第45話 魂の在処
寝返りを打つとギシリとベッドが軋む。
そして
「…オワッ!」
ベッドから落ちた。
部屋の窓からは地平線から頭を出す朝日が見える。
起きてすぐに打った頭を抑えながら、太一は昨日召喚されたときのことを思い出した。
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光り輝く魔法陣が消えて手をどかすと、目の前には見知らぬ人と景色が広がっていた。
ヨーロッパの建物を彷彿とさせるような石造りに、ゲームなんかで見る聖職者の服を着たおっさんが数人並んでいる。
その奥には、金色に輝く王冠を被り、「あ、王様かな?」と一瞬でわかるような佇まいのダンディと目を見張るような美しさの銀髪少女がいる。
聖職者軍団が口々に、「成功したのか?」だったり「この方たちが勇者…」だったりつぶやいている。
不意に奥に佇む王様っぽい人が口を開いた。
「異界の勇者殿らよ、この度は召喚の応じてくれたこと、誠に感謝する。」
そう言うと召喚された生徒以外が全員頭を下げた。
生徒の様子を見るからに明らかに動揺しているようだ。
それもそうだろう。先ほどまで見慣れた教室にいたのが、次の瞬間にはどこぞの石造りの建物にいるのだ。
「勇者…?どう言うことだ?」
太一を除けば最も冷静になっているであろう蒼士が全員の気持ちを代表するかのように尋ねる。
と、同時に他の生徒も頷く。
ちなみに太一は石造りの窓から外を見ている。
黒い靄のようなナニカが一瞬見えた気がしたようだったが、気のせいなようだ。
いつものことだと言うように前を見据える。
「申し訳ございません…こちらの都合で召喚を行わせていただき、結果的に貴方様たちがそれに応えたことになってしまっているのです。」
王様っぽい人の言葉を聞いたツンツン頭の男子が怒りを露わにしながら一歩踏み出した。
「ふっざけんなよっ!勝手に召喚したってことだろ⁉︎俺らのことは何も考えなかったのか⁉︎」
見た目に反したなかなかの正論に太一も少し頷く。
こちらの都合は一切無視、勝手に召喚して嬉しがっている聖職者軍団に生徒の目線がぶつかる。
その視線を遮るかのように歩を進めたのは銀髪美少女だった。
「お初お目にかかります。私はこの国の王女、シャーロット・リント・リーワイドと申します。この度は本当に申し訳なく思っております。それにつきましては今から説明させていただきます。」
そう言って説明しだした話を生徒たち、もとい勇者一行は聞いた。
話の内容としては、ヘスティアがシドに言ったこととほぼ同じことである。
「…ということです。勇者の皆様、どうかお力をお貸しいただけませんでしょうか。」
そう言って再度頭を下げるシャーロットに、太一が質問を投げかけた。
「さっきから思っていたんだが、俺たちは帰れるのか?この異世界ストルから、元の世界に変えることは可能なのか?」
一瞬だけ、辺りが静寂に満たされる。
その問いに答えたのは皇帝だった。
「戻る手段ならある。文献によれば、邪神がその方法を知っているらしいのだ。勝手な願いで申し訳ないが、どうか、我々に力を貸してくれないだろうか。」
そう言う皇帝を見ながら太一は眉をしかめた。
(嘘だな。送還方法なんてない。あったとしてもだれも知らない、ってとこだろうな。)
太一は人の嘘を見破ることに長けている。
今、皇帝は「邪神が知っている」といった時に目線が右上を向き、瞬きの回数が増え、身振り手振りが大きくなった。
一概には言えないが、全て嘘つきのする特徴に酷似している。
「じゃあ、その邪神を打ち倒せば俺たちは元の世界に帰れるんですね!」
「そ、その通りだ。」
(いや、今思いっきりどもっただろ。早乙女《お前》の頭の中はお花畑か)
蒼士の言う事にそう思った太一だが、今は口に出さないでおく。
太一だって男だ。こんな世界に憧れを抱いたことも少なからずある。
その後聖職者の指示に従い、全員が自らのステータスを確認した。
全員が間違いなく勇者であるが、真の勇者はただ1人とのこと。
真の勇者はだれか。もちろん現在クラスのまとめ役である蒼士が『真の勇者』だった。
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早乙女 蒼士 Lv.1
年齢:16
種族:人間
性別:男
魔力:210
速:190
攻:140
守:140
スキル:【言語翻訳】【聖光】【光魔法Lv.1】【火魔法Lv.1】【雷魔法Lv.1】【剣術Lv.1】【武術Lv.1】
称号:【真の勇者】
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やはり勇者と言うだけあって光属性なのだろう。
称号にはご丁寧に【真の勇者】とある。
「流石、真の勇者様!」と聖職者に言われた蒼士はまんざらでもない顔をしている。
女子をまとめる唯は『結界師』だ。
蒼士が攻めて唯が結界を張る。
理想的な組み合わせだろう。
その他の生徒も自身のステータスを見て歓喜したりしている。
『剣士』や『拳闘士』、各属性の『魔法使い』など、全員が勇者と言えるステータスを持っている。
(さて、俺のステータスは…)
他の反応を見てから太一は自分のステータスを開く。
見てから首を傾げた。
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藤野 太一 Lv.1
年齢:17
種族:人間
性別:男
魔力:440
速:400
攻:350
守:290
スキル:【言語翻訳】【隠蔽】【気配遮断】【気配察知】【暗殺術】【影潜り】【壁登り】【短剣術Lv.1】【武術Lv.1】【黒影舞踏会】【闇魔法Lv.1】
称号:【勇者】【暗殺者】
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(これは…真の勇者様を上回ってるよなぁ)
【暗殺者】である太一は【真の勇者】である蒼士を軽く超えてしまっている。
動きが俊敏なのもそれにつくのだろうか。
そんなことを考えていると部屋はすでに用意してあるため、今日はこのまま自室でくつろいで欲しいとのことだった。
割り当てられた1人部屋は広く、生活するには困らないほどの設備も整っている。
食事は同じ場所で食べるらしく、食事前になると鐘がなるらしい。
ベッドに横になった太一は何も考える暇もなく、いつも通り夢へとダイブした。
そして冒頭へと繋がる。
太陽が頭をのぞかせているといってもまだ辺りは薄暗い。
一応城内での勇者の行動は自由とされているため、自室から出た太一は中庭へと向かう。
頭を打った衝撃で既に目が冴えている太一はまっすぐ中庭へと来れた。
庭師によって手入れされた低木や草花は日本ではなかなかお目にかかれないだろう。
朝露に濡れる草花の向こうに、自分がよく知る人物がいることに太一は気づいた。
「早いな、隼人。爺さんかよ」
太一にそう声をかけられた人物は答えた。
「太一か。お前こそな、爺さんかよ」
鳴宮隼人は軽口を言いながら振り返った。
カラスの羽のような短い黒髪と黒目を持ち、黒い細縁メガネをかけた青年。
諒太と太一と仲が良かった人物であり、学年一の天才でもある。
諒太が生きていた頃は太一と隼、それにあと2人の女子を加えた5人の幼馴染でよく遊んだりもしていた。
「たしかに俺もそうだな。だが、寝返りを打って落ちて起きたわけだから俺は早起きではない。」
「意味のわからない自論を展開しないでくれないか?朝から頭が痛くなる。」
苦笑いしながら頭を抑える隼人の近づき、腰を下ろした。
こうすると諒太を思い出してしまう2人である。
しばらく昇りつつある朝日を見ていたが、メガネを指で押し上げながら隼人が口を開いた。
「太一、お前のステータス、どうだった?」
「ん?あー普通だ、普通。早乙女にはかなわねぇよ。」
「…お前、嘘を見破るのは得意なのに、嘘をつくのは驚くほど下手だよな。」
その言葉に一瞬ビクリとして目をこする太一。
その間、ずっと隼人は太一を見ている。
「本当の事を言ってみろ、太一。お前も早乙女より高いステータスだったんだろ?」
「え、俺、今尋問でもされてんの?…ん?お前も?」
隼人の言葉に違和感を覚えた太一は先程聞いた言葉を繰り返す。
「なぁ、お互いにステータスを見せ合わないか?そうするのが一番合理的だ。」
そう言うと「ステータスオープン」と唱えた隼人につられ太一もステータスを開く。
もし相手が隼人でなかったら太一はこんな事していないだろう。
今までに何度も助け合ってきたからこそステータスを見せるのだ。
「…ほらなやっぱり高ステータスだ。で…【暗殺者】か。俺たち3人の中で唯一自動ドアに感知されにくいお前にぴったりな役職だな。」
「黙っとけ。一応言っとくけど、それ地味に傷つくからな?…ってかお前も役職ぴったりじゃねぇか。でも、なんだ?【顕霊師】って。」
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鳴宮 隼人 Lv.1
年齢:16
種族:人間
性別:男
魔力:630
速:210
攻:160
守:240
スキル:【言語翻訳】【顕霊】【気配遮断】【念話】【影潜り】【魂の在処】【焔Lv.1】【淼Lv.1】
称号:【勇者】【顕霊師】
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たしかに、蒼士よりも全てのステータスが高い点は太一と同じだ。
【真の勇者】とか言われている蒼士が見たら涙目になるかもしれない。
【言語翻訳】と【気配遮断】も同じだが、他はよく分からないものばかりだが、際立ってわからないのは【現霊】のスキルだ。
「俺も不思議に思って、昨日の夜に部屋で試してみたんだが…正直腰が抜けそうになった。」
「へ?お前がか?」
珍獣でも見たような目で隼人を見つめる太一。
ちょっとのことではノーリアクションで、何事にも冷静な隼人が腰を抜かしそうになっている状況が思い浮かばない。
少し周りを見渡して人がいない事を確認した隼人は太一に向きなおって話を続ける。
「太一は俺が実はオカルト好きだって事を知っているよな?」
「あぁ、よーく知ってるよ。お前のオカルト好きに何度付き合わされたかわからないからな。」
見た目はいかにも霊だったりUFOだったりを正面から否定しそうな隼人だが、実はオカルト好きなことは太一と諒太しか知らない。
2人しか話せる人がいないために、休日には3人でオカルトスポットへと行っていた。否、連れまわされていた。
「そんな嫌そうに言わないでくれ。で、その中には都市伝説だったりもあるだろう?有名どころで言えば、八尺様とかか。」
「八尺様っていうと…アレか。香辛料の都市伝説だったか?」
「バカか。高身長だ。何をどうすれば香辛料の都市伝説が生まれるんだ。」
自分の記憶違いに疑問を抱きながらポリポリと頬をかく太一に呆れながらも話を続ける。
「このスキルの説明に、『霊的事象を具現化し、自らの支配下におく』というのがあるんだ。物は試しにとさっき言った八尺様をイメージして発動してみた。そしたらーー」
「スキルによって出てきちゃった、と。」
頷く隼人の顔には冷や汗が見える。
本気で震えたのだろうか。
「その通り、イメージしたのと全く同じやつが出てきた。白いワンピースをきて麦わら帽子を被った、身長2m40cmの高身長の女が。情報通り、ポポポポポとか言ってた。」
太一の頭には身長2m20cmの韓国出身の某シルム選手との対比画像が出てきた。
ムキムキの高身長な男と、それよりも背が高く白いワンピースの女がポポポと言いながら並んで立つイメージはなかなかにシュールだ。
「どうやら俺の魔力を糧としてこの世界に顕界できるらしく、使役している間は魔力が少しずつ消費されていった。今のままではあまり使えるものではないな。」
「使えるものじゃないって、じゃあどうやって戦うんだよ。」
「他のスキルを使う。【焔】と【淼】を使えばそれなりになんとかなるはずだ。」
そう言うと隼人は両手を上に向けた。
小さく【焔】と【淼】と唱えると、右手には青白い焔が、左手には輝く水球が浮かび上がった。
「この2つは消費魔力も少ない上に威力も高い。しばらくは【影潜り】で安全を確保しながら【焔】と【淼】を使って乗り切るさ。風が吹けば飛ぶ通行人Aでも演じるつもりだ。」
「なんというか、さすがだな。お前が通行人Aなら俺は通行人Bになることにする。」
またしばらく黙った後、不意に太一が口を開いた。
「俺たちがこんなだったなら、諒太がいたならどうなってたんだろうな。」
「…あいつのことだ。【勇者】どころか【魔王】にでもなってただろうな。」
どこか遠い目をしながらそう言う2人の脳内には、敵意ある人間を素手で無双していた諒太が映し出された。
なぜかそんなことをしながらも笑っているのは気のせいだろう。
「それについてなんだが…太一、俺のスキルの1つ、【魂の在処】ってあるのを見たか?」
「あぁ、あったな。2番目に意味のわからないスキルだ。」
「俺もサッパリだったから、昨日使ってみたんだ。魂の在処、もしかしたら死んだ諒太も地球と隣接するこの異世界にいるかもしれないんじゃないかって、淡い希望を持ってな。」
「隼人らしい考え方だな。それで?淡い希望はどうなった?」
すぐ横に腰を下ろして太陽を見つめる隼人が次に言ったことに太一は目を見開いた。
「いたよ。この世界に。諒太の魂が。」
そう言って隼人はニヤリと笑った。
太一は眠気が吹っ飛んだかのような顔をしている。
「ははっ、まぁそうなるよな。俺もそうなったよ。ただ、詳しい場所までは分からなかった。わかったのは、この世界にいるってことだけだ。」
「…マジかよ…ハハッ!あいつはやっぱりスゲーな!」
顔を見合わせると2人して笑い出した。
さんざん笑った後、中庭に寝転がって隼人が目を瞑った。
「なぁ、太一。やりたいことがあるんだ。」
「…俺も多分同じことを考えてるな。」
太陽はすでに半分ほど地平線から出てきている。
「「あいつを見つけてとりあえず殴る」」
同時に言ってニヤリと笑い、ハイタッチをする。
朝日に照らされた城の中庭に、2人のハイタッチの気持ちいい音が鳴り響いた。




