2.砂の果実。 ウキハ。 1
ウキハが崩落に包まれる前、濁眼の聖騎士が奈落に堕ちていく少し前に、ハルがウキハに到着したその瞬間に、話を戻す。
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「ホラン!!みんなはどこ!?」
クレイフからここまで走り通しで汗だくになっているハルは叫んだ。あちこち怪我をして、泥まみれだった。それでも彼女には正常な活力があり、元気な赤髪も愛らしいアーモンド型の瞳も、その魅力を減じていなかった。ハルが叫んだ先、ウキハ正門の上部にある見張り台にホランはいた。待っていたのだ。ハルと天為を。
「ハル!案内する!左手の洞穴入り口から上がって来い!コットスさんもいる!」
ハルは頷き、洞穴に入った。ホランは表情を曇らせた。天為がいない……天為は駄目か?ホランの中に嫌な予感が広がった。幾ら何でも天為がハルより足が遅いなどと言うことはない。そして、先程の大爆発。だがここで考えていても意味がない。コットスさんからは、可能な限りハルと天為を助けるよう、指示が有った。可能な限り。今、選択肢は2つ。ハルを先にコットスさんの下に連れて行くか、ここで天為を待つか。
「待つわけにはいかないか。」
ホランは呟き、ハルを迎えに走る。
「ここは任せる。危険が迫るようなら確認し、引き上げろ!」
ウキハ正門上部に同じく配置されているギルド員にそう命令してホランはウキハ内部に駆け込もうと……振り返る。仲間が倒れていた。その横には、既に。
「ラーダンモール!!」
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「ホラン!」
ウキハの階段を駆け上がりながらその姿を認めたハルは叫んだ。ホランは厳しい表情だ。
「ラーダンモールが侵入した!コットスに知らせなくては!」
二人は立体的な交差点で合流した。ホランが降りて来た階段、ハルが登って来た階段以外に水平方向に二本洞穴が延びている。一瞬、間があった。ハルは苛ついた。すぐにでもコットスのもとへと案内するのかと考えていたが、ホランは何かを待っているようだった。何か……焦っている??気の短いハルは叫んだ。
「ホラン!急いで案内して!鯨が暴れてて、多分、濁眼の聖騎士もラーダンモールの背後に来てるわ!天為が今、時間を稼いでるの!」
「あ、ああ。知っている。ラ、ラーダンモールも地下から……
ホランの煮え切らない態度にハルが気合いのこもった一言を放とうとした時、別の洞穴からギルド員が駆け込んできた。
「ホランさん、下はもう駄目だ!コットスさんに伝えてくれ!かなりの数のラーダンモールがウキハに侵入しようとしている!」
ギルド員に対するホランの対応は早かった。ハルが驚く程の……そう、いつも通りの……対応だった。
「貴様が報告しろ!私は下を見て来る!貴様はハナをコットスの所へ連れて行って、状況を報告するのだ。急げ!時間がない!」
ギルド員の返事を待たず、ホランはギルド員が来た方向へ駆けていった。残された二人は、ホランの指示通りにウキハの最深部、果実が待つ部屋へと向かった。ハルは走りながら、どうしても気になり、振り返った。ホランの姿は既に洞穴の闇に消えていた。
……何だろう?
天為なら気付いただろう。だが、彼女は気付かない。ハルは何かもやっとする感情を飲み込めないまま、でも、走り続けた。
……そして、その時、果実は待っていた。ウキハ最奥の部屋で。使い手が現れて自身に命令を下すことを。




