2.砂の果実。 ウキハ。 3
最初に叫んだのは、彼らではなかった。果実を守ろうとするタマウやコットスでもなかった。ボウモアや彼女に捕らわれたハルでもない。ハルを恨む街のチンピラが叫ぼうとしたその時、誰かが叫んだ。
「崩落が!巨大な崩落が始まったぞ!!」
ウキハが震え傾き始めた。ウキハ最奥の果実の部屋は混乱を極め、誰が何の為に叫び騒いでいるのか解らなかった。ウキハが揺り戻す。人の上に人が重なり踏みつけ突き飛ばし、怒鳴りあった。混乱が人々の意思を押しつぶして自動で暴れ回る肉人形に変えてしまった。何かに裏打ちされた強靭な意志を持つ者以外は。彼らはその全てを賭けて行動する。
コットスはその力……マイトの流れを止めてしまう力……を解放しようとして、タマウが傍にいることを思い出し力を使えなかった。ボウモアはコットスの逡巡を悟り、その一瞬でハルを踏み台にして果実に飛びかかる。タマウは叫び、コットスはボウモアを抑え込む。
「果実よ!!私に力を!!」
細く痩せたタマウの声とは思えない、腹の据わった王族の命令が響き渡った。ウキハは震え、揺れて……沈み始めた。果実に光は戻らない。
「果実よ!」
タマウの声が動揺で揺れて震える。果実に反応が無い事はコットスをも動揺させた。ボウモアは笑い、赤熱する光玉の術を使った。コットスの胸が爆発した。人肉が焦げる匂いが湧き上がる。コットスは崩れ落ちて、タマウは振り返る。混乱し這いずり回る人々を背景に彼ら戦っていた。それぞれの望みを手にする為に。胸から煙りを上げるコットス、美しい銀髪の女性と起き上がろうとするハル、瞳が落ち窪み狂気に取り憑かれた街人。それは咄嗟の行動だった。果実が目覚めない事よりもコットスが倒れて行くことよりも、彼女は人の上に立つ事を義務付けられた人間として、一番弱い者を守ろうとした。
「ハル!」
タマウはハルに覆い被さり、ハルを背後から突き刺そうと小剣を翳す凶人に裏拳を打ち込もうとする。凶人は全てを気にする素振りも見せず、小剣を振り下ろした。悲鳴が上がり、コットスを失神の際から引き戻した。タマウの悲鳴だ。コットスは、覆い被さっているボウモアを渾身の力で蹴り上げる。
「光の槍よ!」
ハルは何者なのかも思い出せ無いそのチンピラに向かい術を放った。コットスは立ち上がり、ボウモアは天井に叩き付けられ、チンピラは胴体が無くなって絶命した。タマウはよろけて、果実の台座にぶつかりしがみついた。口からは悲鳴が上がり続け、その右腕は切断されて床に落ちてた。
「……ぁ、あ。あああああおああっっ!!」
タマウの腕からは血がこぼれ、溢れている。ハルは駆け寄る。コットスは、天井から床に落ちてきたホランに止めの一撃を打ち込もうと拳を固めて……
「ホラン?」
呆然となった。そこにいるのはホランだった。ボウモアでは無い。命の際で、震えながらホランは唇を開く。
「貴様が殺したんだよ、事務屋コットス。」
ボウモアの声。
「ザマァミロだ。私がホランに化けているとでも思った?ねぇ?馬鹿じゃないの?そんなわけねぇだろ!ふははは!すっきりしたよ。一旦、引き下がるわ。ウキハはもうすぐ崩落に呑まれて貴様は死ぬ。その後でゆっくり果実を探すわ。ふふ。はははははは、は……
そこで声は止まりホランは動きを止めた。ボウモアの術は解けて、ホランに乗り移っていた彼女の魔力は遠ざかった。
「ホラン。あ、ああ。」
声にならない叫びを上げて、コットスはひび割れた天井を見上げた。何だこれは?どうしてだ?何がどうなっているのだ?ホラン!ホラン!彼の目が見開かれ、狂気がその表情を覆う。また、大きくウキハが揺れる。人々は絶望して叫んでいる。ハルは必死に止血の術を施すが、タマウは失血で意識を失いそうになっている。その目は虚ろだ。
そして……ウキハは揺れて、崩落は大口を開ける。果実を巡る物語は今、終わろうとしていた。




