第44話 Let’s 召喚
『勇者』
それは、この異世界ストルに降りかかる厄災を祓うとされ、希望の光とされる者。
数百年前、この世界にある邪神が進撃した。
その際、隣接する世界から勇者が召喚された。
彼らは圧倒的なまでの力を駆使して邪神の使徒を壊滅させ、遂には邪神の封印に成功した。
それは未だ残され続ける伝説の一つである。
彼らは皆一様に同じ服を着ており、「日本からきた」とかなんとか言っていたらしい。
ーーーーーーーーーーーー
ー地球 日本 篠宮諒太の事故死から1年後ー
「お前が死んでからもう一年か。」
ポツリと口から出た言葉は、誰に届くわけでもなく空に溶けて消えていく。
窓際の席で外を見ながら言った藤野太一の言葉にクラスの多くが寂しそうな顔をする。
親友である篠宮諒太が死んでから1年が経った。
当時の鉄骨による事故死はテレビでも取り上げられ、工事会社の管理不十分などが問われていた。
結果的には諒太の遺族への謝罪と多額の賠償金を払うことによって事態は終わったが、残された側からすればそんなもので済むわけがない。
諒太の両親は激怒し、同時に泣いていた。
数日経ってから葬式が行われた。
クラスのほぼ全員が出席し、それだけでなく他クラスの生徒や先輩、さらに他校の生徒や、号泣している「や」から始まる怖い方々までもが出席するという、本来の規模を大きく上回った葬式となった。
泣いている者、魂が抜けたような顔をしている者など、それこそ多種多様とでも言えばいいのか。
諒太が居なくなってからというもの、クラスはなんだかガランとした雰囲気になった。
クラスだけでなく、学年の潤滑油的存在だった諒太は、男子からも女子からも、教師からも好かれていたのだ。
入学して3ヶ月以内に2桁をいく人数に告白されたのは伝説となりかけていた。
他に諒太伝説として残っているものとしては、中学の時に巻き込まれた銀行強盗で、偶然その場に居合わせたために、犯人全員を経験のある合気道やら空手やら柔道やら、挙げ句の果てには南アフリカのング二棒術とかいう、「いつ習ったんだ」と尋ねたくなるような武術で制圧したことだ。
大柄な強盗団が1人の中学生に完膚なきまでにボコボコにされ、白眼を剥いて泡まで吹いて倒れていた光景は太一の目に焼き付いて離れない。
そういう太一も実は2人の強盗を一瞬にして殴って気絶させたのだが、諒太のインパクトが強すぎて全部持っていかれてしまったのはいうまでもない。
諒太が強盗をボコボコにしている時になんとなく笑っていたのは……気の所為だろう。
これはほんの一例だ。
まだまだ多くの伝説があるが、それこそ一つずつあげればきりはない。
とにかく、そんな暗い雰囲気から徐々に回復していったクラスは、生前の諒太と並ぶほどのムードメイカーで、クラス委員でもある早乙女蒼士や、女子をまとめ上げる萩原唯を筆頭に、今では諒太の分も生きていこうと前向きに進んでいる。
「そろそろ授業が始まるし、席に着こう。」
全員に呼びかけるように爽やかな声で蒼士が声をかける。
生まれ持ったカリスマ性と整った顔立ちは多くの人から好評がある。
その上、運動神経抜群、成績優秀ときたものだから、非の打ち所がない。
だが、次の授業が始まるチャイムを聞くことはなかった。
突如教室全体に光り輝く魔法陣が浮かび上がる。
「ッ!なんだコレ⁉︎」
驚いて立ち上がった太一と同じようにほぼ全員が驚きの表情を隠せないようだ。
落ち着けと蒼士が言うが、そんな声で落ち着くわけもない。
一部の生徒は、
「おぉ!コレはアレか!ついに俺も異世界に行くのかっ!」
と、なんとも嬉しそうな声を出している。
次の瞬間、目の前が光に包まれ、意識を手放したのだった。
ーーーーーーーーーーーー
「…何これ。」
しゃがみこんだレヴィが指をさしながらそう言う。
どうにか進もうにも進行方向にレヴィがいるので仕方なく向きを変えるも、すぐさま回り込んで邪魔するため、さっきから同じ場所をウィンウィンいいながら回転している。
「ん?あぁ、それか。聞いて驚け。敵対者迎撃システム搭載自動お掃除ロボット、名付けてDXル◯バだ。」
それは地球では定番の自動お掃除ロボット、ル◯バをシドが魔改造したものだ。
本来の自動清掃に加え、重力魔法により2トンまでならその上に物を乗せることができる代物だ。
特筆すべき点は、なんといってもその攻撃性だろう。
敵対意識を持つと感じたものには容赦なく【パラライズ】が付与された電磁加速によって加速した音速のゴム弾が牙を剥く。
あくまでゴム弾は人間用であって、それ以外には火魔法の強化である超高熱の熱光線、又は通常の弾丸が射出される。
行動可能な最高時速は驚きの時速1000kmだ。
それ以上の速さはDXル◯バ自身が自壊するため、現状これがMAXである。
試しに絶望の森に放ってみたところ、その速さと攻撃性でブラッドウルフを一瞬にして亡き者にした。
手榴弾と一緒に試作してみたが、思いのほか良い性能でありながらも作りは簡単だったため、今では孤児院にも3台ほど預けてある。
もし誰かがなんらかの方法で持ち出そうとしても、設定範囲から100m離れた時点で警報が作動し、30秒以内に戻さない場合は内包している火薬がドカン!するので安心だ。
「…ある意味軍事兵器よね、これ。」
一通りの説明を聞いたレヴィがそんなことを言っていたが気にしないのがシドクオリティーである。
毎日のように浴びせられる人外をほのめかす言葉により、多少なりともメンタルは強くなっている。
「って、そうじゃなくって。聞いた?お隣の国のこと。」
「…?あぁ、勇者召喚するらしいな。」
既に勇者のことを知っているシドにとって驚きもしないことである。
ただ、知った時にはかなり驚いていたのは言うまでもない。
国立図書館にて本を読んで知ったのだ。
やはり英雄の話は人気があるらしく、勇者ものだけで150冊はあっただろう。
「いや、聞いた話では昨日召喚したらしいけど。」
「へー……え、マジで?」
「マジよ。」
そう、既に勇者はこの世界に召喚されているのである。
しかも早乙女蒼士や萩原唯、藤野太一たち、元同クラスの面々であるが、この時点ではまだ知らない。
召喚したのはグランテスト大国の隣国であるリーワイド皇帝国だ。
名の通り、代々皇帝が統治する国であり、その伝統も古い。
グランテストとは貿易を通して仲が良いらしく、首脳会談的なものも行なっている。
「理由は…やっぱ邪神さん?」
「でしょうね。それ以外ありえないものね。」
先日、わざわざ屋敷までそのことを伝えに来たヘスティアから邪神についての話は聞いているが、悪神・ロキについては話されていないシドたち。
その場にいた全員がシドを見て、「え、勇者必要?こんな化け物いるのに勇者召喚するの?」みたいな顔をしていたがリーワイド皇帝国の皇族はシドのことを知らないのでしょうがないといえばしょうがないのだ。
「それでね、邪神は勇者に任せておくとして、面白いこと聞いたの。」
くるくると回りながらポーズを決めるレヴィ。
「なんと!新しいダンジョンが出現しました!しかも超高難易度の!」
「お!来たか!」
ここで少し説明を入れると、ダンジョンとは、言わずもがな知れた、お宝や金銀財宝を求める冒険者たちが命をかけて潜るあのダンジョンである。
異世界セイルにおいて、ダンジョンは大きく濃密な魔力溜まりなどから発生するいわば迷宮のようなものである。例外として、勇者召喚が行われた際などには確定で超高難易度のダンジョンが出現する。
ダンジョンによって階層や難易度も様々で、基本的には難易度が上がるにつれお宝も高価なものへとなっていく。まさにゲームのようだ。
今までに発見されたダンジョンは全て合わせればかなりの数があるが、その情報を知った時点のシドのステータス的には『え?ダンジョン?デコピンだけで全クリ出来るね』レベルのものだったので手を出さずにいたのだ。
「で、ダンジョンの場所は?」
「グランテストの南東にあるウェリア神聖国との国境近くね。出現してすぐに無謀なバカが入ってものの数秒で挽肉になったらしいわよ。」
先ほども言った通り、勇者召喚の際に出現するダンジョンは超高難易度で、勇者を鍛えるために作られたようなものである。
そんなダンジョンには10階層ごとに中ボスがいる。
これまた階層を下るほど強くなる仕様であり、中にはAランク冒険者10人でトントンだろう、というようなボスさえいる。
「そうか、近いな。が、今回はまだダンジョンには行かない。」
「それがいいと思うわ。あくまで勇者のためのダンジョンだもの。」
これもレヴィの言う通りだ。ここでシドがダンジョンに潜ってしまうとあっという間にダンジョン内の魔獣がいなくなってしまう。定期的に無限湧きするといっても、一気にいなくなってしまうと都合が悪いだろうとの考えからだ。
「何より、もうすぐ魔法学院に行かなきゃダメだしな。」
つい先日、サムリエル魔法学院の校長であるハルウェルから、数日後に学院に来て欲しいという旨の手紙が来た。あらかじめルシファーが先に行き場所は把握しているので、あとは【瞬間移動】で移動するだけだ。
「じゃあ、私はそのまま学院に入学すればいいのね?」
「そういうこと。」
なぜかハルウェルはレヴィのことも知っており、途中入学を勧めてきた。
レヴィの実力なら申し分ないので別にいいのだが、周りとの差がつきすぎないか心配されている。
シドは「もし元からいる生徒をボコボコにしてしまったらどうしようか」、そう考えていたが、「まぁボコボコにされるような奴が悪いよな」の考えで押し通すことを決めた。
実は地球でもその考え方で生きていたために、周囲からは「理不尽魔王」とか呼ばれていることもあったのだが、それはまた別の話。




