのに、どうしてそれが間違ってるんだよ!?」
透視ができる女というのは、ローブを被った水晶玉の少女・ザウドのことだろう。他にも同様の被害を受けた者たちが、ネコ耳獣人に共鳴して抗議の声を挙げる。
相当な人数がいるらしく、抗議の声が段々と大きくなる中、
「その女っていうのは、ザウドちゃんのことかなぁ?」
またしも人混みから声が挙がった。しかし、今度は忙しなく首を動かさなくても分かった。
緑色のプリーツスカートに白のブラウス、脚には黒のニーハイソックスを穿き、上からフードの着いたローブのようなものを羽織った少女が、淡い光に包まれながら浮かび上がり、ゆっくりと岩の上に立つ齧歯類の隣に着地する。
「ご苦労じゃったのうザウド先生。お主の名演技によって、かなりの受験生たちを篩に掛けることができたわい」
やはり、この学園の教師だったか。
どうみてもハイティーンにしか見えない教師が、道化師じみた口調で話す。
「ははは。結構結構!あたし、魔術科の専属教師なんて辞めて、演劇役者として稼いでいこうかな。歌って踊れる英雄ザウドちゃん☆、かっこよくないですか学園長?」
「別に歌ってはいないじゃろ……。それに、この場合は演劇よりも詐欺師に向いているんじゃないかのう?」
「えーっ、詐欺師をする英雄なんて、聞いたことがないですよぉ。かっこ悪いですよそんなの」
ぶーぶー、と子供のように頬を膨らませるザウド。だが、受験生たちは怒涛の展開についていけず、混乱と響動めきが広がる。
「つまり、ザウド先生はお主らを貶めるための罠であって、一芝居打ってもらったというわけじゃ」
「透視できるっていうのは嘘だし、この学園の在校生っていうのも嘘。あ、でも、この学園の先生というのは本当だからね?そこは信じてよ!」
「と、いうわけで、ザウド先生の水晶占いを信じて従った者は脱落じゃ。自分で考えもせずに、頼まれた問題の解決を見ず知らずの他人に委ねて、しかも、お礼に金銭を渡すようなやつは、この学園にはいらん。帰れ帰れ!!」
学園長の叱責に背中を押されるようにして、奥歯を鳴らしながら悔しそうにする者たちや、死にそうな顔をして落胆する者たちが、次々と出口へと向かう。
後にはくしゃくしゃに握り締めた跡や、踏みつけられた跡のあるハートマークのカードが散乱していた。
「納得がいかねぇ……」
その中の一人、頑として非を認めないネコ耳獣人の少年が熱り立つ。
「だったら、岩を割ってカードがないことを証明しろよ!!証拠を見せてもらわないと、オレは納得できないぜ」
「あの少年、往生際が悪いのう。ないものはないと言っておるのに」
ムスターハが顔を渋くする。
「そういうことだったら、砕いちゃいましょ。肩に乗ってください学園長」
「任せてもいいのかのう?」
「これくらい、あたしにだってできますよぅ」
岩から降りると、ふわふわと浮かぶ水晶玉に両手を翳す。
「属性は火と風、対象は岩。岩のみを粉々に粉砕せよ」
大きく息を吸い込むと、
「サブディバイド!!」
魔法の名を叫ぶ。
次の瞬間、けたたましい音とともに巨岩が爆散。粉々になった岩石が礫となって周囲に撒き散らされ、爆風を伴いながら飛来する。
「ばかもん!もっと丁寧に岩を砕かんか!!」
「だって、粉々にするよりも爆破させた方が手っ取り早いですよー」
身体が小さいというのは、どうにも不便そうだ。
爆風で吹き飛ばされた学園長が、ザウドの肩の上に戻る。
「全く……。まぁ、目的は達成できたから、大目に見るとするかのう。ほれ少年。岩があったところを好きなだけ探っていいぞい。瓦礫をどかすなり何なりして、好きに散策するがよい」
「いいだろう。絶対に見つけてやるよ!」
中庭の中央にあった瓦礫の山を掘り起こすネコ耳獣人の少年。どの岩も握り拳以下のサイズまで粉々になっているため、手を払うだけで容易に探すことができる。
が、
「どうじゃ?何かあったかの?」
「な……、何もない……だと…………?本当に、岩の中には何もなかったていうのか…………?」
急かされるように身を屈めて瓦礫を探すが、カードが出現する気配はない。
「よいか少年」
手頃な小山に攀じ登った齧歯類の学園長が、獣人と相対する。
「この試験は、『どんなに汚い手を使ってでも結果を出すこと』ではなく、『分からないことや、できないことを素直に認める正直さ』を試した試験なんじゃよ。試験が始まる前に言ったはずじゃろ?「これは岩を壊す『力』でも、儂を倒す『技』でもなく、『岩を透視する』という難題に諦めずに向かう『心』を試す試験じゃ」と」
「そんな……」
がっくりと肩を落とす。
「これから魔王軍の連中やモンスターと、命を懸けて戦うことになった時、自分一人では倒せない敵は必ず出現する。そのような難敵と出会った時に、自分の非を認めて仲間に助けを求められる、そんな清らかな心が、お主には欠如していたということじゃよ」
「あ、あぁ…………」
よほど悔しかったのか、細かい岩が散乱した地面を、少年の目から落ちた雫が濡らす。
「機会はまたある。次は、もう少し自分に正直になってから、もう一度試験を受けに来てくれないかのう?」
「だ……、だって…………」
まだ未練があるようだ。
哀愁に声を震わせながら、少年は告げる。
「オレ、気絶していて、その言葉聞いてない……っ!!」
「それはすまんかった!!」
今度は灰色のハムスターが全力で頭を下げる破目となったのだった。
ムスターハ学園長が『心』を試す試験だと説明した時、ネコ耳獣人の少年は学園長に返り討ちにされて、気絶していたのだ。




