2.砂の果実。 それぞれの結末。 4
◆ボウモアとラーダンモール ……ウキハが王都に進路変更した直後。
「おお、おお、待っておったぞ。で、どうじゃ?果実は手に入ったのか?」
熱砂の国サザの国王は、駆け引きも策略もなく、自身の願望を口走った。場所は王都の玉座の間。砂漠の都らしく、乾いて砂っぽかった。豪華な調度品が立ち並び、サザの中枢が集まる前で、初老の国王はそわそわと浮き足立っていた。
「どうじゃ?もったい付けるでないぞ、エバーグリーン。こうしている間にも崩落に見舞われるかもしれん。」
国王にエバーグリーンと呼ばれたその女性はにっこりと微笑んだ。2メートル近い長身の女性だった。驚く程美しく、芸術的なバランスを持つ女性だった。真っ白い肌の上を若葉が覆っていた。そこここに花が咲き、蔓がうねり、鳥達が生命を歌っていた。若くはないが、老けてはいない。活力に溢れ、緩やかなラインが女性としての美を誇っていた。彼女は老王の望む答えを返した。
「果実とその力を手に入れましたよ、国王。今、此方に向かって居ます。あなたも準備を進めて下さい。ボウモア!画像を。」
国王に対し、対等の口をきくその美しい女性はクレイフを苦しめた霧のボウモアに命令した。白く若く美しくボウモアは、しかしエバーグリーンの前では、幼く見えた。ボウモアは命令に従う。片膝をつく彼女は右手をかざした。背後に大きなスクリーンが現れ、映像が映る。浮上した浮葉だ。
「果実によりコントロールされたウキハは今、王都へ向かっております。全ては我らの支配下にあります。」
ボウモアは簡潔に報告した。遠視の術により映し出されたウキハは、悠々と砂漠の上空に浮かび、王都に向かい移動していた。サザも配下の呪術師によりウキハがこちらに向かっている事は把握していた。永遠の女王は、言葉を継ぐ。
「果実のマイトが強く、ウキハ内部の詳細まで見せる事は出来ぬが、クレイフを沈めてかの濁眼の聖騎士を始末した事実で十分だろう!サザよ!これは取引だ。我らは兵士を望む。そなたは果実を、不落の大地を望んだ。大地は引き渡す。そなたの国民と引き換えだ。断るのであれば、別の国と商談を行う。」
美しく……外見を裏切る……不動の気迫で、エバーグリーンは告げた。畏怖の念を悟られないように芝居を打つサザはしかし、ただの道化師だった。
「も、もち勿論だ。既に、集めておる。見るがよい。」
今度はサザが臣下の呪術師に映像を出させる。王都の映像が映る。兵士が、街人が色々な場所に集められていた。
「約束通り、国民を集めた。徴兵するがよい。王都の封印は既に解いた。ラーダンモールの入国を許可する。彼らの命は預けた。好きにするがよい!我らは王族のみで不落の大地で新しい王国を築く。」
エバーグリーンはゆったりと微笑んだ。
「ありがとう。サザ。流石は当代切ってのウツケモノだ。」
サザの笑顔は引きつり、ボウモアは微笑んだ。
◆
「女王。このまま、王都に隠れ、クレイフの死に損ない共を全て始末するオプションを提案したいのですが。」
サザの玉座の前で、片膝を付き頭を垂れる霧のボウモアは女王に嘆願していた。永遠の女王はサザの玉座に座り、退屈そうに長く美しい脚を投げ出していた。作戦を完了させたばかりの指揮官らしくもなく、頬杖を突いたまま、つまらなさそうに答える。
「撤収。そこがあなたの駄目なところ。果実の力は強大よ。目覚めてしまっては我らのような一般人では手に負えない。血脈を持つ者でなくては、コントロール出来ない。それが出来るのであれば、取引など必要ない。違うか?目的は達した。引き時だ。」
言葉が消えると共にエバーグリーンは緑の蔦で全身を覆い、そのまま縮んで消えた。玉座は即座に空になる。美しいボウモアは顔を上げることなく、大きなため息をついてから霧となり、消えた。
この瞬間、サザと彼女達の取引は正式に成立し、余分に消えてしまったサザの王族達は、「次の来客」が始末した事となった。
……そして、熱砂の国の玉座の間は無人で、ただただ、乾いた風が砂を転がすだけとなった。




