第42話 スカウトと襲撃者
長く空きました
すいません…
ふと窓の外を見ると、どんよりとした雲が空一面に広がっていた。
そろそろ雨が降りそうだ、そう思った矢先、雨が降ってきた。
個人の研究室を貰ってから1ヶ月近くが経った。
こちらの世界にも梅雨のようなものはあるようで、ここ最近はほぼ毎日雨が降っている。
「いっその事、雲を風圧で散らして晴れにしてやろうか」と考えたが、それをすると人間から離れていく気がしたので止めた。
「そんなこと今更過ぎるでしょ。既に人外じゃない?」
そう言ったレヴィは真顔のコーラスから話があると言われて奥に連れていかれた。否、引きずられていった。
しばらくしてから、まるでどこぞの漫画の某ボクサーのように真っ白になって出てきたレヴィだったが、何があったのかは知らない(知る気もない)。
閑話休題
この1ヶ月間特に変わったことはなく、強いて挙げるなら2つぐらいだ。
1つ目、元素魔法が使える、ということをリコにだけは言った。
言った後に、「アレ?言ってよかったのか?」と考えたが、自分以外に元素魔法を使える人がいることに驚きながらも喜ぶリコを見てまぁいいか、と思えた。
リコの使う空気魔法はまだ未熟だ。
空気魔法で圧縮した空気を物体に押し込むことで、理論上全ての物質を爆弾にすることができるが、リコはまだそこまで至っていない。
それを伝えると目を輝かせて教えてほしいと言ってきたが、暴走しないようにコントロールしながら教えていきたいと思っている。
2つ目は、モズの紹介で行った武器屋で貰った『継魔の小刀』がナイフじゃなくなったこと。
これには驚いた。
実際に使ってみようと鞘から刀身を抜き出すと、某大佐が目を覆うような光を発しながらナイフそのものが変形したのだ。
結論から言うと、ナイフが刀になった。
柄の部分は持ち手に白色のひし形があてがわれ、黒光りする刀身は70cmほどまで伸びた。
【鑑定】すると名称も変わっていた。
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『断絶刀・ホオヅキ』・・・〈創星級〉人から人へと受け継がれてきた。魔法を刀身に宿すことが出来る。
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『断絶刀・ホオヅキ』、中々な威力だった。
試し斬りでもしてみようと絶望の森の魔物に会いに行ったのだが、1歩踏み込めば至る所にわんさかいたのでとりあえず全力で振ってみた。
結果、前方の森は消し飛び、地面もかなり抉れていた。
慌てて無理やり元に戻したが、木っ端微塵になった木までは直せなかった。
この衝撃はグランテスト大国まで届いたようで、国が軽いパニックになったらしい。
と、まぁ、色々あったが大きな変化はなかった、と思う。
最近では雨が続いているため、リコに空気の元素魔法を教えたり国立図書館に行ったりと平和な日々を過ごしている。
気がかりなのは、レヴィの部屋からいつも怪しい音と、
「もうちょっと…もうちょっとで完成…ふふふふ…」
とか言う、これまた怪しい科学者のような声が聞こえることである。
何をしているのかは知らない(≒知りたくない)。
ギルドの方でも、先日の魔獣の行進以降は大きな異変もなく、ギルドのテーブルでは雨で依頼を遂行できないおっさんたちが呑んだくれていた。
モズもそのうちの1人だったことは言うまでもない。
悪魔達も呼び出すような用事もないのでたまに屋敷に来ては話をしている。
朝起きたら大抵フェゴールがソファで寝ているのには閉口しておこう。
あれだけ恐れているコーラスを目の前でいびきをかいて寝れるのは神経が太いからなのか、それとも肝が座っているからなのか。
それからも本当に何もなく梅雨の時期は終わり、そろそろ夏が始まろうとする日、俺は王城に招かれた。
向かった部屋にはジェームズ国王ともう1人、見たことのない老人がいた。
右手には先端に大きな魔石のついた長杖、そしてかの有名なダンブ◯ドア校長を彷彿とさせるようなヒゲを蓄えている。
見るからに魔法使いだ。
「今日は少し頼みがあって来てもらった。こちらはアメリアとカトルの通うサムリエル魔法学園の現校長、ハルウェル・リクイッド・リムソンだ。」
そう紹介された老人はあご髭を撫でながら言った。
「今陛下に紹介された通り、ハルウェルと申す。いやはや、齢16にして宮廷魔導師となった方とこうお話できるとは、嬉しいことですな。」
こちらからも自己紹介をすると嬉しそうにうなづいた。
本当にダンブ◯ドア校長なんじゃなかろうか。
「今日こうしてシド殿を呼ばせて貰ったのは先ほども言った通り、頼みごとがあるからだ。」
改まって言われると何か緊張してきた。
「単刀直入に言うと、儂が今現在校長を務めるサムリエル魔法学園に教員としてきてほしいのじゃ。」
「………はい?」
長い間を空けて気の抜けた声が出た。
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サムリエル魔法学院。グランテスト大国領土内の南東に位置し、現在はハルウェル・リクイッド・リムソンが校長を務める、この世界で最大かつ最高水準の魔法学院だ。
他国からの生徒も多く、優秀な魔術師を輩出している。
そんな魔法学院の校長が言った頼みを要約すると、
今現在、サムリエル魔法学院は更に多くの優秀な教師を探しているとのこと。
なぜか。
近いうちに開催される魔法学院祭のためだ。
サムリエル魔法学院に通う各学年の生徒がクラスごとに争い、最も優秀なクラスを決めるのだ。
地球で言うオリンピックのようなものであり、毎年多くの観戦者が世界中から集まるとのこと。
集客率は半端ではなく、それだけで収益は通常の数倍以上に膨れ上がるらしい。
魔法学院祭までに大きな噂を流してさらなる集客を狙いたいが、そのためには生徒に注目を集めることが必要だ。
世界が注目するような生徒が何人もいれば自然と噂は広まっていく。
そんな生徒を育てるための教師を探している、らしい。
国王陛下は、
「最初に肩書きだけの宮廷魔導師と言ったから構わん。」
と言った。
話を一通り聞き終えて少し考えた。
なんで俺なのか。
たしかに16歳で宮廷魔導師になったのはすごいかもしれないが、それを差し引いても俺より教えるのが適任な人なんてザラにいる。
正直そこまで推してくる理由がわからない。
「その顔、なぜ自分なのかわからない、と思ってますな?」
こちらの思惑を汲み取ったかのようにハルウェルが言った。
「理由としてはいくつかありますが主には2つ。
1つ目はシド殿が全属性魔法に加え魔纒も使えるとのこと。今まで生きてきた中で全属性の魔法が使え、その上魔纒ができる人なんて聞いたことがないわい。どうにか生徒に教えてやってほしいものじゃ。
2つ目は、まぁ、紹介ですな。グランテスト大国第一王女様と太閤皇后様から、シド殿のことを聞かせてもらってのぉ。なんでも、絶望の森の魔物の群れを一瞬にして壊滅させ、生命の水まで醸造したと言う。これはなんとしてでも教員としてきてほしい!そう思って声をかけさせてもらったのじゃ。」
なんでこの爺さんは俺が魔纒を使えることを知ってるんだ?
まぁ、なんとなく予想はつく。
アメリアだろう。十中八九そうだろう。
「で、どうかの?提案に乗ってくれるならそれ相応の対応はさせてもらうんじゃが…例えば、学院内には自由に入れて、書庫にも入り放題、給料もそれなりに出させてもらうつもりじゃ。」
学院の書庫に入り放題!
これはかなりいい条件だ。
最近国立図書館での本も読んだりしたが、まだまだ読み足りないと思っていた矢先にこの提案。
教えるのには不安があるが、リーヴのサポートやカトルの知識があればなんとかなるだろう。
「わかりました。その提案、受けさせていただきます。」
そう言うとハルウェルの顔は雲が晴れたかのようににこやかなものになった。
「それでは、この場で手続きしてもよいかのぉ?」
そう言いながらハルウェルはローブの内ポケットから丸められた数枚の書類を取り出すとテーブルに広げた。
この爺さん、俺が断らないとわかって準備をしてきたんだろう。
全ての書類に目を通し、名前を書くことで手続きは終了となった。
これで自由に学院内に出入り出来るように手配してくれるらしく、初仕事の日にはまた迎えにくるとのことだった。
「さて、堅苦しい話も終わったことじゃし少し飲むとするかのぉ。国王よ、良い酒はあるかな?」
「あぁ、あるぞ。今から持って来させよう。シド殿も一緒にどうだ?」
「いや、俺の故郷では酒は二十歳になるまでは禁止だったんで遠慮しときます。」
気兼ねなく話す2人からは、何か強い絆のようなものが感じられた。
お互い心を許しあっているからこそこんな会話ができるのだろう。
残念だと言いながらも既にぶどう酒をグラスに注いでいる2人に挨拶をしてその日は帰ろうとしたが、もう酔いがまわっているのか中々帰してくれない。
仕方なくコーラスに今日は遅くなると通信を入れた。
楽しい話は夜遅くまで続き、夕食もそのままご馳走になった。
子羊のローストや魚介のパエリアのようなものまで、全てが美味しかった。
月が空高くまで昇ったところでその日は御開きとなった。
顔を赤くしたジェームズ国王とハルウェルは千鳥足で帰っていった。
たまには羽目を外さなくてはやっていけないのだろう。
どちらにせよ、2人との話は楽しいものだった…一応言っとくけど、俺は飲んでないよ?
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時は少し戻り、場所はシドの屋敷がある貴族の住むグランテスト大国北東地区。
黒い外套を身にまとい、これまた黒いフードを深くかぶった男が静かに歩いていた。否、一切の音を出さずに歩いていた。
顔は見えずともその雰囲気は近寄りがたく、閑静な住宅街とは明らかに合っていない。
男は、手に持つメモを見てある一軒家の前で止まった。
庭は丁寧に手入れされ、外壁には1つの汚れもない。
何より周辺の屋敷と違うのは施されている結界だ。
上位の結界で、そこらの魔術師が数百人集まってもできないであろう結界がその屋敷を守っている。
これでは手の出しようがない。
そう考えた男は来た道を引き返そうとした。そんな時だった。
「どうかされましたか?こんな夜遅くにそのような格好で。」
背後からかけられた声。
振り向くとそこには1人の若い男が立っていた。
明るめの茶髪で細い目、バーテン服を着て両手を後ろに回している。
外套をまとった男は瞬時に彼が何者か思い出した。
過去に起きた魔獣の行進とまでは行かずとも、脅威になり得た魔獣の群の半数の500体を1人で屠った男。
シドと比べれば見劣りするが、これはただの人間にとっては異常であると言える。
大鎌を振り回しあたりを血の海に変えたことからついた二つ名は『死神』
彼はそう呼ばれていたSランクの元冒険者、ロッソだ。
「見るからに怪しいですね。全身黒づくめってところがいかにもです。もう一度問います。何故、こんな時間に、こんな場所に?」
その問いに答えることはなく男はロッソへと突進した。
一瞬にして間を詰めると、右手に持つ鈍く光る剣を振り下ろした。
それに対して背中に回していた両手に持っていた短剣を交差させて剣を受け止めるロッソ。
夜の貴族の住む住宅街には似つかわしい音が響き、火花を散らす。
2本の短剣を上へと弾き、ロッソに体制を崩された男は後ろへと飛び退く。
飛び退いた先でジリジリと摺り足で移動しながらも、ふと背後に殺気を感じ、すぐさま横に飛ぶ。
髪の毛の先をかすめて何かがとてつもない速度で振り下ろされ、衝撃波を生む。
回転しながらも地面に掌をつけなんとか体制を整え、改めて状況を確認する。
さっきまで男がいた場所には両刃の大斧が凹みを作っていた。
「ちっ、外しちまったか。」
そう言いながら軽々と大斧を肩に担いだのは筋骨隆々の大男。
「殺気が漏れ出てますよ、ライナー。そんなだから避けられるんです。」
「お前が異常なだけだよ。影が薄い死神さんよぉ。」
こちらもSランクの冒険者、ライナーはグランテスト大国の現ギルドマスターだ。
余談だが、周囲の冒険者から最強の脳無し脳筋と呼ばれているのを彼は知らない。
そんな軽口を叩きながら2人は男を挟み撃ちにできるような位置へと動く。
深夜の豪華な屋敷の並ぶ住宅街で戦闘のゴングが鳴らされた。




