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神様の慈悲  作者: 河藤
第二章 グランテスト大国へ
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第11話 契約

その後も下山を続けたが、ブラッドウルフ以降魔獣には遭遇しなかった。

途中で昼食を取りながらも下山を続けたが、この山を下りるだけでもあと2、3日はかかりそうだ。

そこから平原の道に出てグランテスト大国まで歩いて6日ほど。

中々に長い。

全力で走ればすぐに着くだろうが、どうなるのかわからないし、ゆっくり行きたいということもあって歩いていく。


「そろそろ日が暮れてきたな…。」


空は茜色に染まっていたが、しばらくすると薄暗くなってきた。

必要な荷物は全て【亜空間収納インベントリ】に入れてあるから普通よりはだいぶ進んだ方だろう。

少し横に逸れて野営の準備をする。


「【光球ライト】。」


魔力で出来た光源が辺りを照らす。

光源を頼りに周りを片付け、道中集めた木の枝をまとめて、火魔法で火をつける。

創造クリエイト】でテントを作り骨組みから立て上げて火の前に腰を下ろす。

今思えば穴ぼこになった平原の家のように【創造クリエイト】で小屋を作れば良かったのかもしれない。


「さてと……。」


地面に腰を下ろして【亜空間収納インベントリ】から一本の刀を取り出す。

創造クリエイト】で作ったものだ。


「そろそろ出てきたらどうだ?」


俺は誰もいないの暗闇に向かって声をかける。

するとそこからガサゴソと音を立てて1人の男が出てきた。

短い髪は黒く、身長は170cm後半だろうか。


「気づかれていましたか…。」


男は少し気まずそうに笑う。

ブラッドウルフとの戦闘後に、その戦闘で得た【気配察知】と【魔力感知】を使ってみると、近くに人がいることがわかった。

俺が移動するとその気配も追うようにしてついてくるので、落ち着くまで声をかける機会をうかがっていたのだ。


「俺に何か用かな?」


刀を持ちながら聞く。

マップ上では青丸だが、いつ襲ってくるかわからない。

男が両手を上げながら苦笑する。


「敵意はありません。あなたの力を見てお願いがあります。」


「なんだ?」


すると男は俺に向かって跪き、続けざまにこう言った。


「どうか、創星龍様をお助けしていただきたい。」


「創星龍?誰だそれ?」


とりあえず男を横に座らせて刀をしまう。


「お話させていただいても?」


「あぁ。まずあなたは誰だ?」


「あぁ、申し訳ありません。私はドラゴンのシェルと申します。今は【人化】を使ってこの姿になり、創星龍様のために動いております。」


「そうか。俺はシドだ。ところで、ドラゴンが出てくると言うのなら俺はシェル、もしくはその創星龍様のテリトリーにお邪魔してしまったかな?」


基本的にドラゴンは自分のテリトリーに人間が入ってこないと人界と干渉することは無い。

稀に若いドラゴンが自ら人界に赴いて邪龍のように暴れまわるらしいが、それは本当に稀らしい。


「いいえ、昔は私も創星龍様もそれなりのテリトリーを持っていましたが、今では無いも同然です。創星龍様は今でも全てのドラゴンに慕われておりますが、昔の邪龍との争いで深手を負い、ドラゴン達の前から姿を消し、今はここで自分の傷を治す方法を探しております。」


「そして今日、俺を見つけた、ということか。」


「はい、シド様の溢れ出る魔力ならば、創星龍様の傷を治すことも可能かと思われます。」


今のシェルの発言から考えると、俺の魔力はダダ漏れ状態なのか。

引っ込めよう。


「確かに、俺は魔力が多い。しかし、それでどうにかできるものなのか?」


「はい、それに関しましては、創星龍様が新たに作られた回復魔法があります。しかしこの魔法はあまりにも魔力消費量が多すぎるのです。傷を負った創星龍様にも、私にも使えません。しかし、シド様の魔力量なら使用が可能なのです。」


なるほど、しかし、それだと俺にメリットが無くないか?


「その傷を治したとして、俺にメリットはあるのか?」


「それでしたら、創星龍様に捧げられてきた宝物をお渡しします。ですので、どうか頼まれてはくれないでしょうか。」


宝物か。

【時間魔法】を使えば多少は古びていても元の状態に戻すことが可能だろう。

え、【時間魔法】の封印?

知らんよそんなもの。

錆びたお宝を貰ったって意味は無いだろう?


「わかった。治す事を約束しよう。」


「ありがとうございます。」


「じゃあ、早速その創星龍様の所に行こうか。」


俺は立ち上がって野営の用具を片付ける。

立てたテントは【亜空間収納インベントリ】にポイっだ。


「今からですか?」


驚いたようにシェルが言う。


「ん?あぁ、早い方がいいだろう?俺のことなら心配無い。」


「わかりました。それでは向かいます。私についてきてください。」


火を消してシェルについていく。

移動を始めてから30分ほど歩いたところで急に目の前がひらけた。


「創星龍様、シェルです。今帰りました。」


月明かりが辺りを照らす。

そこにいたのは20mはあるだろう大きなドラゴンだった。

しかしそのドラゴンは、立派な翼には所々穴が空き、鱗は剥がれ落ち、肉は爛れるように剥き出しになっていた。


「あぁ、シェルか。して、そこの人間はなんだ?まさか…。」


「はい、そのまさかです。彼の魔力量は底が見えません。」


創星龍が俺を見つめてくる。

大きな目の瞳は金色で、月光を受けて輝いている。


「シェルよ、しばらくこの者と2人にしてもらっても構わぬか?」


「はい、わかりました。それでは、私は夜の準備をして参ります。」


そう言うとシェルは森の中へと消えていった。

創星龍は俺に向き直り話しかけてきた。


「まずは、こんな老いぼれの願いを聞き入れてくださりありがたく思う。」


「いえ、こちらこそお初にお目にかかります。私はシド・テンペスト・シリウスと申します。」


「うむ、我は創星龍アウォロヴェインと申す。」


そう名乗ったアウォロヴェインは俺の魔力を見るかのように目を動かす。


「シェルの言った通り、本当に魔力の底が見えぬな…。」


まだ俺の魔力は抑えきれていないようだ。

もっと内に引き込むようにしてみる。


「それでは本題に移りましょう。私はあなた様が作られた回復魔法を使えばよろしいのでしょうか?」


「うむ、そうだが…。まずこのような畏まった話し方はやめないか?どうも話しづらくて気に食わん。」


「俺も同じような事を考えていました。」


どうやら向こうさんも同じ事を考えていたようだ。

アウォロヴェインが尋ねてくる。


「お主の魔力の反応はこの山の上から下りてきたが、一体どこから来たのだ?」


「…。信じてもらえるかわからないが、俺は転生者なんだ。」


そう言って俺はアウォロヴェインに今までの経緯を話した。


「ふむ、女神のミスか。ならばその魔力量も頷けるわい。」


「で、俺ならその回復魔法を使えるのか?」


「うむ、問題無く使える。少し頭を出せ。」


言われるがままに頭を出すとアウォロヴェインの爪が頭に乗った。

すると新しい魔法の術式が頭の中に入り込んできた。


『【回復魔法Lv.1】を会得しました。』


これで俺も他人を回復できるようになったわけだ。

だが、今アウォロヴェインから渡された魔法は普通の魔法とは違う術式のものだった。

俺の考えを読んだかのようにアウォロヴェインが教えてくれる。


「これは我の身体をベースとしたものだから、普通の魔法よりも効果は高く、魔力消費量も多いのだ。」


やはりドラゴンは特殊らしい。


「だが、1つ疑問がある。」


「我にか?なんだ?」


「なんであなたは自身の傷を癒そうと思った?」


俺が見た限りではもう痛みはなさそうだ。

昔の対邪龍戦でも活躍して、他のドラゴンからも慕われている。

では何故、こんな所で隠れるようにして待っていたのか。

他のドラゴンの手を借りれば傷だって癒せたのではないだろうか。


「やはりそう思ったか…。」


「まあな…。で、どうなんだ?」


「うむ…お主は最近この山に出た邪龍の事を知っているか?」


知っているも何も俺の目の前でカトルが瞬殺したけど?


「あぁ、知っている。」


「今、各地であのような事が起こっている。」


「あのような事、と言うと、つまり…。」


「邪龍が頻繁に出没している。そして最近出没したものには共通点がある。」


「共通点?」


何かあったのだろうか?


「邪龍の脳に剣が刺さっておるのだ。しかもただの剣ではない。精神異常をきたす魔剣だ。」


「それが邪龍の脳に?」


「うむ。」


「…ちょっと待ってくれ。確認してみる。」


「確認?」


困惑するアウォロヴェインを前に【亜空間収納インベントリ】から邪竜の死体を出す。


「まさかこの邪龍はお前が…?」


「いや、これは俺のメイドがやった。」


そう言って邪龍の頭を確認する。

確かに頭の頂点に何か刺さっている。

手を突っ込んで引き抜いてみる。

引き抜いたそれは、何か暗い魔力を放ちながら怪しく光る剣だった。


「これが魔剣か?」


「うむ、間違いないな。その魔剣は持っているだけでは大丈夫だが、刺される、又は斬られると精神に異常をきたす。」


『魔剣の危険性により、スキル【精神・状態異常耐性】を会得しました。』


状態異常耐性には毒も含まれるのだろう。

どんどんスキルが増えていく。

ステータスのスキル欄が見にくくなってきた。


「これが多くの邪龍の頭んい刺さっている。」


「誰が何の目的で…。」


「そこで提案がある。」


「提案?」


「うむ。おそらくこれは裏で何か(・・)が動いている。暴れる邪龍の頭にこんな物を刺せる程強大な何か(・・)が。我の目的はそれらの動きの阻止だ。これらはおそらく人界にも害を及ぼす。」


「そういうことか…。つまり、あなたの利点は傷が癒える事、そして俺の利点は人界に害を及ぼす何か(・・)の阻止をあなたが手伝ってくれる。そういうことだな?」


「あぁ、そういうことだと。それを理由にお主と契約を行いたい。」


「契約とは…どんな?」


「従魔契約だ。我がお主の従魔となろう。」


従魔といえばアレか?

普通なら魔法で召喚して従えるやつか?


「ドラゴンのトップがそんな簡単に従魔になっていいのか?」


「お主の従魔となれるのなら我も願ったりだ。いいだろうか?」


「……。わかった。契約しよう。」


「ありがたい。それでは準備をしようか。【人化】した方が契約はしやすいだろう。」


するとアウォロヴェインの身体が光り、それが収まると白髪の男が立っていた。

身体中傷だらけだが、瞳は金色に輝いている。


『創星龍アウォロヴェインとの契約のため、スキル【契約】を会得しました。』


「お主は契約の手段を知っているか?」


「あぁ、今入手した。」


「入手?まぁ良い。手を出してくれ。」


「あぁ。」


俺とアウォロヴェインが手を向かい合わせると、その間に魔法陣のようなものが出てきた。

しばらくすると魔法陣は消え、そこには2つの金色の指輪が浮いていた。

片方には俺の名前が、もう片方には何も書かれていない。

急にアウォロヴェインは頭を下げてきた。


「契約は果たされました。主よ、我に新しき名を。」


畏まったように言う。


「名前をつけ直すのか?」


「別に今のままでもいいんだが、呼び名が変われば生まれ変わったも同然というものだ。」


「そう言うものなのか…。」


さぁ、どうしようか…。

名付けなんて一世一代だぞ。


「今までと似たような名前になるけど、それでもいいか?」


「構わぬ。」


「じゃあ、名前は今まで通りアウォロヴェインだが、呼び名はアヴェルでどうだ?」


「アヴェル…承りました。これより我はヴェルと名乗らせていただきます。」


すると名がまだ刻まれていなかった指輪に「アヴェル」の名が刻まれた。


「それは従魔契約で得られる指輪だ。それを使えば離れていても思念を伝達することができる。」


テレパシーみたいなものか?


「じゃあ、そろそろ回復魔法をかけようか。」


「あぁ、頼む。」


アヴェルに手をかざし、先ほどの回復魔法を使う。

するとヴェルを中心に魔法陣が描かれ、アヴェルの身体が光り始めた。

傷があった場所が光り、それが収まると傷が塞がり、爛れていた皮膚も元に戻っていく。

しばらくすると、アヴェルの身体の傷は全て癒えていた。


「おぉ、本当に傷が癒えている…。自分で作った魔法だがここまでとは…。」


驚くアヴェルを見ていると電子音声が頭に響いた。


『行使により、【回復魔法Lv.ー】を会得しました。』


これは重宝しそうだな。

するとそこにシェルが帰ってきた。

帰ってくるなりシェルは目を見開いた。


「あぁ…本当に…本当に傷が癒えたのですね!」


そうしてシェルとアヴェルと俺での祝会が始まった。

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