第35話 変貌
新年明けましておめでとうございます。
拙い文章ですが、今年もよろしくお願いします。
俺と騎士団は今、例の孤児院へと向かっている。
俺の家があるのが北東の地区、孤児院があるのは西の地区だ。
広場はその中心に位置していて、そこでリアンとセイルと出会った。
広場を通過してそのまま進む。
時々道沿いの家から人が顔を出して何事かと騎士に尋ねているのが聞こえた。
ミエラは騎士団の戦闘をきって進む中、フェゴールから通信が入った。
『主、もうこりゃすごい量ですよ。今その…なんとか伯爵の部屋にいるんですけどね、どこの引き出し漁っても不正の証拠ばっかりですねー。』
『そんなにか。わかった、じゃあ全部持って王城の近くで待機しといてくれ。』
『わかりました。んじゃ。』
これでオバラ伯爵の罪は確定した。
あとは孤児院を抑えるだけだ。
「シドさん、もう少しで孤児院に着きますよ。」
ミエラにそう言われて前を見ると古ぼけた大きな建物が目に入った。
「一度止めた方がよくないか?かなりの音がしてるしさ。」
騎士団の着る甲冑は金属製で、歩く度に金属音がする。
こんな音出して前まで行ったら気づいて逃げられてしまう。
ミエラが騎士団の前進を止めて今から行う事を説明した。
説明といってもただただ乗り込んで現場を抑えて王城に連れて行くだけなんだけど。
説明が終わってから騎士団全体の鎧だけにに【防音】をかけた。
これで金属音は孤児院の中には聞こえなくなるはずだ。
孤児院の前に停止してからはまず子供を外に出すのが優先された。
それは俺1人で十分だった。
どうやらリアンが既に何人かには孤児院潰しの事を話していたようだ。
【光学迷彩】を使って中に入り、子供達の寝る部屋に着いてから姿を現わすと年長らしき少年がすぐに出てきた。
部屋の壁を建物が崩れないように【分解】で壊してから全員外に出した。
全部で16人いた子供は騎士団に保護してもらい、遂に突撃の準備が整った。
「ミエラ、今この中にはオバラ侯爵を含めて5人がいる。一気に入って差し押さえよう。」
「わかりました。何人かは裏口に回しておきます。」
ミエラの指示で数人の騎士が孤児院の裏側へと向かっていった。
「さて、じゃあ行こうか。」
「はい、総員突撃!」
ミエラの声で騎士団は孤児院の扉を蹴破り中に突入した。
なにこの絵面。不思議。
「なっ、なんだお前達はっ⁉︎」
男の焦った声が聞こえる。
そのあとも対立しているような声がしたがしばらくすると収まった。
あっけなく終わった、と思ったら横を男がすり抜けていった。
「隊長、すいません!1人逃しました!」
二階の窓が開いている。
おそらくそこから飛び降りたんだろう。
よく走れるな。
どんどん男は遠ざかって行く。
すぐさま足元から【地獄の礎】の鎖を出して男に向かわせた。
鎖は男に巻きつき、こちらに引き寄せられてきたところを【パラライズ】で麻痺させた。
「ったく、面倒かけさせるなよな。」
これで本当に孤児院は潰れた。
残りはオバラ伯爵を潰すだけだ。
騎士団の手によって縄で縛られた孤児院の経営者は男2人と女2人、それとオバラ伯爵だった。
オバラ侯爵は孤児院から出てくるなり、
「私を誰だと思っている!この国の貴族であるオバラ伯爵だぞ!このような事をして良いとでも思っているのか!」
とかほざいていたが問答無用で王城輸送用の馬車にかなり乱暴に乗せられた。
他の4人も何か喚いていたがオバラ伯爵同様の扱いを受けていた。
このまま王城へと連れて行き、その後陛下の前で弁明、もしくは刑を言い渡される、とミエラが教えてくれた。
弁明って言うけどそんなの必要無いよね?
▽▽▽▽▽
「それではオバラ伯爵の弁明を聞くとする。侯爵よ、弁明はあるか?」
玉座に座った陛下の前でオバラ侯爵の弁明が始まった。
両脇には多くの貴族と騎士団の隊長達が並んでいる。
俺もミエラの横に並んで立っている。
こんなところに呼ばれるミエラってかなりの実力なんだろうね。
「それでは弁明させていただきます。陛下、私は今現在の状況が理解出来ておりません。なぜ私は後ろ手に縛られこのような場所にいるのですか?」
俺の横にいるミエラが前に出ようとしたので手を出して制した。
何故?というような目で見てきたので首を振った。
ここで突っ込んでしまっては追求できなくなる。
「そうか…お主は今孤児院に回すべき金を私利私欲のために使っていた疑いにかけられておる。その金で酒を買い、孤児院の運営者と遊んでいたところを差し押さえられた。これが今の状態だ。」
「そうですか。それで、証拠はあるんですか、陛下?」
…は?こいつ何言ってんだ?
証拠も何もあの現場が一番の証拠だろ。
「あの場だけでは不十分と申すか?」
「その通りでございます。私があの場にいたのは忠告のためです。あの孤児院を運営する者達こそが自分たちのために金を使い遊び呆けて子供達の事を放っていたのです。見るに耐えなくなり私は忠告しに言ったところでした。」
…あぁ、そうか。こいつ天才なのか。
腐ってる。
その言い訳かなり苦しいぞ?
「それが真実だとした場合、何故お主は孤児院の者と一緒に酒を飲んでいたのだ?」
「ッ……それは…」
一気に止まったな。
それを言うならもっと先の事も考えとけよ。
そろそろ出るか。
「陛下、少しよろしいですか?」
「ん?シド殿、どうかされたか?」
「別にその罪でなくともよろしいかと。別の罪の証拠は掴んでおります。」
そう言うと全員の目がこちらに向いた。陛下の前まで行くとローブのポケットから数十枚の紙を取り出した。
それを見た瞬間オバラ侯爵の目が見開かれた。
「シド殿、それはなんだ?」
「これですか?隠されてた犯罪の証拠ですよ、オバラ伯爵の家にありました。」
その場にいた全員がざわついた。
オバラ伯爵の顔は真っ青だ。
「中々な量ですね。脱税に違法取引、密輸、恐喝、殺人、貨幣偽造などなど、全て合わせれば軽く3桁はいく量ですね。ちなみにこれはオバラ伯爵の行動に反抗心を抱いたことによって辞職した前メイド長、執事長からのものなので違法ではありません。掃除中に偶然出てきたようです。」
これは本当でフェゴールはこの短時間でその2人に取り入り家の中へと入ったのだ。
通信にあった「漁る」というのは正規の意味での「漁る」だったというわけだ。
「お前…何がどうあれ不法侵入だぞ!伯爵である私の家を漁ったと言うのか⁉︎」
「漁った?心外ですね。それでは、俺が漁った証拠はどこにあるんですか?」
オバラ伯爵が悔しそうにくちびるを噛んでいる。
スカッとしたなぁ。
「陛下、俺からは以上です。」
「これら全てが…伯爵、これについてはどう弁論する?」
オバラ伯爵は俯いたままこちらを向かない。
「…………るな…。」
「なんだ?なんと言った?」
「ふざけるなっっ!」
オバラ伯爵を縛っていた縄が落ちた。
立ち上がったオバラ伯爵の手には小型のナイフ。
あれで縄を切ったのだろう。
「こんなところで…こんなところで終わってたまるかっ!」
そう言うと懐から紫色の飴玉のような物を取り出して口に放りいれた。
「しまったっ!」
騎士隊長達が動くがオバラ伯爵は口元に笑いを浮かべながら口に入れたそれを噛み砕いた。
その瞬間近づいていた騎士隊長達が盛大に吹っ飛び壁にぶつかった。
オバラ伯爵を中心として強い衝撃波が放たれたからだ。
衝撃波がこちらに届く前に全体に結界を張ったお陰で近づいていなかった貴族や陛下は無事だった。
抉れた床の埃が収まった時にはオバラ伯爵は人間の見た目ではなくなっていた。
体は大きくなり全身から紫色の毛が、頭からは捻れた角が、腰付近からは先が二又になった尻尾が生えている。
目は白眼の部分が黒くなり瞳は赤くなっていた。
「そんな…なんで魔族が…」
掠れた声でミエラが呟いた。




