第18話 治療
国王陛下が立ち上がり、アメリアへと近づいた。
「アメリア、無事だったか?怪我は無いか?」
「えぇ、心配ありませんお父様。カリーナも、心配かけてごめんね。」
「ねぇ、それで本当にお婆ちゃんを治せるの⁉︎」
アメリアの言ったカリーナと言うのが妹だろう。
アメリアと同じ金髪だが、髪は腰まで伸びている。
15歳ほどだろうか。
その言葉にバレンさんが懐から生命の水を取り出した。
「こちらが生命の水でございます。どうぞ。」
国王様が受け取り、光にかざすようにして生命の水を見ている。
「これが伝説上の薬…これがあれば…。アメリア、この薬は…?」
「はい、兵士が伝えた通り、その薬を醸造したのも、危機に瀕していた私達を救ってくれたのもこのシド様です。」
そう言ってアメリアは俺を前に押し出した。
国王陛下と目が合う。
すごい目力。
「あなたがこの薬を。」
「お初にお目にかかります、国王陛下。」
そう言って頭を下げた。
今回は自分から、なるべく自然に下げたぞ。
緊張で手汗がすごいけど。
「名はなんと?」
「はい、シド・テンペスト・シリウスと申します。」
「シド殿、この度はアメリアを救っていただき、そして我が母を救うため協力してくださり感謝す…」
「待って!」
なんだ、どうしたアメリアの妹よ?
不思議そうに国王様がカリーナを振り返る。
「どうしたのだ、カリーナ?」
カリーナは立ち上がり、俺を指差しながら言った。
「お父様、こんな奴の事を信用していいの⁉︎急に出てきて、もしかしたらお姉様を救ったのだって計画だったのかもしれないわ⁉︎」
「カリーナ!」
アメリアが言うが、カリーナは止まらない。
「だいたい伝説上の薬である生命の水がそんな簡単に手に入る筈無いわ!私達でもわからなかった醸造方法をなんで知ってるの!きっと毒か何か入ってて、それでお祖母様を殺す気だわ!」
突拍子も無い事言うな、この娘。
確かに俺の魔力は混ざっているけどさ。
(リーヴ、この生命の水には俺の魔力が入っているけど、それって毒とかになる?)
『いいえ、なりません。むしろマスターの魔力によってその後も病気にかかる可能性を皆無にします』
一生健康か。
なんだったら薬屋でも開こうかな?
また醸造して次は自分で飲もう。
(どうしたら心配無いってわかってくれるかな?)
『欠損部位のある兵士に試させるのが一番かと思われます。』
そりゃそうだ。
するとバレンさんがリーヴと同じことを言ってくれた。
「それでは試してみてはどうでしょう。国王陛下、この国の中に先日、魔獣との戦闘で重傷を負い、死に瀕している兵士がいると聞きました。言い方は悪いですが、このままだと死んでしまいます。」
おぉバレンさん思い切ったな。
毒だったらその兵士死んでしまうのに。
「…わかった、その兵士には悪いが了承の上で試させてもらおう。情報では一滴もたらせば欠陥部位は再生されるらしいからな。疑うようで申し訳ないが、よろしいか、シド殿?」
「えぇ、私としてもそちらの方がよろしいかと。」
「兵士を運んで参ります。」
そう言ってバレンさんは部屋を出て行った。
バレンさんが帰ってくるまでの間待つわけだけど…。
背後からものすごい視線を感じる。
殺気っぽい視線だ。
振り向かなくてもわかる。
アメリアの妹、カリーナだろう。
俺なんかした?
しばらくするとバレンさんは他の何人かとともにベッドを運んできた。
日本の病院にあるようなベッドで、下には小さなタイヤが付いている。
その上には、左手足が無く、身体中化膿した傷だらけの男の兵士がいた。
顔にも大きな傷があり、苦痛の表情をしている。
「それではシド殿、やらせてもらうぞ…。」
国王陛下が近づき、兵士の胸に生命の水を一滴垂らした。
その瞬間兵士の身体が輝き、みるみるうちに欠損部位が再生されていった。
顔や身体中にあった傷も傷跡一つ残さず消え、後には具合の良さそうな兵士がベッドに横たわっているだけだった。
治った顔は中々のイケメン君だ。
「…まさかここまでの効果が…。カリーナ、これで本物と認めるな?」
「…はい…申し訳ありませんでした、シド様…。」
「こちらこそ、疑わせるような事をしてすみませんでした。」
これで疑いは晴れた筈だ。
完治した兵士を乗せたベッドは部屋から出されていった。
後は太后皇后様を治療するだけだ。
アメリアが薬を持って太后皇后の寝るベッドに近づき、言葉をかけた。
「お祖母様、これで治ります…。」
そう言ってアメリアが太后皇后に生命の水をかけた。
先程と同じように身体は光に包まれ、浮かび上がっていた黒い斑点を消していった。
光が収まると、太后皇后は目を覚ましていた。
「お祖母様…。」
「こうやって動くのも久々ね…。アメリア、全部聞こえていましたよ。私のためにありがとう。」
アメリアは泣きながら太后皇后に抱きついた。
カリーナも一緒に抱きついて泣いている。
「シド様。」
急に俺の名前を呼んだ。
「私はこの娘達の祖母、この国の太后皇后のソルネル・アン・グランテストです。この度は本当にありがとうございました。」
もう白くなった髪は頭でまとめているが、アメリアやカリーナと同じ金眼は輝いている。
「いえ、太后皇后様をお救いできて光栄です。」
「本当にありがとう。そして、実はあなたにもう一つお願いがあるの。この生命の水、あなた相当の魔法が使えるのよね?」
「?まぁそこそこは…。」
急だな。
お願いか、なんだろう?
ソルネル様は国王陛下に向けて言った。
「いいわね?シド様なら戻せるかもしれませんよ?」
「…うむ、シド殿、少しこちらへ。」
そう言って国王陛下は横の小部屋へと俺だけを連れて行き、向かい合ってイスに腰掛けた。
「…それで、単刀直入にお伺いしますが、私へのお願いとは何ですか?」
「これは王家の人間以外には言ってないのだ…バレると少々大変なのでな。」
「どのような事でしょうか?」
尋ねると国王陛下は深く息を吸い言った。
「この国の王妃、ジュリア・ルイーズ・グランテストの記憶を甦らせてほしい。」
「王妃様の、記憶…?」
国王陛下は重々しく頷いた。
「3年前、ジュリアと私は遠く離れた土地へ出兵している者達へと励ましを送るため、そこへと向かっていた。そこへと行くには山道を行かねばならなかった。山道を通っていると、突然私達の乗る馬車へと自然の落石があった。馬車は壊れ、ジュリアと私は大怪我を負った。死者はいなかったが、その際頭を打ったのだろう。三日三晩目を覚まさないジュリアに付き添い、ついに彼女は目を覚ました…。しかし…」
「それまでの記憶を失っていた、と…。」
「あぁ、その通りだ。…どうにか出来るだろうか…?」
定番の記憶喪失だな。
記憶とは「記銘」、「保持」、「想起」によって成り立っている、と聞いた事がある。
王妃様はきっとそのどれか、もしくは全てを落石の衝撃によって忘れてしまったのだろう。
しかし国王陛下のお妃様の記憶が無いと分かると国中大混乱になるかもしれないな。
そうなる前にどうにか直す、か。
せめて記憶を操るようなスキルあればいいんだけど…。
そこである考えを思いついた。
(リーヴ、【知識強制収納】に【派生】を使ってこの問題をどうにか出来る?)
『可能です。実行しますがよろしいですか?Yes/No』
(Yesで。)
『【派生】を開始します……完了致しました。【知識強制収納】へ【派生】を使用する事により、スキル【眠れる記憶】を会得しました。
スキル【眠れる記憶】は、対象の持つ記憶を読み取る、またはその記憶を思い出させる事が可能です。』
ぴったりだな。
流石俺の相棒だ。
リーヴとの会話中は時間の進み方が遅くなるので、今も1秒と経っていない。
「何とかできるかと。」
「何ッ!本当かッ⁉︎」
そう言って国王陛下は身を乗り出して来た。
思わず引いてしまう。
だって怖いもん。
「一度王妃様とお会いする事は?」
「出来る!待っていてくれ!」
そう言うと国王陛下は部屋を飛び出して行った。
慌てると怪我するよ。
しばらく待っていると国王陛下がドレス姿の1人の女性の手を引いて部屋に入ってきた。
綺麗な金髪を背中まで伸ばしており、瞳も翡翠のように綺麗だ。
「ジュリア、この方はシド殿、失っている記憶を戻せるかもしれない。」
頭を下げ、また挨拶する。
「シド・テンペスト・シリウスと申します。」
「本当に私は記憶を取り戻せるのですか⁉︎」
おぉ、国王陛下以上に来るな。
王家は全員こんなに押しが強いのか?
「おそらく取り戻せるかと…。」
「お願いします!」
王妃様の目がコーラスの料理を目の前にしたカトルのように光り輝いている。
「ジュリア…。すまない、私からも早くやってしまってくれ。本気になるといつもこうなのだ。」
そりゃ自分の記憶が甦るともなれば興奮するだろう。
「わかりました、それでは行きます。少し頭に触れても?」
「えぇ、どうぞ。既に覚悟は出来ています。」
そうして王妃様の頭に手を置き唱えた。
「【眠れる記憶】。」
すると、手を通じて王妃様の中で眠っていた記憶が俺の中に流れ込んできた。
(これからどうすればいいの?)
『今得た記憶をそのまま送り返してください。』
言われた通り記憶を送り込む。
完了したようなので手を離すと王妃様は急に泣き出した。
「どうしたのだ、ジュリア?」
「本当に…記憶が戻った…。全部覚えてるわ、アメリアの事も、カリーナの事も、あなたの事も…全て覚えてる…!」
「あぁ…ジュリア…!」
そう言って2人は俺の目前で抱き合った。
「別室の3人を呼んできます。」
そう言って抱き合っている2人を残して俺は部屋を出て、アメリア達のいる部屋に入った。
入るなりアメリアが聞いてきた。
「シドさん、お母様は、お母様の記憶はどうなりましたか⁉︎」
「あぁ…しっかり戻ったよ。」
言った瞬間アメリアとカリーナはすごい速さで部屋を飛び出して行った。
そういうとこ国王陛下に似てるね。
いつか怪我するよー。
ソルネル様が椅子から立ち上がった。
「さて、それでは私も行きましょうかね。シド様、手を引いてくれるかしら?」
「えぇ、もちろんです。」
ソルネル様の手を取り、ゆっくり部屋を出て国王陛下のもとに向かった。
部屋の近づくと4人分の泣き声が聞こえてきた。
「どうやら本当に記憶を戻したようね。」
ソルネル様が驚いたように言う。
ここで嘘言っても意味が無い気がするけどね。
「はい、全ての記憶を取り戻しています。」
「すごいわね…どうやったのかしら?」
「えーと…企業秘密という事でよろしいでしょうか…?」
「企業秘密?ふふ、面白い人ね…。やっぱりあの人に似てるわ。あなた、後で私の部屋に来なさい。」
微笑みながらそう言って、ソルネル様は国王陛下達のいる部屋へと入っていった。
急なソルネル様からの呼び出しか…。
あの人って誰だ?




