第10話:どのカードを選ぶ?
「さて、これで、岩の中にあるカードがハート以外だということは分かったな」
昇降口を出てやや進み、昇降口脇で椅子に座りながらニコニコした顔で待機するクルスト先生を見ながら、ロレンが口を開く。
「……どういうことだ?説明してくれ」
「ふふふ。オレの能力を忘れたとはいわせねーぜアレク」
手中でコインを弄ぶ。
「オレの二択を制する者は、二択であれば絶対に当てられる能力だぜ?だから、相手が言っていることが真か偽かも見破ることができるのさ!……まぁ、事前に相手に触れていなきゃいけないし、一定の時間だけっていう制約はあるんだけどな」
「っ!!ということは!!」
「あぁ、ザウドが言っていた「答えのカードがハート」っていうのは嘘だ。それどころか、ムスターハ英雄学園の在校生っていうのも、透視する力がある、っていうのも全部嘘だった。オレの二択を制する者が無かったら危ないところだったぜマジで」
「もしかして、嘘だと分かっててザウドに透視させて、様子を窺っていたということか?」
「どうだ?なかなか名演技だっただろ?」
キザっぽくウインクする。
「あんなに堂々と嘘を付けるなんて、要注意人物決定だなこりゃ。これ以上関わらん方が無難かもしれないぜ」
「それはいいけど、結局どうすればいいんだ?ハート柄以外のカードを選ぶっていっても、四種類もあるんだぞ?」
「ダイヤ・スペード・クラブ・無地か。分からない場合は、どうすればいいんだっけか?」
「学園長は、無地のカードを選べと言っていたな」
「じゃあ、オレたちも無地のカードを選ぶか?」
「うーん……」
そんな簡単な選び方でいいのだろうか。
何か答えを導き出す方法はないだろうか。
頭を捻って考えるが、正解は見えてこない。
「ここでぐじぐじ考えていても仕方がないし、ぱっぱと決めちまおーぜ。案ずるより産むが易しって言うし、あれこれ決められないで苦しむくらいなら、何でもいいから選んじまおう!」
どかどかと歩くと、クルスト先生が座る机へと向かう。
「試験お疲れ様です。どの柄のカードが入っているか分かりましたか?」
「結局分からなかったから、オレは無地のカードを選ぶぜ」
絵柄を上に向けて陳列されるカードの束に手を伸ばそうとすると、
「ちなみに、カードの交換はできないので、間違えのないように選んでくださいね」
金色の髪を自然に伸ばした教師にそう告げられ、ロレンの手が無地のカードの直上で止まる。
「…………」
「勿論、一緒に選ぶよな?」みたいな目線で圧力を掛けてくるロレン。旅は道連れ世は情けとは言うが、その「道連れ」の部分を分かち合おうという魂胆らしい。
岩の中にあるカードが何か分からないし、正解かどうかも分からない。
しかも、『透視をした結果、無地だと判断した人』と『透視ができない人』の二種類の人間が選ぶことから、選択肢として最も選ばれるはずである無地のカードが正解であるとは考えにくいような気もする。
(仕方がないか……)
ロレンが指の腹で撫でるようにして無地のカードを手中に収めた直後、アレクも同じ柄のカードを指で挟む。
「それでは、全員が選び終わった後に学園長から指示があるので、それまでは待機していてくださいね。中庭と昇降口付近であれば何処にいてもいいので、自由に見て回ってくださーい」
金色の髪を揺らしながら、少しだけ首を傾ける。
☆★☆★☆
「全員が選び終わるまで」と言っても、参加者の数が多い分、試験終了までには長い時間がある。
「なぁ、アレク。お前、一体何者なのさ」
余った時間、これと言ってやることがなく、隣に座ったロレンが口を開く。
「随分と単刀直入に聞いてくるな」
「御託を並べるのって間怠っこくて嫌いでさ。この方が、互いに楽じゃないか?」
「お世事を並べるほどの語彙力がない、の間違いじゃないか?」
「なかなか辛辣なやつだな。……まぁ、否定できねぇけどさ」
唇を尖らせながら空を見上げるロレン。
晴れ渡った春の空からは温かな陽光が一帯を照らし、現在アレクたちがいる昇降口前の小広場には、同じく時間と暇を持て余した受験生たちが談笑に勤しんでいた。
「残念ながら、俺の素性については、詳しく話すことはできない。あまり、荒立てたくないからな」
「ザウドを見て拳を握り締めて、歯を食い縛っていた癖にか?」
「誰だってやられたらやり返したくなるものだろう?何処かの法では、「目には目を歯には歯を」なんて言うくらいだしな」
「随分と物騒な法律だな……」
「ただ一つだけ言えることは、俺は勇者ブランドを探すために、同じパーティのメンバーだったムスターハの話を聞きたい、ということだ。それ以外は何も言えん」
「えっ?ブランドって、レウノ村に帰ったんじゃないのか?」
ロレンが目を白黒させる。
16年前、魔王ルグルガーラとの死闘を終えたブランドは、自らの傷を癒すために、生まれ故郷であるレウノ村に帰り、隠遁生活をしている。
――というのが、世間一般に伝播している、勇者ブランドの英雄譚だ。
「確かに、ブランドはレウノ村に帰って来ている。だけど、その4年後、ブランドはレウノ村を後にして、行方が分からなくなっているんだ」
「なん……、だって…………?!」
雷に打たれたような衝撃が、ロレンの心中に走る。
「勇者ブランドが行方不明だって?!そんな状況で魔王軍が攻めて来たら、オレたちは、どうなっちまうんだよ?!」
「だから、その最悪のケースを回避するために、俺はブランドを探しているんだよ。あと、あまり大声で言うな!!極秘情報だぞ!?」
失態を犯さないように、慌ててロレンの口を手で塞ぐ。
「でも待てよ!なんでアレクが、そんな重要な情報を握ってるんだよ?!ますますアレクが何者なのか分かんねぇぜ」
「知っていて当たり前だろう?俺はブランドの息子なんだから」
「ア……、れくがブ・ブ・ブ・ブランドの…………っ!!!」
「だから、大きい声を出すなって、言ってるだろうが!!」
……本当に、こいつに打ち明けても良かったのだろうか。
ロレンの口を塞ぎながら、一人懶しくなるのだった。




