第16話 グランテスト大国へ
誰かの声がする。
「し・・・おき・・・。シドさん、朝ですよー。」
朝か…。
テントの中に陽の光が入ってくる。
「ん…朝か…。おはよう、アメリア。」
「おはようございます。」
眼を擦りながらテントを這い出ると既に3人とも出発の準備をしていた。
軽く伸びをしているとバレンさんが声をかけてきた。
「おはようございます、シド様。よくお眠りになられましたか?」
「ぐっすりと眠れました。バレンさんは?大丈夫ですか?」
「えぇ、私は転生した時から【短時間睡眠者】というスキルを持っているので、1日10分も寝れば健康を保っていられますのでご心配いりません。」
1日10分って短すぎないか?
でも警備するには便利そうだ。
『バレンの説明により、スキル【短時間睡眠者】を会得しました。』
ですよね。
これで今日から俺も短時間睡眠者。
でもやっぱり長い時間寝たいから必要な時だけ使おう。
テントを【亜空間収納】に仕舞い、準備が整ったので準備をする。
ここからだと馬車で3日の距離らしい。
そこで少し考える。
(リーヴ、俺と馬、どっちが速い?)
『もちろん、マスターです。』
(俺が最高速度で走ったらどれくらいで着く?)
『10分ほどで到着します。』
俺が走って行ってからここに戻って来て【瞬間移動】で一緒に帰る方が速い。
3日どころか10分で着く。
問題はアメリア、ミエラ、バレンさんに加えて馬車と馬車馬2頭を連れて行けるかだ。
(この量と同時に【瞬間移動】するのは可能か?)
『カトルのように1人なら許容範囲ですが、この量は難しいです。そこで新しいスキルを使用します。』
…え?
今なんて言った?
新しいスキル?
『今持つスキルから応用を考える、という条件を満たしたので、スキル【派生】を手に入れました。』
まただ。
何その条件。
そんな簡単でいいの?
(【派生】って何?)
『スキル【派生】とは、今あるスキルを可能な限り作り変える、又はそれを元に新しいスキルを作るものです。』
なるほど、イメージとしては1つのスキルから枝分かれさせるようにスキルを増やしていく、という事か。
かなり使いがってが良いな。
(その【派生】を使うとこの問題をどうにか出来るか?)
『スキル【瞬間移動】のシステムを書き換え、指定したものと一緒に移動する事が可能となります。行いますか?Yes/No』
(Yesだ。)
『わかりました…【派生】により、【瞬間移動】は集団での移動が可能となりました。』
さて、これで集団で移動することができる。
「アメリア、今から10分ほどで一度グランテストに行ってからもう一度戻ってくる。その後もう一度ここに戻ってきてから【瞬間移動】で移動しようと思うんだけど…それでいいか?」
「たった10分でグランテストに…?でもシドさんなら…わかりました、私達はここで待っています。」
「ありがとう、じゃあ行ってくる。」
そう言って走り出した。
秒速29kmで走っているのでどんどん景色が後ろに流れていく。
こんな速度で走っていても景色が見えるのもリーヴの補助のおかげだろう。
にしても全く息が上がらない。
不思議だ。
(なんで俺はこんなに走っているのに汗ひとつかかないんだ?)
『マスターの身体は特別だからです。この身体はどれだけ走ってもスタミナを消費しません。』
なんて身体だ。
持久走を走ればぶっちぎりでトップになれるぞ。
そんなことを考えていると【マップ】に赤丸が表示された。
馬車が通る予定だった道に30ほどの赤丸が散開している。
(どういうことだ?)
『アメリアの身柄を狙っての事だと思われます。』
なるほど。
あの3人の話を聞く限り、アメリアはお嬢様だ。
現に執事とお付きの騎士がいる。
そんなアメリアを捕まえて人質に取れば多額の身代金を要求出来る、という魂胆だろう。
対人戦闘の経験もしておきたいのでそのまま近づき、すぐに歩き始める。
すると首領っぽい柄の悪そうな男が前に出てきて、止まった俺の周りを子分たちが囲った。
首領は腰から剣を下げ、毛皮のベストを着ている。
ザ・盗賊って感じだ。
「おいお前、運が悪かったな。見ての通り、俺らは盗賊だ。無駄な抵抗はするなよ。」
テンプレか。
よくあるよね。
俺を囲んだ子分達がニヤニヤと笑っている。
何笑ってんだか。
気持ち悪い。
「なんでこんな所に?」
「そんなもん答える必要無いんだよ。残念だったな。まぁ、俺達がたっぷり可愛がってから解放してやるよ。」
そう言うと首領らしき男は笑いながら突進してくる。
……。
遅ッッ!
わざとスローで動いてるのかと疑いたくなるぐらい遅い。
気持ち悪かったので近づいて顔面に右拳を叩き込む。
拳は気持ちよく顔面の中央にはいった。
首領らしき男は鼻血を吹き出しながら吹っ飛んだ。
男は地面に落ちると動かなくなった。
ピクピク痙攣しているので死んではいない筈だ。
「お頭がやられたぞっ!」
「この一瞬で⁉︎」
「いつ近づいたんだ⁉︎」
「おい、全員で行くぞ!身体は出来るだけ傷つけるなよ!楽しめなくなるからな?」
傷つけるなって事は俺は捕まったら売られるのか?
その言葉を聴くとまた子分達がニヤニヤする。
お前らニヤニヤする前にまずお頭の心配をしてやれ。
痙攣しているお頭がかわいそうだ。
『カウンターの命中により、スキル【反撃必殺】を会得しました。』
なんかカッコいい名前のスキルを入手したぞ。
けど今は放っておこう。
ジリジリ盗賊達が近づいてくる。
自分から突っ込んどいて言うのもなんだけど面倒臭いな。
(リーヴ、手っ取り早く全員一気に生かしたままで行動不能にする手段とかある?)
『両手に魔力を込め、範囲を指定して大地を叩いてください。そうする事によって範囲内にいる者に地面を媒介として魔力をぶつけ、失神させる事が可能です。』
やってみよう。
少し多めに魔力を手に込める。
範囲は今視認できる盗賊がいる所までに設定し、振りかぶって両手を握りしめて地面に叩きつけた。
すると俺の魔力は地を這って盗賊達に届き、盗賊達はみんな感電したように震え、白目を剥いて倒れた。
結構楽だけど団体戦では使えないな。
(対象を個人にするように、【派生】でどうにか出来ないか?)
『可能です。行いますか?Yes/No』
(Yesだ。)
『わかりました。先の戦闘で行った事を元に、【派生】によりスキル【パラライズ】を会得しました。』
よし、これでこちらに味方がいても相手を殺さずに済むだろう。
とりあえず道の脇に盗賊達を縄でまとめて転がしておく。
処分は後でアメリアに聞こう。
身体にあった武器は全て取り上げたので問題無い筈だ。
それにしても、今回は自分から突っ込んで行ったけど次からは1人の時はなるべく回避して見つからないように倒したいな。
『隠密行動を可能とするため、スキル【光学迷彩】を会得しました。』
本当に甘やかされている気がする。
こんなで俺は大丈夫だろうか。
このスキルはそのまんまだろう。
相手に自分を認知させなくするようだ。
これを使えば大抵の事は…。
そんな考えを捨てて移動を再開する。
走りながら先ほど得た【反撃必殺】を確認する
【反撃必殺】・・・敵対する者に反撃する際、高い確率でカウンターが成功する。
かなり強力だ。
カウンターの構えと経験を積めば上手く扱えそうだ。
それから1、2分もすると長い壁が見えてきた。
そう、グランテスト大国の壁だ。
移動を始めてから盗賊との戦闘も込みで12分、俺はグランテスト大国に到着した。




