第36話 暴走
魔族と化したオバラ伯爵がゆっくりとこちらを向いた。
赤い瞳が怪しく光を放っている。
真っ先に動いたのは一番大柄な騎士隊長だった。
オバラ伯爵に大剣を振り下ろすも右手だけで受け止められてしまった。
「ヌルイナ…コンナモノ我ニハ効カヌ。」
そう言って受けた大剣をへし折り騎士隊長を殴り飛ばした。
「ガハッ…………!」
殴られた騎士隊長は壁にぶつかり気を失ったのか力無くズレ落ちた。
あの衝撃だと肋骨が折れているかもしれない。
さっさとけりをつけたいところだけど…
「陛下ヨ…イヤ、ジェームズ・ハイド・グランテストヨ、今ココデ死ネ。」
動機を話してほしいんだけどな。
オバラは肥大化した右腕を陛下へと振り下ろした。
直後先ほどと同じような衝撃波が【魔力弾】のように放たれたが俺の結界によって弾かれた。
そう簡単に攻撃が通るわけないだろ。
一応【鑑定】してみるか。
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オバラ・ウォラ・デパイン Lv.29
年齢:49
種族:人間〈魔族憑依〉
性別:男
魔力:121(+681)
速:183(+938)
攻:152(+730)
守:98(+792)
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数値の方は基準がわからないからどうとも言えないが種族のところには〈魔族憑依〉とある。
話の流れ的にあの飴玉を取り込む事によって魔族を憑依させれるのだろう。
このまま殺してしまってもいいけどそれだとオバラに罪を償わせる事が出来ない。
とりあえずオバラと魔族を引き剝がさないとな。
なんかいい手でもあったっけ?
『スキル【派生】によって合わさった存在を元に戻すスキルを作る事が可能です。実行しますか?Yes/No』
もちろんYesで。
『【派生】を開始します…完了致しました。【分解】へ【派生】を使用することにより、
スキル【存在分解】を会得しました。
スキル【存在分解】は、触れた対象が合成されたものの場合、合わさった2つの存在を元に戻す事が可能です。』
これで問題はクリア。
あとはオバラに触れて【存在分解】で魔族を引き剥がすだけだ。
魔族には消えてもらう。
「陛下、結界はこのままにしておくのでケリをつけてきます。」
結界を抜け出るとオバラはこちらに突進してきた。
大きく腕を振り上げる。
動きが大きいし遅すぎる。
身をかがめて避けて懐に潜り込んで毛むくじゃらの腹を触りながら【存在分解】を発動した。
「くぉ…がぁぁぁぁぁあああ!」
みるみるうちに全身を覆っていた紫色の毛が抜けていき、あっという間に元のオバラに戻った。
その後ろには紫色の毛を全身から生やした魔族が立っていた。
「ハァ、ハァ…貴様…今何ヲシタ…?」
「種明かしはそう簡単にするもんじゃないだろ?」
バレてしまったら面白くない。
「フザケルナッッ!」
さっきより遅くなった魔族はまたもや突進してきた。
「だから動きが大きすぎるんだってば。」
最高速度で間を詰めて額に軽くデコピンを食らわした。
クリーンヒット。
眉間ど真ん中をデコピンされた魔族は弾丸のように吹っ飛んでいった。
あれ?デコピンってこんなにえげつない威力あったっけ?
城の窓を割り、街を越え、城壁をも越えてもまだまだ勢いは衰えない。
クラウン・キメラと同じ要領で【引力】を発動させると引っ張られるようにして戻ってきた。
目前まで来たところで後頭部を殴りつけた。
叩きつけられた魔族の顔面は城の床にめり込み、それを中心としてヒビが広がった。
床からボロボロの顔面を抜くと、鼻血を出しながらなんとか息をしているような顔が出てきた。
やった俺が言うのも何だけど、大丈夫か?
顔色悪いぞ?多分。
すると魔族が弱々しくこちらを睨んできた。
「…オマエハ…ナンダ…ナンナンダ…」
そう言ってすぐに事切れた。
衛生上燃やす方がいいのか?
それとも【分解】で塵にしたほうがいいのか?
「シド殿…魔族は?」
「…死にました。ちょっと勢いよく殴りすぎましたね。」
張っていた結界を解いて足元に広がるヒビを【時間魔法】で元に戻した
もうこの際何をしたって変わらないだろう。
「陛下、これどうします?消しますか?」
「…うむ、そうしてくれ。構造は既にわかっている。」
【分解】を発動するとサラサラの塵になって吹いた風に乗って飛ばされていった。
サヨナラ。
▽▽▽▽▽
その後は負傷した騎士隊長達の手当てを行った。
殴り飛ばされて壁に激突した騎士隊長はやはり肋骨が折れていた。
【回復魔法】で治すと目を丸くしていた。
ヒビもなく完璧に治せたみたいだった。
外を見るともうすっかり夜になっていた。
ぼんやりと外を見ていると陛下が近づいてきた。
「シド殿、本当に助かった。ありがとう。」
「いえ、孤児院の子供達が解放されて何よりでした。お怪我は無かったですか?」
「あぁ、シド殿のお陰で無傷だった。オバラ伯爵は犯罪者として鉱山にでも送るとしよう。いやでも反省するだろう。伯爵家も取り壊しだ。」
それが妥当な判断だろう。
もっとも、それで反省するのかはわからないけどね。
魔族を自分に憑依させてまで逃げようとしたんだから鉱山からも逃げ出すかもしれない。
まぁ知ったこっちゃないけど。
「それでシド殿、孤児院の子供達はどうするのだ?かなりいるだろう?」
「しばらくは陛下のくれた家で保護します。問題ありません。」
部屋はまだ余っている。
子供十数人なら全然大丈夫だ。
「そうか…それと今回の褒美というか礼なのだが、何がいい?用意出来るものなら用意するが。」
「褒美、ですか…でしたら孤児院があった土地をください。落ち着いたら建て直してそこで子供達を生活させます。人員はこちらで用意するんで大丈夫です。」
俺が動かすんだからもうあんな腐った孤児院にはならない筈だ。
子供の世話を見る大人なら国内で誰か雇えばいいだろう。
護衛で中級悪魔をつけても良いかもしれない。
「わかった、手配しておこう。忘れるところだった。もう一つ、明日の朝また王城に来てくれないか?少し話したい事がある。」
「朝ですね、わかりました。それでは今日はこれで。失礼します。」
陛下とはそれで別れてミエラの元へと向かった。
ミエラは特に傷はなく、魔族を消したあとは保護した子供達を確認しに戻った。
既に話は通してあるからこのまま家に連れて帰れる。
家に帰ればサラもコーラスもいるから俺のする事はないだろう。
「ミエラ、大丈夫か?」
「シド殿。ありがとうございます、お陰でかすり傷で済みました。」
そう言ったミエラの頰にはガーゼが貼られていた。
【回復魔法】をかけるとあっという間に治った。
顔に傷が残っちゃ大変だからね。
「子供達も大丈夫です。特に年長らしき少年が他を落ち着かせているのでこちらも苦労が少なくて済みました。」
ミエラの視線の先には毛布を被って眠る子供達と一人起きている少年がいた。
精悍な顔つきで真っ白な髪は光を受けて輝いている。
「今日中に連れて帰ろうと思うんだけどいいかな?【瞬間移動】を使えばみんな同時に連れて帰れるから。」
「当然です。子供達にはもう話してあります。」
すると少年はこちらに気がついたようで近づいてきた。
「僕はオスカーです。この度は僕たちをあの孤児院から救い出していただきありがとうございました。」
そう言って頭を下げてきた。
礼儀正しい子は嫌いじゃないよ?
「俺も自分が嫌だったから動いただけ。俺はシド、よろしく、オスカー。」
手を差し出すと握り返してくれた。
手は少し力を込めただけで折れてしまいそうな程に細く血管が浮き出ていた。
「オスカー、聞いていると思うけど今日からしばらくの間は俺の家に住む事になっている。部屋はまだあるし、家にはリアンもいるから心配しなくていいよ。」
「…本当にありがとうございます。御恩は返します。」
寝ている子供達も痩せこけている。
まずは全員健康体に戻さなくちゃな。
これからしばらく投稿ペースが遅くなります。
申し訳ありません。




