2.砂の果実。 決戦。 7
……ふわり、とその古刀は舞い上がった。
落魂で焼き尽くされ、崩落の波に飲み込まれつつある大地の上に、唯一残された存在。それは、完全世界以前から伝わる古い古い刀であり、その刃は魂を喰らう。純粋な魂を天から呼び落とし全てを凪ぎ払う落魂では、破壊する事の出来ない刀だ。濁眼の聖騎士は、それが、呼雪が舞い上がるのを魂のみを写す瞳で見つめていた。余りにも軽やかに舞い上がった為、彼は呼雪が……そんな筈は無いのに……砂漠を渡る風に舞い上げられた、と考えた。ふわりと、ひらりと。
だが、その古刀は天為の手に握られていた。魂を無限に拡散させ、世界と融合を果たした天為の姿は魂だけを見るその濁眼では捉えられなかった。そもそも、落魂を受けて生き残るものなどいない。彼が許可した者以外は、生き残る事など出来ないのだ。だが、呼雪がそれを可能にし、心頭滅却が天為の存在をクリアーにした。濁眼の聖騎士は気づかない。落魂で焼けない存在など、この地上には無いのだ。濁眼の聖騎士こそが、神無のこの世に降り立った、新しい絶対者なのだ。そう、信じていた。
……だから、濁眼は気付かなかった。その傲慢故に。
天為はふわりと中空に漂い、見るとも無しに、世界を、濁眼の聖騎士を、ありとあらゆるモノをその意識の中に、捉えていた。呼雪は驚く程、長大に伸びていた。刀身は5メートルを超えていた。天為は春の午後の旋風のように穏やかに渦を巻き、呼雪を振るった。その太刀筋は音もなく世界の隙間を縫って、寸断する。
「宙に舞う刀……
落ち着き、世界に話しかける濁眼の聖騎士の顔面に呼雪の剣筋が到達する。
ぴっ……
彼の顔に真一文字の血の筋が立ち、濁眼が見開かれる。絶叫が響き渡った。先程の鯨の怒りの咆哮を遥かに凌ぐ……それは、爆発にも似た叫びだった。




