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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第二章 砂の果実。
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2.砂の果実。 果実。 8

2.砂の果実。 果実。 8


 ゆるり、とストクフは薙刀を掲げた。それが合図だった。彼が率いて来た50名のホードはウキハに向けて駆け出した。その距離50メートル。ウキハに籠もるクレイフの街人達は、フィンドアの魔人の恫喝に屈する事はなく、戦いを選択したのだ。ガンウェルは死に、衛兵達は、街人に同化して消えていた。今、街を……いや、ウキハに籠もる街人を……守るのは、ギルド月雲。ホランが合図を送る。ギルドはそれを確認し、伝達し、動く。ウキハの影から無数の矢を投げかける。ホードが進む大地が陥没し、兵士を飲み込む。たった、僅か50名だ。どれだけ魔力を持とうと、悪魔を名乗ろうと、2000名の月雲を突き崩すことは出来ない。そう、今この時の優位を確保するためにコットスは昨晩の大混戦に参加しないように、厳格な指示を出していたのだ。その決断がガンウェルを殺すことになる可能性を承知の上で。

 ホード達は夜陰に乗じて、全てを滅ぼすべきだったのだ。それ以外に勝機はなかったのだ……と、月雲が傲慢にも増長して高笑いを発するその瞬間、全ては消えた。


 ……そこには誰も存在していなかった。


 全ては幻術。魔術を得意とするホード達に取っては朝飯前……まぁ、今は朝飯後だが……だった。実際の兵士達は、隠れ蓑を纏いウキハに突進していた。その位置は誰にも悟られていない……はず、だ、が。


 「うむ。良く見える。」


 高坂は、呟いた。熱を見る双眼鏡をかけた高坂は、構える。


 嶺渡ネワタを。


 引き絞ったネワタから音速の矢が放たれる。それは、完全世界からの致死の一撃。その一撃で数名のホードが倒れた。ネワタ、それは世界樹の幹から削りだした、奇跡の一張。材質を判断させない不思議な艶を持つその長弓に、続けて高坂は「藁」……直径3センチメートルもある、矢先が割れた矢だった……をつがえた。熱を感知する蛇眼のゴーグルをかけた高坂は息を止め、マイトを練り上げていく。それは、密度を増しながら嵩を減じて重く固く精錬されていく。そうして完成されたマイトを高坂はワラに込めて行く。


 ……初めて天為と対峙した時、ボウガンではなく、ワラを持ってたら……持っていたら、どうなっていたかな。天為は死んで、俺は亡者にとりつかれていたかな。廃都を抜ける事もなく……こんな砂漠の辺境にたどり着く事もなかったのかな。


 何だろう?ふと、高坂の胸を感傷がよぎった。感傷自体は悪くない。彼も人間だ。でも、何故?何故、突然、そんな事を思い出した?何がそれを連想させたのだ?嫌な予感がした。敗戦の恐怖が芽生える。それは、小さくとるに足りないが……ああ、大抵、始まりは小さくて看過されるのだ。が、


 ぎっ。


 小さな音を残し高坂はネワタからワラを放った。彼の精神の迷いなど取り合わずに彼の魂は、彼の身体はこれまでに積み重ねられた修練と経験をもとに戦いの勝機を逃さず反応して、動いたのだ。太い矢は隠れ蓑を纏った不可視のホード達に向かって飛ぶ。


 ぱしり。


 ワラははじけて割れて、百の矢となる。一つ一つは藁のように細いそれはしかし、高坂のマイトを纏い、致死の矢となり、ホード達に降り注いだ。ホード達は悲鳴も上げず、大地に縫い付けられた。8体のホードが倒れた。後続のホードが漸く反応し、物陰に体を隠そうとするがそれより早く高坂の三撃目が彼らを仕留める。


 「やるものだな。サザの民も。」


 ストクフは素直に感心した。だが、戦いの結末に変更はなかった。一晩クレイフに時間を与えたが、その間、ただ寝ていた訳ではない。フィンドアの魔人達も準備はしていたのだ。高坂は四度ワラを放ち、突撃するホードの殆どを仕留めて遂にストクフの一団に留めを刺そうとして……嶺渡ネワタを投げ捨てた。背後から、ホード達が、現れたのだ。その数、5対。それに対してここには高坂しかいない。


 「なる程。素晴らしい。よくぞ我々に気づき、攻撃を回避した。だが、命は貰う。せめて名を聞かせてくれないか?素晴らしき射手よ。」


 「まず名乗れ。魔人には礼儀がないのか?」


 高坂は返す。目の前のホードはふっと笑い答える。その表情には、高坂に対する好意が感じ取られた。


 「失礼した。我はフィンドア第三旅団落日の第二連隊隊長、ウーだ。」


 「俺は高坂。何でもない。ただの高坂だ。お前の肩書きは、覚えておく。機会があれば……墓石に刻んでやろう。」


 わははは、とウーは大きく笑った。そして、表情を消し、高坂に飛びかかった。丸腰の人間に勝機などない。


 崖下では再びストクフが薙刀を掲げた。それを合図に落日の生き残りが姿を表した。その数、300。ストクフの背後に現れた彼らの主力は矢を……高坂のワラは無理だが……滑らせる、水苔の術をかけられていた。ウキハからの矢はホードには届かない。彼らは矢の雨の中を突撃し……そして、ウキハに到達した。


 日はまだ中天には届かず、光は優しい。昨日であれば、日は高く登り世界は厳しく、平和な光に抱かれただろう。だが、それは、昨日。今日は違う。日輪は届かず、大地は砂塵と戦煙に包まれ……不穏と不幸が覆い尽くし……今、常闇に沈んで行くのだ。





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