2.砂の果実。 決戦。 3
……ぎいぃぃぃぃ。
濁眼の聖騎士は笑った。その独特の笑い方で。寧ろ、微笑んでいると言っても過言ではない。彼は上機嫌だった。人々がどれだけ命を投げ売っても敵わない存在と対峙する事が嬉しかったのだ。そう、この瞬間こそ、イキテイル。生きているのだ。
濁眼の聖騎士は両手を天にかざし、そして、振り下ろした。6本の長すぎる指のついた両手を。
頭部を切り刻まれた鯨は激痛に怒り、咆哮を上げながら聖騎士に向かう。叩き潰し、呑み込んで、切り刻むのだ。魂すら残さない……と、何かが鯨の横を通り抜けた。強烈な速度で落下する鯨よりさらに速くそれは大地に向かって落ちる。
九本の光の柱。
濁眼の聖騎士を中心にそれは着地した。そして、聖騎士に向かい渦を巻き収斂していく。砂漠の大地を削りながら、徐々に速度を上げる。光の九柱は遂に全て重なり、濁眼の聖騎士の上で一つの柱となった。鯨は光に貫かれている。
「落魂。」
天為が畏怖をもってその光の名を呼んだ。白濁した目や長すぎる6本指ではなかった。異形ではない。常人離れした剣捌きではない。12の無刀ではないのだ。彼が、神々の力を持つ者と呼ばれる存在である理由は。それは、この力だった。ヒトと神との境界線を曖昧模糊とさせる力。それがセンスだった。ノースラドで落魂と呼ばれ、中央大陸でソウルカスケードと呼ばれるこの力こそが、彼を濁眼の聖騎士としている根源なのだ。光の柱は収斂し、細い細い光の筋になり、消えた。鯨は既に濁眼の聖騎士に迫り、彼の頭が鯨の口に……ぎぃぃぃぃ。
爆発。濁眼の聖騎士を中心に、大地が爆発し、極焔の柱が現れる。直径5キロメートル。高さは雲を抜け、世界を貫いている。クレイフの街は震えて崩れ始める。崩落。再びの落魂がまた、街に崩落を呼んだ。次々と街は沈み、奈落に呑み込まれていく。深い深い深淵に。
永遠に続くと思われたその燃える柱の屹立は、唐突に終わった。濁眼が火を消したのだ。力の行使を止めたのだ。炎が消え去って、荒れた砂漠が姿を表す。彼の周囲5キロメートルは深さ20メール程、大地が抉られていた。そして、ボロボロと崩れ初めていた。いずれ、完全に崩落に飲み込まれるだろう。当然、鯨は消え去っていた。ラーダンモールの残党も消滅した。
「さて、以上かな。では、果実を受け取りに行こうか。」
孤高の狂人に相応しく、濁眼の聖騎士は世界に言い放ち、歩を進める。彼が到達すれば、ウキハは崩壊する。そう、彼は焼き尽くす以外の交渉術を持たない。
フィンドアの魔人に襲われていた時が平和とさえ思える恐怖がウキハを捉えた。決戦が始まる。




