2.砂の果実。 果実。 9
天為は足を止めた。その月色の瞳はここではないどこかを見ている。髪はぴんと跳ねている。我関せず。
「ハル。遠目は効くか?」
天為の問いかけに応えて、ハルは遠目の術を行使した。術を使い確認する場所は天為が指示した。ハルの術で作られた遠目が見た景色はハルの目の前の透明なスクリーンに映し出し出される。街の大噴水の直下を中心に蜘蛛の目状の地下道をハルの遠目が走る。
「どうした?」
コットスは不吉を感じて、言葉を発する。天為は軽く身振りでコットスを制した。
「ちょっとね。俺のマイトの外縁に何かが触れたんだよね。念の為、確認ってわけ。」
「天為。何を気にしているのか知らないが、今はウキハに急ぎたい。いつ戦いが……
先を急ぐコットスの言葉は途切れた。ハルのスクリーンにそれが、それらが映った。一瞬動揺したコットスだったが、直ぐに自制を取り戻した。
「ラーダンモールか。多いな。」
「消せ!ハル。」
天為がコットスの言葉に命令を重ねた。
「もう少し、状況を……
「消せ!!」
珍しく天為は叫ぶ。その意外に押されてハルは術を解く、が、遠目の術が消える瞬間……全てのラーダンモールが、一斉にこちらを向いた。感づかれたのだ。無色透明の遠目に気がついた?そんな事ってあるの?ハルの甘い疑問は放置される。
「……ま。行くか。」
もっと慎重に探すべきだった。しかし、もう遅い。今はとにかく逃げて、ウキハに知らせなくては。彼らは走り出した。
「ね、ねぇ。今のって、ウキハの地底湖にいたアレだよね?めっちゃ沢山いたんだけど……
かはははは。
天為は乾いた笑いを発した。
「だね。でも、あれで全部とはいえないし、あれの百倍がいるかもしれない。」
「おいぃぃー。」
ハルはへんてこりんな突っ込みをした。コットスは眉間に皺を寄せる。眉をハの字にする。理解出来ずにクエスチョンを頭上にかざす。
……なんだ?何なのだ?このチームは。
理解出来なかった。危険が迫っている。それも致死的な危険が。先のウキハでの戦いを忘れたのか?全員が死にかけたのだぞ?……あぁ?何だ?この楽観は?達観か?いや、どうでもいい。怖くないのか?自身の死が?夢の消失が?何だこの、上っ面を滑って……だが、あぁ、だが……目的に向かって突き進む感じは。
「あ、あれ?あたしにまで天為のへらへら病が感染しちゃったじゃない!」
ああ?何を言っているのだこの小娘は?そんな軽い話か?死ぬぞ?全てが失われる問題だぞ?何故だ?何故、意味のない余裕を見せ……かはははは。天為の乾いた笑いにコットスの思考は遮られた。コットスは苛立ちを抑えきれずに恫喝の言葉を……耳を疑った。コットスは。天為の言葉に。
「さぁ-!盛り上がって参りました!!」
だから、何なのだ!!苛立ちかけてコットスは……コットスはそう……
笑ってしまった。だって、そう、確かに。
……あぁ。確かに、盛り上がってきたな。
壁は、障害は、立ちはだかる。いつもだ。こっちの都合など、お構いなしに。そうだな。であれば、やるしかないのだ。まじめぶって、眉間に皺を寄せても意味はない。やるしかないのだ……であれば、盛り上がればいいのだ。確かに。オッシャルトオリ。
コットスは笑った。すかっと。




