2.砂の果実。 果実。 7
夜が明けた。砂漠の街クレイフはその姿を晒す。ウキハから眺めるその姿は、昨日までのそれと大きく変わらないように見えた。だが、そうではない。街のあちこちで石で出来た家が崩れていた。街のあちこちに死体が転がっていた。長い間、この街を守り通して来た熱砂騎士団の砦には昨日までの主は居らず……あぁ、彼はこの世界のどこにも居ない……代わりに悪魔のような姿の侵略者が陣取っていた。街を街として存在させていた人々は、もうそこには居ない。
……寂しいものだな。
高坂はウキハの最上段で、鳶よりも鋭いその瞳でクレイフを眺めていた。そこからは全てが見えた。夜があける様も、死にかけた街の姿も、忌々しいラクコンの傷跡も。そして、ララコの呪いで滅びようとしている遥か彼方の国から現れた魔人の軍の隊列も。直にウキハに到着するだろう。さて、何を要求するのか。それ次第では、戦いが始まる。今度は昨夜のような混戦ではなく、由緒正しい攻城戦になるだろう。
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「我はストクフ少将!フィンドアの第三旅団“落日”の旅団長だ!この国を奪いに来た!この街はその足掛かりとなる!街の統治者はおらぬか!」
羊魔の姿でストクフは告げた。彼の薙刀が朝日を刻む。風は無く、声は良く通った。彼の背後には50名程の兵士が控えていた。ウキハの正門の手前、50メートルの位置にホード達は位置どっていた。
「夜襲をかけた後に名乗りを上げるとは、フィンドアには恥の概念が無いのか!統治者はおらぬ!昨夜全て死んだ!早くも忘れたか!貴様たちが殺した!」
正門の上部に有るベランダ状の棚台からホランは叫んだ。名乗りもしない。ストクフはホランを統治者と見做して、続ける。
「我々はこの国を奪う。逆らえば命は無い!従うのであれば、奴隷として生かしておく!最初の命令だ!まず、創国の宝殊“砂の果実”を引き渡せ!1時間以内にだ!」
ホランは返す。
「砂の果実など無い!ただの伝説だ!ここにいるのは街人だけだ!戦う意志も無い!国が欲しければ、王都に向かえ!どれだけこの街を荒そうとも、国は手に入らんぞ!」
「二度は言わぬ!1時間以内だ。逆らえば、命は無い。無力な子供で在ろうと、例外は無い!」
ホランは思わずニヤリとする。まぁ、有能だ。コットス程ではないが、いい指揮官だ。嫌いでは無い。
「街人とて殺されるとなれば、命を懸けて応戦する!そちらも、無傷ではすまない!無益だ!去れ!此処はただの田舎街だ!価値は無い!」
ホランの応答にストクフは応えず、踵を返して、引き下がった。ストクフは声の主がどこの誰だか知らなかったが、ただ者ではない事は察した。恐らく、果実は渡さないだろう。まぁ、いい。皆殺しにして、死体の中から、探し出すさ。彼らは100メートル程後退し、そこに陣を張り……1時間後の戦に備えた。




