2.砂の果実。 告げ鳥。
……きぃぃぃん。
澄んだ鐘の音のような御御鳴りが彼らの頭の中に降ってきた。それ以外の音は世界から消えた。濁眼は一瞬戸惑ったが直ぐに思い当たり、ぎぃぃぃと笑ってから空を見上げた。天為と高坂もそれに気付いて、天を見上げた。
砂漠の雲一つない、本当に雲一つない晴天の中に黒い点がひとつ現れた。点は高い高い空に位置して、それが何であるのか確認出来ない。だが、点は、ゆっくりと降りてくる。ゆっくりと螺旋を描きながら。やがてそれは、翼を持つ鳥の姿であることが確認され、ついには、梟であることも視認出来た。
異形の梟。
天空から御御鳴りと共に降ってくるそれは、異形だった。体長5メートルはあろうかという大きな梟である事が異形を感じさせるのではなかった。身体全面全てが人面になっているのだ。嘴のように大きく鋭い鼻と梟と同じくオフセットされた耳……ただし、人の耳だ……や大きすぎる瞳と口、全てが完全なバランスで異形を形作っていた。異形はついに、ウキハの高台の上に、彼ら3人の運命の前に降り立った。鳥そのもの仕草で毛繕いをしてから……それは、告げた。
……ワ、ワ、ワー、ワレハ、ツゲドリ。ホシカミノツカイマニシテウンメイヲツゲルモノナリ。
甲高く抑揚のない、意味を理解しない者の言葉だった。ざわざわと精神を逆撫でてすり減らす、狂気の声だった。
ワレハツゲル。
ラコルムレストニアイマミエルベシ。
ソナルモノニエッケンセヨ。
ココウノカリュウドヨ。
セカイヲルロウシローランドニデアウベシ。
トリヲウツモノヨ。
サダメノママニセカイヲルロウセヨ。
ワレハツゲドリ。
セカイノウンメイヲツゲルモノナリ。
告げ鳥はにっこりとほほえんだ。同時に御御鳴りは終わり、世界に音が戻った。告げ鳥は最後に挨拶した。
「それでは皆さんご機嫌よう。」
そこだけは完全に流暢だった。ついで、
「どーん。」
と言って、告げ鳥は爆発した。血や肉や骨。皮や体毛がまき散らされて、彼らを汚した。悪臭が漂う。天為と高坂は爆発に吹き飛ばされて、高台の上を転がった。濁眼の聖騎士は両腕で顔を庇い、その場に踏みとどまった。
「久し振りだが、相変わらずの狂気だ……
足元がひび割れ、砕けた。濁眼が何が起こったのか理解するより早く、大地は震えて、彼を振り落とした。濁眼の聖騎士は高台から落ちていく。
……ち。殺し損なった。だが、まぁ、
濁眼の聖騎士は落ち着いていた。高々、ウキハの高さは500メートル。落ちた所でどうという事はない。下から潜入するだけのことだ。砂の果実はいただく。彼は落ち着いて、身体を捻り着地に備えて……不遜。それだけが彼の弱点。治る事は無さそうだ。落ちた瞬間であれば、何とでも出来た。だが、今はもう遅い。
……お。おおおおおお。
濁眼の不遜の唇から、うなり声のような音が漏れる。彼が着地しようとしていた大地は無くなっていた。崩落が全てを呑み込んでしまったのだ。彼は砂漠の底に向かい、奈落に向かい落ちる。大地の大穴に落ちて行った。
……お。おおおおおおおおおおおお!!!
そして、濁眼の聖騎士、クォの大天使、無名……ありとあらゆる名で呼ばれる、世界最凶の名も無き者は落ちて行った。二度と戻ることの出来ない奈落に。




