第39話 ケルベロス
起きるとソファに寝転がっていた。
体には毛布がかけてある。
昨日はどうやら風呂から上がってすぐに寝てしまったみたいだった。
外はだいぶ明るい。もうすぐ10時か?
だとしたら寝過ぎた。
「おはようございます、マスター。疲れは取れましたか?」
声の聞こえた方を向くとコーラスがこちらを覗き込んでいた。
「おはよう、コーラス。うん、全然大丈夫。」
「良かったです。それでは朝食をお持ちします。」
安堵の表情を浮かべたコーラスはキッチンへと戻っていった。
レヴィの声がしないのでおそらくもう出かけたのだろう。
ギルドの依頼をこなすのが好きなのか、はたまたコーラスと一緒にいるのが怖いのか。
しばらくすると朝食が運ばれてきた。
白パンにサラダ、ハム、果物が並べられた。
子供達は既に朝食を食べ終えたようで今は遊びに出ているらしい。
どこでかと言うと絶望の森の平原でだ。
昨日昼食を食べに帰ってきた時に【効果付与】で少し実験をしてみた。
適当な扉を【創造】で創って、それに【瞬間移動】を付けた。
行き先はあの平原で設定すると、扉を開いた先は平原だった。
俺が【創造】で建てた家は無くなっていた。
どこに行ったんだろうね。
まぁ、その扉のお陰で子供達は人目を気にせず自由に遊びまわることが出来るというわけだ。
何かあった場合にはカトルやアヴェルもいるし大丈夫だろう。
朝食を食べ終えて一息ついていると玄関の扉が叩かれた。
コーラスが扉を開けるとそこには4人。
1人はロッソさん、あとの3人は知らない人だった。
そのうち2人はカバンを持っている。
「おはようございます、ロッソさん。」
「おはようございます。昨日はお疲れ様でした。」
どうやら孤児院の事を知っているらしい。
まぁ、あそこまでやれば当然か。
「どうかされたんですか?」
「伝えたい事が2つあります。1つはお屋敷の庭師の事、もう1つは孤児院の国内依頼についてです。」
とりあえず4人に中に入ってもらい、それから話してもらうことにした。
玄関先で話すよりも座った方が楽だ。
「先に庭師の事を話しますね。こちらの手荷物を持っているお2人はご兄妹です。2人とも庭師をやっています。」
「おはようございます。僕はクレイです。こっちは妹のエナです。陛下からのご紹介でこちらで働かせてもらう事になりました。どうぞ、よろしくお願いします。」
立ち上がった2人は一緒に頭を下げた。
2人とも目は綺麗なエメラルドグリーンで金髪によく似合っている。20代ほどだろうか。
「こちらこそよろしくお願いします。」
2人は近くの宿に住んでいるというのでよかったらこの屋敷に住まないか、と提案するとすんなり受け入れてくれた。
そちらの方が日々手入れをしやすいようだ。
早速今日から手入れを始めるようだ。
2人の部屋の案内はコーラスに任せて俺とロッソさんは次の話に移った。
「2つ目ですが、昨日出された孤児院の依頼についてです。昨日シドさんが帰られた後にすぐにこちらの方が受けると言ってくれました。」
「ルルと申します。昨日の夕方、国内依頼を見たところこちらを見つけました。私が受けてもよろしいでしょうか?」
ルルと名乗った女性は黒い瞳でこちらを真っ直ぐ見つめてきた。
間違いなく美人の範疇に入る。
「よろしいも何もこちらこそよろしくお願いします。今、子供達はここに住んでいるので紹介したらみんなで移ることになります。」
どのように経営するかを話したあとに一度子供達に会わせる事にした。
平原に繋がる扉をくぐって子供達を呼ぶとすぐに集まってくれた。
しっかりした食事をしたせいかとても元気になっている。
紹介すると子供達は一気にルルのもとに集まった。
会ってすぐにこんなに懐かれているのなら安心だろう。
ルルが来てくれたのは安心だがそれは子供達の世話の面でだ。
女性1人だけというのは流石に危険だろう。
▽▽▽▽▽
「と、言うことで目立たない護衛でもおこうと思ってるんだけど何か良いのいない?」
「何かって何よ?私の部下の悪魔じゃダメなの?」
今は屋敷でレヴィと話している。
こちらは呼んでも来ないので強制的に呼び寄せました。
「人型だと子供達が懐かないかもしれないだろ?だからといって動物型もダメだけど。」
ソルネル様の側にいるようなのは年によってはトラウマになりかねない。
知らないけど。
「えー…じゃあケルベロスでも呼んだら?どうせ召喚魔法もできるんでしょ?」
「なるほど、その手があったか。」
レヴィの教えのもと地下の一室に行ってそこに召喚陣を描いた。
カトルの知識のおかげでスラスラと描く事が出来た。
あとは魔力を流しながら召喚したい対象を思い浮かべるだけだ。
召喚陣に触れて魔力を流していると召喚陣の中に黒いモヤが漂い始めた。
だんだんと黒は濃くなり、モヤが晴れるとそこには思い浮かべた通り、3つの首を持った犬、ケルベロスがいた。
大きすぎるせいで地下室の天井に頭がついている。
「ぐるるううぅぅぅ」
牙を剥き出して威嚇してくるがレヴィを見た途端それは止んだ。
その代わりに尻尾を左右に激しく振っている。
ついさっきまで牙を剥いていたのが嘘かのようにしている。
「私のこと覚えてるわよね?」
そう言いながらレヴィはケルベロスに近づいて頭を撫で回している。
こう見ていると中々に可愛い。
レヴィは言い聞かせるように契約内容をケルベロスに言った。
レヴィの言ったことが通じたのか、ケルベロスはこちらを向いてパタパタと尻尾を振ってきた。
「契約するから名前をつけてほしいみたいよ。私はつけてなかったからあなたがしっかりした名前をつけたげて。」
名付けか。
これって頭1つにつき1つの名前なのか?
「名付けするのはいいんだけど流石に三つ首の犬は外に出せないだろ。」
街の人が怖がってしまうかもしれない。
そう言うとケルベロスはまたもや言葉を理解したのか体全体を震わし始めた。
何をしているのかわからない状態でしばらく待つと急に「ポン!」と音を立ててケルベロスが分裂した。
目の前にケルベロスはいなく、その代わりによく似た三頭の犬がいた。
「…ケルベロスって分裂していいものなの?私こんなの見た事ないんだけど…。」
どうやらレヴィも見た事がないみたいだ。
考えていると三頭はじゃれあって遊び始めた。
大きさは中型犬ぐらいで三頭とも黒い毛を持っている。
先ほどと比べると一気に小さくなった。
この様子を見るとおそらく分裂してもさほど支障はないのだろう。
▽▽▽▽▽
結果、分裂したケルベロスの名前は子供達に付けさせる事になった。
自分から分裂したのだからまた戻る事も出来るだろう。
三頭はロイ、マル、クロと名付けられた。
子供達は名付けが終わると三頭の犬とすぐに遊び始めていた。
ここまで遊んでもまだ遊べるのか。
これで警備面も安心出来るだろう。
孤児院の件も落ち着いたし、明日からはまた自分の事を楽しめるように頑張ろう。




