第15話 理由
前回のあらすじ
アメリア、ミエラ、バレンの3人は窮地をシドに助けてもらう。
アメリアがこんなところに来た理由とは?
(おそらく最初で最後のあらすじです。)
「私の祖母は今、ある病に侵されています。それは不治の病と呼ばれ、全ての国から恐れられ遠ざけられています。当然、私の家でもそれを治そうと多くの医者を呼んで、どうにか手はないかと問いましたが、帰ってくる答は「もう手遅れだ」との言葉だけでした。治癒魔法の効果も無く、感染力は弱く、理由もなく急に発症するので感染源の特定、自然治癒に任せる事も出来ません。しかし、私は噂である薬の事を聞きました。」
一度口を閉じ、決心した目でこちらを見てアメリアは言った。
「生命の水、です。」
やっぱりか。
前世のゲームでも、家に置いてあった本でも見たことがある。
その説明書きによれば、それを飲んだ者は発症しているありとあらゆる病をたちまち回復し、身体の欠損部位までも瞬時に再生する、とのことだった。
滅茶苦茶だね。
「私はその希望だけをもとに必死にその入手方法を探し回りました。一般的にはそこまで認知されていない生命の水ですが、多くの材料は高値で取引されていたので入手しました。しかし、残り2つの材料の入手方法は中々手に入りませんでした。そして、最近やっと手に入れたのです。」
「それがこの山にあると…。」
「はい。残りは神聖石という石と、女神の涙と呼ばれる植物です。これらはこの辺りではこの山でしか手に入らないとの事でした。しかし、一向に見つかる気配はありませんでした。それからも探していると、先ほどのブラッドウルフが襲ってきたのです。」
「そういう事か…ちなみに山の上の方には?」
「私達なんかが上の方まで行くだなんて自殺しに行くようなものです。」
これまた予想はしていたが…。
これを聞いたのは、実はこの山の上の方には今アメリアが言った神聖石と女神の涙がゴロゴロある。
それこそ道に転がっている小石レベルである。
そして俺はそれらを大量に持っている。
理由としては、どちらもキレイにだったから売れないかと思っての事だ。
神聖石に関しては虹色の光を放っていて、更に磨けばだいぶ高値で売れると思った。
だけどそんな物の材料だったのでは売れないだろうな〜…。
困っているようだし渡しても良いかな?
全部渡せとか言って斬りかかってきたら逃げればいいし。
「えーと、その2つでしたら私が持ってます。」
「…え…?」
3人ともポカンとしている。
まぁそりゃこんな反応になるよね。
【亜空間収納】から実物を取り出して実物を手渡す。
「本当に…聞いた通り虹色の光を放っている。…。一体どこでこれらを…?」
「山の上で。」
「一体どうやって…いえ、でもさっきの様子を見れば…。」
考え込んでいるアメリアにミエラが言った。
「この話をする前に、まず山を出ましょう。国までまだありますし、今日も野営になりそうです。」
確かに日が暮れ始めている。
このままだと山中で夜を過ごす事になるかもしれない。
そうなると危険だ。
俺は大丈夫だったけど。
そう言ってすぐに出発した。
30分ほどで山を出ることができ、入り口から離れた所で野営の準備をした。
俺はバレンさんと一緒に寝る所の準備をした。
「シド様、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、なんですか?」
「シド様は先ほど自信の名を3つに分けて名乗られました。と、言うことはどこかの貴族様なのでしょうか?」
「え?いいえ、私はただの平民です。普通は違うのですか?」
「えぇ、シド様のように3つの名を持つ人は大抵は貴族様です。一般的に平民は名と家名のみです。…テンペスト…。テンペストということは、シド様は【雷化】を使えるのですか?」
「あ…まぁ、はい…。」
しまった。
やってしまった。
まぁ既に【大炎龍】と【海王】を見せているからいいか。
「そうですか…。ありがとうございました。」
やっぱりやっちゃったか?
そうこうしているうちに夜になった。
夕食は火を囲んでアメリア達が持ってきた食料を食べた。
明日からは帰ると言うので俺も一緒に食べさせてもらった。
そこで少し気になる事を質問してみた。
「アメリア様は生命の水の醸造方法を知っているんですか?」
「…実はまだわからないです。今家で私の側に付く者が調べているんですけど…。」
「それでは、私が醸造しましょうか?仕方も知ってますし。」
またもや3人はポカンとしている。
もうこの顔には慣れた。
「出来るんですか…?」
「えぇ、夕食も終わりましたし、どうせなら今この場でやってしまいましょう。」
そう言って【創造】で必要な器具を作っていく。
もうここまでやってしまえばあとは何やったって変わらないよね。
【完全記憶】のお陰で醸造方法はバッチリ頭に入っている。
ちなみに、アメリアが高値で入手したという材料だがそれも山の上にはかなりある。
絶望の山万歳。
作り出したビーカーの中に必要な材料を入れ、少しずつ醸造していく。
あとは女神の涙を入れればしばらく熱するだけだ。
ビーカーを火の上にセットするとミエラが首を軽く振っていた。
「まさか本当にこんなに早く…。」
しばらく待つと、ビーカーの中には真紅に光る液体があった。
本で見た通りだ。
おそらくこれが生命の水だろう。
(これ成功してる?)
『完璧な出来です。マスターの魔力も混じってしまったので通常の倍の効果が期待できます。』
あらゆる病を治すなら倍の効果があっても意味ないよね。
それを別の容器に移しアメリアに手渡した。
受け取ったアメリアは頭を下げてきた。
「ここまでやっていただいて本当にありがとうございます!」
「大丈夫ですよ。こちらも善意でやった事ですので。」
「そうですか…。そうだ!お礼がしたいのですが、このまま私たちと一緒に国へ行きませんか?馬車を使えば3日で着きます!」
「え…いいんですか?」
これだけでそんな事をしてもらって良いんだろうか。
そこまででも無い気がする。
「いえ、それは私も歓迎です。瀕死だった私とバレン殿を治癒し、その上生命の水まで醸造していただいたのです。ここまでしていただいたのに何もしない方が失礼です。」
「それならばお言葉に甘えて、よろしくお願いします。」
「はい!それでは、これからは私の事はアメリアとお呼びください!タメ口でオッケーです!」
待て、急すぎる。
会って1日経っていないのに呼び捨ては元現代日本人的に辛い。
「流石に呼び捨ては…。」
「その代わり私もシドさんと呼ばせていただきます!」
どうやら既に決定事項らしい。
逃れられなさそうだ。
「…わかった。よろしく、アメリア。」
「こちらこそ、よろしくお願いします、シドさん!」
「シド殿、私の事もミエラと呼んでくれ。そちらの方が気楽だ。」
「そっちも…わかった。よろしく、ミエラ。バレンさんはバレンさんでお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします、シド様。」
明日からの予定と呼び名が決まったところで今日は寝ることになった。
俺も火の番をすると言ったが、バレンさんがすると言って拒否された。
するとアメリアとミエラが何故か一緒に寝ようと誘ってきた。
もちろん断った。
俺にはついているのだ。
何がついてるかは言わない。
まぁ、アレだ。
ちょっとそれは、と断るとすんなりひいてくれた。
【亜空間収納】からもう一つテントを出して、そちらで寝ることにした。
テントに入ってしばらくはアメリアとミエラの話し声が聴こえてきたが、すぐに聞こえなくなり、代わりに寝息が聞こえてきた。
俺も寝ようとしたが中々寝られないのでテントから出て火の前に座った。
外ではバレンさんが火の前に座っていた。
「寝られないのですか?」
「えぇ、まぁ。山の中では寝れたんですけど。」
「それでは眠気が指すまでお話しましょうか。何か温かいものでも飲まれますか?」
「折角ですし、お願いします。」
カップに入った白湯を飲みながらしばらくバレンさんと火を挟んで話した。
するとバレンさんはある事を言った。
「シド様、少し質問をしても?」
「えぇ、何ですか?」
「それでは…。シド様は、何故、どのようにして、この世界に来られたのですか?」
火が小さき爆ぜる音がし、俺とバレンさんの顔が照らされた。
思わず息を呑んだ。
「ッ…、そう思った根拠は…?」
「色々ありますが、一番大きかったのはその魔力です。助けていただいた時に見えた底の見えない魔力量、純粋な魔力、ここまで澄んだ魔力はこの世界にはありません。」
「…最初からわかってましたか…。」
「心配はいりません。なにせ私も転生者ですから。」
…え?
今この人なんて言った?
転生者?
バレンさんが?
今は素で情報処理が追いついていない。
「それは…どういう…?」
「そのままの意味です。私はもともと日本で剣道の師範をしていましたが、享年98歳の大往生でした。眠っていくように死に、次に目を開けた時には赤ん坊となっておりました。」
自然の転生者も稀にいると言うわけか?
(リーヴ、バレンさんのような人は多いのか?)
『とても少ないです。地球で死亡した人間がランダムで転生します。ちなみに、マスターのようなパターンは初めてです。』
つまり俺は人類初めての神の犠牲者というわけだ。
笑えない。
「シド様はどのようにしてこの世界に?」
「私が来たのは…」
そこからはアヴェルとシェルに語った説明を同じようにした。
バレンさんは困ったように苦笑した。
「それはそれは…私よりももっと大変でしたね。」
「それほどでも。ちなみに、この話をアメリアやミエラには?」
「していませんし、話す気もありません。今の私はただの執事ですので。もちろん、シド様の事も言いませんのでご安心ください。」
「ありがとうございます。それではそろそろ寝ます。バレンさんは…?」
「私なら大丈夫です。どうぞ、ご安心してお眠りください。」
「ありがとうございます。おやすみなさい。」
そう言って俺はテントに入った。
毛布を被って目を瞑ると、気づけば寝ていた。




