第46話 若すぎる教員は舐められた様子
大きく息を吸い込みーー
「へくしゅっ!」
くしゃみをした。
まだ鼻がムズムズする。
「なに?風邪でもひいた?」
「そんな感じないけどなぁ。花粉症か?」
白いローブを腕にかけながら鼻をこするシドの隣にはレヴィとハルウェルの秘書がいる。
場所はサムリエル魔法学院に向かう馬車の中。
季節も夏に近づき、ローブを脱いだシドは大きめの黒いTシャツに黒のジーンズのようなものを履いた、かなりラフな格好である。
コーラス特性のローブは常に適温を保ってくれるようになっているのだが、夏になってもローブを羽織ったままというのは見た目不審者のようだったので脱いでいる。
本来ならば【瞬間移動】で移動できるのだが、わざわざシドとレヴィのために馬車まで用意してくれたハルウェルの配慮を断るわけにもいかず、今こうして馬車に乗っているのである。
「シド様、レヴィ様、学院が見えてまいりました。」
そう言って前方を指差す秘書の先には、まさにあの学校が建っていた。
「…明らかにホ◯ワーツだよな。」
「ホグ◯ーツ?なにそれ?」
「いや、こっちの話だ。」
あまりにも酷似した学院の様子に、ついつい思ったことをそのまま口に出してしまった。
もしかしたら学院内には動く絵画も飾ってあるかもしれない。
そうなればどうやっても勇者との関連性が疑われてしまう。
それから数分もすれば3人と御者を乗せた馬車は学院の門へと到着した。
城門とまでは行かずとも、立派な石造りの門と防護壁は学院全体を丸く覆っているようだ。
着くとすぐに門兵が出てきて秘書さんと話してこちらを見ながら頷き、まもなく門が開いた。
門をくぐった先は街といっても遜色ないものだった。
見える範囲だけでも多くの飲食店や雑貨店が立ち並び、多くの学生が歩いている。
「学院の敷地内には承認された各国の飲食店や生活に必要なものを販売する雑貨店等、色々と揃っています。学生の中には思いついたものを商品化し、小遣い稼ぎのようにして売っている者もいます。」
そう言われて馬車の外を見ると、小さな屋台で工芸品なんかを売っている学生の姿が見られた。
店が立ち並ぶ奥には、大きな屋敷のような建物がいくつかある。
「秘書さん、あれは生徒用の寮なの?」
「その通りです、レヴィ様。この学院は生徒が自国から通うにはいささか遠いです。ですので、このようにして大規模な寮をおいているのです。男子生徒寮と女子生徒寮、教職員専用寮がいくつかに分けられています。教職員専用寮には個人のために研究室も用意してあります。」
カンペでも読んでいるかのようにスラスラと説明する秘書さんの言葉を聞きながら、短くなった髪をいじる。
そう、今シドの髪は短くなっている。
理由としては、暑い。とにかく暑い。あと、髪が洗いにくい。(談・シド)
本人もなぜ今まで髪を伸ばしていたのかはわからない。
強いて理由を言うならば、髪が長い男って強そうだから、と供述している様子。
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学院内に入り、秘書さんの案内の元ハルウェルのいる校長室に向かう。
ちなみに学院内には動く階段や絵画はなかった。
少しガッカリした。
「うむ、よく来てくれたのぉシド殿。ん?髪を切ったのか。」
「あぁ、最近になって利点がないことに気づいたんでな。」
その後腰を下ろして社交辞令のようにちょっとした近況報告をした。
どうやらハルウェルは最近、腰痛が酷いらしい。
「さて、儂の腰の話は置いといてじゃ、シド殿、今日はとりあえず校内を自由に見てくれればよい。シド殿の教員寮の部屋と妹殿の女子生徒寮の部屋はすでに用意してあるんでな、勝手にくつろいでくれて構わんよ。ただし、明日からは働いてもらうからのぉ。」
立派な顎鬚を撫でながらフォッフォと笑うハルウェルは本当にダ◯ブルドア。
銀でできた鍵は彫刻がなされており、持ち手の中央には緑色の宝石が埋め込まれている。
『鍵の持ち手中央の宝石は“翠仕石”と呼ばれる鉱石です。1つの“翠仕石”を2つに割ることで一対の物となり、対応した物にのみ反応します。』
つまり鍵と翠仕石の二重ロック、と言うわけだ。
セキュリティ面では安心しても良いだろう。
ハルウェルとの話を終えて部屋を出ると、レヴィは制服の採寸に行った。
なんでも、朝のうちに採寸すれば夕方には出来上がるらしい。
その間は暇なので、せっかく時間があるのだから、学校内を散策しながら自室へ向かうことにした。
石造りの学院内には大きな中庭や食堂があって開放的だが、あたりに生徒は見当たらない。
大人の声が聞こえることから、今は授業中なのだろう。
しばらく歩くと生徒が魔法の詠唱をするような声が近づいてきた。
その先には〈演習場〉と書かれた札がかけられた扉がある。
「自由に見ていいって校長が言ったし、ちょっと見るぐらいいいだろ。」
そう言いながら若干コソコソしながらゆっくり扉を開ける。
開けるとすぐ目の前に鋭利な氷の刃が弾幕のように襲ってきた。
「へ?」
一瞬時間がゆっくりになった、気がした。
飛来する弾幕の奥にはいかにも「しまった!」という顔をした女子生徒。
『魔法の詠唱に失敗、又は魔力が暴発したものと考えられます』
説明ありがとうリーヴさん。でも今それどころじゃないの。
とか思ったが割と余裕はある。
右手を前に出して正面に炎で壁を作る。
手のひらから放たれた白い炎は一瞬で目の前に広がり、氷を溶かして消滅させた。
ん?白い炎なんて出せたか?
『器が許容範囲に達しました。よって、スキル【白炎】の使用が可能となりました。スキル【白炎】による白い炎は【蒼雷】の蒼い雷と同じく、神のものです』
アヴェルが言っていたことが本当になったな。
もしかして他の属性でも神の力が使えたりするのか?
『可能です。ですが、それはマスターの器が達した時に可能となります。通常の力と神の力は切り替えが可能です』
じゃあ基本はデフォルトの赤い炎を使えばいいわけだ。
なんでそんな力が使えるのかはヘスティアに聞くことになりそうだ。
白い炎が消えると、この授業を取り持っていると思われる男が走って近寄ってきた。
短く刈り上げられた黒髪と綺麗に剃られたヒゲからは清潔感が感じられる。
「君、大丈夫かい⁉︎今のでどこか怪我は?どこのクラスの子だ?」
「あー、大丈夫だ。怪我はない。あと、俺は生徒じゃない。今さっき教員として来た。」
矢継ぎ早に質問してくる男にそう答えると、驚いたようにこちらを見てきた。
たしかに、見た目17歳かそこらのやつが教員だと言えばこんな反応をするだろう。
俯いて考える素振りをした後、思い出したかのように再度こちらを見た。
「君が校長の言っていたシドか!なんでも17歳にしてグランテスト大国の宮廷魔導師になったらしいじゃないか。そりゃ大丈夫なわけだ。」
そう言うと首筋に手を当てながら生徒たちの方を振り返った。
「許してやってくれないか?ちょっと練習中に魔力が暴発してしまってね、君が入ってきたタイミングと被ってしまったんだ。」
「わかってるし、別に怒っちゃいない。俺も最初はそうだったからな。」
頭の中には、初めて魔法を使った日に起きた事件がフラッシュバックしていた。
たった2、3分で荒地と化した野原を忘れることはない。
「はは、そう言ってもらえると助かる。俺は教員のリッカだ。あとで話をしたいんだが、時間はあるか?」
「あぁ、有り余っている。俺としても早いうちに親しい人を作っておきたかったら好都合だ。」
見たところリッカはなかなかに頼れそうだ。
学院内のあれこれを教えてもらうにはいいだろう。
話を打ち切るとリッカは授業に戻ったのでそのまま見学することにした。
今リッカの授業を受けている生徒は今年入ったばかりの生徒のようで、基礎的なことを学んでいる。
先ほどのも試し打ちの類だろう。
リッカから俺のことを説明された生徒がこちらを見てくる。
カトルやヘスティアと違ってまだ純粋な子供たちの目。
あの2人の心は荒んで曲がって油汚れのようになっている。
そうでなきゃあんな悪人みたいな目をしないだろう。
どうせ今頃もグヘグヘ笑っている筈だ。
それからも生徒たちの魔法の練習は続き、見ているのに飽きたので次作る武器のアイデアを考えた。
手榴弾やその他の武器から得た発想だが、魔法はそれ単体でも十分強いが、地球の技術を使えばより強くなる。DXル◯バがその例だ。
そして一番大事な点だが、武器にはロマンがある。
地球で知人の組長も言っていたが、ドスのような武器にはロマンがあるのだ。
いずれかは紫色と緑色のツノが生えた巨大人型ロボットとか作ってみたい。
もちろん初号機からだ。
そう考えているとリッカの授業は終わったようで、生徒が続々と演習場から出て行く。
ちらちらとこちらを見ながら帰る生徒もいた。
いや、チラチラ見てくるのはまだいい。
だけど今の状況はおかしい。
「おい、お前教師らしいな?その年で教師とか舐めてんのか、あぁ⁉︎」
「そうだよなぁ?ガリヒョロがよ!」
はい、絡まれております。
今突っかかってきているのを合わせて6人の不良に絡まれております。
[野生(?)の6人の不良が現れた!]
待て、ギルドでチンピラに絡まれた時もそうだったけど野生ではないだろ。
「野生」の後ろに(?)つけるなら「野生」ってつけるなよ。
あと、このテロップは誰が出してるんだよ。
リーヴではないよな?
『………。』
反応がないけどまさかそうなのか?
「おい、テメェ話聞いてんのか!」
「ちょっと黙れ。今こっちはトリッキーなテロップの所為で困惑してるんだ。」
この時点で不良との距離1mである。ジリジリと距離を詰めてくる詰めてくる。
しまいにはツール・ド・フランスの観客ばりの近さにまで到達。
「黙れだぁ?ふっざけんじゃねぇぞっ!」
不良の1人の右拳が振り下ろされてきた。
と、同時に視界の右下に某国民的RPGのようなコマンドが出現!
『…リーヴさん…これも貴方ですか?貴方なんですか?』
『……………。』
返事が無い。ただの屍のようだ。
そんなやりとりのせいで何も考えていなくても、無意識下で処理は実行された。
握り締められた右拳を受け止め、そのまま後方に投げ飛ばす。
ほぼノーモーションで行われたそれは図らずとも演習場から出ようとしていた生徒の目を引く。
数秒遅れて不良が地面に落ちた音とうめき声がした。
「こいつ今投げ飛ばしたのか⁉︎」
「こんなモヤシ野郎がそんなことできる筈ねぇだろ!魔法を使ったに決まってんだろ!」
モヤシ野郎って言ってるけどこの世界にもモヤシってあったのか。
『あります。過去の勇者が伝えたものです。』
じゃあさっきのテロップは?
『…………。』
よし、あとでお話ししようか。
「おい、不良達、話はついたし面倒くさいから全員まとめてかかってこい。お前らが勝てたらこの学院辞めてやるから。」
あからさまな挑発に不良達は激怒した。
必ず、この邪智暴虐のモヤシ野郎をこの学院から除かなければならぬと決意した。
投げ飛ばされた不良も含め、6人が同時に詠唱を開始する。
魔法陣が展開され、周りの生徒もこちらを心配した表情で見ているのが視界の隅に映った。
そしてその魔法を打たれようとしている本人は棒立ち状態。
「これでも食らっとけ‼︎」
そう言ってほぼ同時に放たれた6人の魔法は一直線に飛んできた。
この世界でも最高水準の魔法学院なだけあって、生徒の質も高い。
そこらの魔術師よりも全然生きていけるだろう。
これまたほぼ同時に命中した6発の魔法の威力はそこそこで、そのせいで生じた煙が周りを覆う。
普通なら生身で受ければ、もしかすれば大怪我にもなりうる。
だが、そんなこと全く関係ない。
「お、成功したな。物は試しにと作ってみたけどこりゃ儲けものだった。」
場違いなことが聞こえ、煙が風に吹かれた。
そこにいたのは、右手に水色の謎の球体を持ち何食わぬ顔で立っているシドだった。
魔導吸収機〔ウィザード・イーター〕
それがこの水色の球体の正体である。
機能は、『放出された魔法を吸収し、接続した対象に吸収した分の魔力を供給する、又は蓄える』ことである。
魔法の吸収自体は【原点&終着点】でも可能だが、偏にこれを作ったのもロマンがあったからである。
しかし、性能はなかなかのものだ。
一度取り出して起動すれば音速以上の高速移動で自動的に周囲を飛び回り、ぶつかった全ての魔法を吸収してくれる。が、全て、というだけあり、治癒のために使用したものでも吸収してしまうのが課題点だ。
さて、話を戻すと、これに不良達はまたもや呆然としている。
自分の渾身の一撃があっさり消えたかのようになってしまったのだ。
訳がわからないだろう。
「テ、テメェ、なにしたんだ⁈」
顔を真っ赤にして怒ってらっしゃる不良達を見て他の生徒もクスクスと笑っている。
そういえば演習場に姿が見当たらないが、リッカはどこに行ったのだろうか。
まぁ別にいいか。
「何をしたって?手品のタネがバレたら面白くないしな?さて、こっちの番だ。」
そう言いながら〔ウィザード・イーター〕を【亜空間収納】に仕舞い、フィンガースナップをする。
気持ちよくなったパチンという音とともに、頭上には大きな球体が出現した。
轟々と吹き荒れる風を纏うかのように、中心に収束する赤い炎が輝き揺らめく。
無詠唱かつ魔法陣を使わずに行使された魔法を見て不良達は腰が抜けたようだ。
ここまで大きな力の差を見せつけられては戦意が消失するのも無理はない。
「で、どうする。俺の勝ちでいいか?」
焦点の合わない目でこちらを見ながらコクコクと首がもげそうな勢いで頷く彼らを見て、「あ、やりすぎたかも…」と思ったとか思わなかったとか。
某国民的RPGに関してはまぁアレです。
〔ウィザード・イーター〕のイメージとしては、表面に数千のルーンが刻まれた球状のあの神器です。




