第9話:魔法少女ザウドちゃん☆
「うおぁっ!!いきなり出てくるとビックリするじゃねぇか?!」
いつの間にか隣に立っていた少女に、驚いたロレンが飛び退く。
膝上まで伸びた緑色のプリーツスカートに白のブラウス、黒のニーハイソックスという出で立ちで、上からフードの着いたローブのようなものを被って身体のラインを隠しているが、背丈や顔付きからすると、アレクたちとそれほど年齢が変わらないように見える。
他に特筆するべきことと言えば、左手に人間の頭くらいのサイズがある、大きな水晶玉を持っていることだろうか。
「これはこれは。驚かせてしまって申し訳ない。あたしの名前はザウド。君たち新入生の顔が見られて嬉しいよ」
「オレの名前はロレン。これからよろしくな」
女の子に対する反応が宇宙一速い男・ロレンが即行でザウドの右手を握る。
「どうです?入学試験が終わったら、これからオレと紅茶でも飲みません?オレ、これでも紅茶には詳しいんですよ?」
「あはは……。お気持ちは有難いけど、君たちにそういう目的で接触したわけじゃないんだよね。君たちにとっておきの話があってさ。ここで逢えたのも何かの縁だし、少年たちに耳寄りな情報を教えてあげようと思ってさ」
ロレンにがっちりと握られた手をそのままに、視線をアレクに向ける。
「実はあたし、この学園の在校生でね。入学試験に困っている受験生たちを、こっそり助けているのだよー。ま、その分、お金は掛かるけどね。入学料だと思って、胸を張って払いたまえ!」
「で、でも、どうやって俺たちを助けてくれるんですか?」
「ふふふーん。それが、この水晶玉だ!」
直上から差し込む太陽光を受けて、左手の水晶玉がキラりと光る。
「あたしには物体を透視する能力があってね。その能力で透視したカードの模様を、この水晶玉に映してあげよう!」
「本当か?!やったなアレク!!ここは一つ、先輩に任せちゃおうぜ!!」
「ふふふ。先輩風を吹かせたあたしに、どーんと任せなさい!!」
左手に乗せた水晶玉に右手を添えると、
「むむむむむむーーーーー…………っ」
目を閉じて神経を研ぎ澄ますザウド。精神を集中させるのに力を使うのか、眉間には皺ができていた。
「(なぁ、アレク。透視って言っていたのに目を閉じてるんだけど、あれって本当に、透視なのか?)」
邪魔をしないために、ロレンが小声で話し掛ける。
「(俺にも分からんが、透視にもいろいろなパターンがあるんじゃないか?)」
例えば、『発火』という現象一つとっても、火の精霊の力を借りた魔法によるもの、木の枝などを人間が擦り合わせて熾す人為的なもの、山火事などの天災、化学反応などの様々なパターンがある。
それと同じことで、透視にも、物体を透視できる体質によるもの、透視を可能にする魔法、超常的な勘や予知によって中身を当てるものなど多岐に渡るようだ。彼女の場合、「透視」とは言っているが、どちらかと言うと占いに近いのだろう。
目を閉じながら唸る少女を少しの時間見守っていると、
「出ました!!」
突如として開眼し、叫ぶ。
「おっ?!一体、何の模様が出たんだ?」
「出ましたよー。出ちゃいましたよー!!」
アレクとロレンが急いで少女の前に回り込むと、水晶に模様が書かれたカードが浮かび上がったところだった。
水晶玉に浮かんだのは、
「ハートか?」
「ハートだな」
中央にハートの模様が描かれたカードだった。
と、いうことは。
「よし、じゃあハート柄のカードを選べばいいんだな?!」
「そゆことだね」
「よし、行くぞアレク!」
「ちょいとお待ちよ少年。何か忘れてないかい?」
襟首をがっしり掴んで振り向かせると、空いている右手を出す。
「最初に有料って言ったでしょ?ほら、払いなさいよ、ほら、」
「分かった分かった。で、いくら払えばいいんだ?」
うーん、と、かわいく顎に人差し指を当てて考えると、
「ま、でも今回は初回限定サービスということで、特別にタダでもいいかなぁ。あたしの凄さは十分に見せたし、これで入学したら、あたしに頼りたくなるでしょ!」
こう告げた。
「あ、でもほら、国によっては『チップ』って言って、感謝の気持ちとしてお駄賃を恵む文化があるっていうじゃん?だから、ほんの気持ちだけでもいいから、くれると嬉しいなぁ、って」
「マジか?!助かるぜ」
差し出された右手の上に、銅貨が一枚置かれる。ロレンの故郷であるメクイシ村と、その周辺で使用されている通貨・セモ銅貨だ。
「次は、そこの君だ。君は、いくらくれるのかにゃーん?」
「気持ちがあればいいんだよな?だったら、こいつで十分!」
そこら辺に落ちていた石ころを拾うと、銅貨の上に乗せる。
「……見たことがない貨幣だねぇ。あたしには、そこら辺で拾った石にしか見えないんだけど?」
「俺には、あんたにコテンパンにやられた借りがあるんだからな。そいつを返したら、これでもお釣りが出るくらいじゃねぇのか?」
今からでも殴り掛かりたいほど腹が立っていた。
ザウド、という名前を聴いて、頭の中で散らばっていた情報が連結し、昨晩の恨みが沸き上がる。
アレクの記憶が正しければ、彼女は昨晩アレクを圧倒し、(ここからは憶測だが、)赤いインクの丸文字で書き込んだ『入学の手引』を荷物に混入させた張本人だ。
「ふんっ。折角あたしが正解を教えて融通を利かせてあげたというのに、それを仇で返すとはね!」
「何なら、今すぐにでも返してやろうか?昨晩俺の鼓膜を割った分をな!」
「待て待て待て待て!!!」
二人の目線から火花が散り出したところで、ロレンが間に割って入る。
「お前ら二人がどういう関係かは分かんねーけど、カードの中身がハートだって分かったんだし、とりあえずは、それでいいじゃねぇかっ!!さっさと昇降口まで行こうぜ!!」
「…………ちっ、仕方がない」
確かに、怒りに任せてここで戦い、体力を消耗するのは得策とは思えない。
ぐいぐいと引っ張るロレンに引き摺られるようにして、アレクは騒がしい中庭を後にするのだった。
背後では、ローブを被った魔法少女が「んべー」と言いながら、かわいらしく舌を出していた。




